003.人魚の声を聞いた

 回復に1番の近道。それは間違いなく食事だと思う。栄養が無ければ、回復できない。




 人魚って何を食べるのだろう。単純な疑問だった。




 スマホを使って調べる。もちろんそんなものは載っていなかった。




 参考にならないので、人魚を題材にした物語を軽く読んでみた。




 物語では雑食というふうになっていた。あるものは魚、肉、最悪なもので人間を食べる人魚までいた。




「ヒヒー…」




 僕は寒気がした。人魚の方を見る。




 僕は息をひとつした。冷静になる。




 尻尾があるとはいえ、つくりはほとんど人間と同じだ。息もするし、鼓動もある。




 うん、大丈夫。きっと、食べられない。




 人魚は熱を出している。そんな時は食欲もきっとないだろう。




 僕は、冷蔵庫からフルーツゼリーを取り出した。スプーンも一緒に持っていき、ベッドの隣にある小さな机の上に置いた。ゼリーならば、熱があるときでも食べやすい。




 気づいた時にはすっかり夜だった。窓の外には月が浮きあがっている。




 あー、今日は疲れた。いろいろなことが起こりすぎて、あー、眠い、ねむい、……。




 僕はベッドのそばで座り、ベッドに上半身だけを預け、うつ伏せになっていた。




 目をなんとか開ける。人魚を看ておかないと、という意志があるからだ。




 だけど、……ダメだ、寝てしまう。




 目の前にはきれいでツヤのある髪の毛がある。それを眺めていると、いつの間にか気を失うように眠ってしまった。




 冷たい……。


 暗い水中を全速力で進んでいく。ものすごい速さだ。なぜか気が遠い。ずっとフワフワしている。


 誰かに乗っている?運ばれてる?




 ──ああ、これはあの時の風景かも。




 目を開けた。夢を見ていた。懐かしい、小さい頃の出来事が夢に出てきた。


 


 目をこする。少ない時間だが、よく眠っていたようだ。




 頭を上げた。不意に人魚の方を見る。




 透き通るようなエメラルドグリーンの瞳が目の前にはあった。その瞳は僕をキョトンと見つめている。




 ……人魚が起きた!!




「うわっ!」




 僕は驚きのあまり、飛び跳ねた。人魚は起き上がり、相変わらずキョトンとした感じで僕を見つめている。




 人魚は固定された腕を見ると、包帯を解き始めた。顔を顰めている。きっと邪魔なのだろう。




「あー、待って待って。それ解いたら骨が……」




 僕が言いかけていた時、人魚は何もなかったかのように腕を動かしていた。手のひらを握ったり、開いたりしている。




「治った……?」




 僕は目を見開いた。見た感じ、たしかに骨は折れていなさそうだ。痣もひいている。




 人間とは違う、とてつもない回復力だ。




 その時だった。




「……だれ?」




 僕は固まってしまった首をなんとか動かして人魚の瞳を見る。声の主を確認するが、やはり間違いなく人魚だ。




 ……人魚がしゃべった!?

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