3歳だけど、僕は大人
夢色ガラス
僕は3歳児
僕は3歳児。幼稚園から帰ってくると、6歳のお姉ちゃん、
「次、凛子ちゃんが鬼ぃ!」
お姉ちゃんは今日も習い事が終わると遊び始める。友達の
「その気持ち分かるわぁ。凛子もそうよ」
なんもすることがない僕は、ママにギュッとしがみついて親たちの話を聞くんだ。別に面白いこと言ってないし、悪口とか家の文句とかばっかだけど。つまんない、仮面ライダーの話をすればもっと楽しいのに。僕は今日もママと波留ちゃんママと美生ちゃんママの話を聞く。…というか、聞いてあげるんだけどね。
「波留、家でマジうるさくてさぁ。でも意外だよね、凛子ちゃんってすっごくお利口さんじゃん?」
「そうよね、私もびっくりしちゃった」
「えぇー?!そんなことないわよ、家ではもうほんっとうるさいわよぉ」
「そうなの?凛子ちゃんが騒いでいるイメージ全くないけど。美生金曜日の夜とか、明日プリキュアだって家の中走り回るからさ。我慢できずに怒っちゃう」
「そうそう!うちも~!」
「分かる~!」
はぁっ!?誰がいつどこで騒いでいるかなんてどうでもいいじゃんかぁ!僕、早くおうちに帰ってウルトラマンとアンパンマンの録画を見る予定があるのに。早く終わらせてよ~、このよく分からない会話!
「和人が夜寝ようとしていても凛子がテレビ見たがるから和人の寝る時間がおそくなっちゃうのよぉ」
和人っていうのは僕のことだ。ママが僕の頭を優しく撫でながら嘆いた。僕のために言ってくれてるのかもしれないけど、なんでもいいから早く帰ろうよ。ね?
「そうなの?うちは一人っ子だからそんなことはないけど、兄弟いるとやっぱり大変よね」
「うち、お兄ちゃんがいるんだけど、生意気でさぁ。今反抗期真っ只中だから波留も八つ当たりされてかわいそうなんだよね。前まで優しかったのにね、ねぇ波留」
波留ちゃんがキャハハハと笑いながら波留ちゃんママの後ろに隠れた。波留ちゃんママの話は聞いていなかったらしい。何も言わずに抱き着いている。今はどうやら鬼ごっこをしていて、美生ちゃんが鬼らしい。走ってきた美生ちゃんは美生ちゃんママの後ろに隠れながらタイミングを伺っていた。逃げていたお姉ちゃんもママに会いに行きたくなったのか、ゆっくり歩いてきてママに抱きついた。僕は手で押さえつけられてどかされる。待たされているのにどかされた僕はたまったもんじゃない。早くウルトラマンとアンパンマン見たいのに!ママは僕のものなのに!んんん…!だんだん目のあたりが熱くなってきたゾ。我慢だ我慢!泣くなんてかっこ悪いぞ!泣くなんて子供なんだぞ!でも、でも…。
「フェ、フェェェェェン!ウワァァァァン!」
ママたちは僕の方を慌てて見た。ママがしゃがんで僕の目とママの目を合わせてからギュッと抱きしめてくれた。他のママは、疲れちゃったかな?ゴメンね?なんて言いながら僕に微笑みかけた。謝ったらそれで済むと思ってんだろぉ!?僕、こんなに悲しいのに!ママたちは全然分かってない!
「和人くん、ごめんごめん。おうち帰りたいの?」
僕はコクリとうなずいた。ママは緑色のバッグからレースのハンカチを取り出して僕の目に当てた。ポンポンっていう優しい感触が気持ちいい。
「おうち、帰る」
ママは他の2人のママにゴメンね、帰るね、と言って謝ってからお姉ちゃんに声をかけた。
「凛子、帰るよ~!」
「えぇーーーーーっ!まだ遊びたい!!!」
お姉ちゃんはママにそう叫んでから美生ちゃんのことをタッチした。今はお姉ちゃんが鬼だったみたいだ。やっぱりお姉ちゃんはやい!けど…、べろべろべーっ!
「凛子、それなら和人くんとママは帰るからわね。おいてっちゃってもいいのね?じゃあね」
ママはママたちにあいさつをしてから車の方へ歩き出した。
「なーんーで!もうちょっとくらいいいじゃん!」
お姉ちゃんが泣きそうになりながら走ってくる。
「だからいいわよって。勝手に帰ってくればいいんじゃないかしら?」
ママが僕を車に乗せてからシートベルトを着けた。お姉ちゃんは不機嫌な顔になって波留ちゃんと美生ちゃんにバイバイしてから車に入った。
「和人くん、待たせちゃってごめんね。はい、ご褒美」
ママがニコリと笑ってウルトラマンの棒の飴を僕に渡した。お姉ちゃんは何も言わずに俯いている。これもいつもの日常だ。僕は飴をもらってすっかり機嫌がよくなった。
「ありがとう」
ママに言ってから袋を外してもらう。そして口に入れた。うん、おいし!!!お姉ちゃんにも1口だけならあげようかと思ってお姉ちゃんの口の近くにもっていった。
「いらない!」
僕は1人で全部食べていいんだ!って思って嬉しくなって、みかん味のそれにかぶりついた。
<おしまい>
3歳だけど、僕は大人 夢色ガラス @yume_t
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