第16話:変えられない過去 ⑮

 展示が終わり、いよいよ各賞の選考が始まり、賢治にとってもドキドキが止まらない日々が始まった。


 実は彼の作品は3年連続で代表作品として選ばれているのだが、昨年まで2年連続で入賞するという夢は叶っておらず、今回が最後の選考という事もあり、彼の中では入賞したいという気持ちが強かった。


 ただ、彼が展覧会で見た作品はどれもレベルが高いだけでなく、彼よりも細かい情報を用いて書かれている作品も多かったことから彼にとってはどういう形が望ましいのか分からなかったのだ。


 そして、出展作品の選考期間が終わり、表彰式当日がやってきた。


 賢治は中学生としては最後の表彰式である事に加え、一昨年と昨年は会場の参加者席には座ることが出来たが、入賞者席には座ることが出来なかったことが今でも頭に残っていて、今年こそは座って中学校生活を終えたかった。


 彼は開場時間の1時間前に家を出発し、家から20分ほどの所にある区民ホールに向かった。


 途中で同じ中学校の後輩と同級生に会ったが、コンクールの話しは出なかったため、挨拶をして急いでホールに向かった。


 彼がホールに着くと“コンクール参加者の児童・生徒のみなさんはこちらで受付をお願いします”と声をかけている係員さんがいた。


 そこには関係者と思われる子どもたちと保護者がざっと1000人近くいた。


 彼はこのコンクールの表彰式は保護者が同伴である事を知っていたが、父親は緊急の会議が入り朝から出かけており、母親も朝早くから仕事で出張に行っているため、家には誰もいなかった。


 そして、彼が受付をするとびっくりする事が起きた。


 なんと、15列目の席に座ることになっていたのだ。


 急いで彼が当日の進行が書かれたパンフレットと式次第を見ると“表彰者:1列から20列”・参加者“23列から35列・保護者2階席”と書いてあったのだ。


 つまり、彼は無事に入賞したのだった。


 この喜びを両親に伝えたかったが、本日は会場には両親も友人も誰も来ていないため、彼は急に心細くなってしまった。


 そして、式が始まり、1人1人賞状をもらっている姿を見るとどこかホッとした気持ちになっていた。


 小学生の部が終わり、次に中学生の部が始まるのかと思ったが、小学生の部が終わると今年の小学生の部参加者に対する総評が行われ、中学生の部に移った。


 最優秀賞は紺野流海さんという同級生の女の子だった。


 この名前を聞いたときに賢治は“あれ?”と思った。


 なぜなら、関西国立高校の受験をしたときに同じ制服を着た子が一緒に受験をしていたような記憶があったのだ。


 次に優秀賞が河鳥潤吾君・神内あゆみさんに贈られた。


 そして、審査員特別賞の発表になり、彼はそろそろではないかと思っていた。


 しかし、名前を呼ばれたのは月島成美さんと生内優莉さんだった。


 この発表のあとに彼は“自分が本当は受賞者ではないのかもしれない”と思っていた。


 次に今年から新設された府教育長賞と府知事賞の発表に移った。


 この賞は府知事と府教育委員会、各地区の教育委員会が提案した賞だった。


 これから発表される賞に入賞すると海外留学や大学進学などの際に奨学金が受け取れるだけでなく、優秀な作品として新聞などのコラムを担当することも場合によってはあるため、入賞者としてはこの賞を狙えることが自分の将来につながる可能性が高くなる、人脈が広くなることで自分の意見に対して指摘を受けられるかもしれないと思っていたのだ。


 まず府知事賞の発表になった。


 府知事賞は図書券1000円分と学習奨学金10万円分が贈られる事になっていた。


 受賞者はなんと小学6年生の小野寺優馬君だった。


 彼の作品を読んでみると、小学生とは思えないほど細かく情報が細分化されていて、読んでいる側が無意識のうちに彼の世界観に引き込まれるなど自分が学ぶことが多かった。


 そして、彼のコメントを聞くと小学生とは思えない内容のスピーチに驚いた。


 そして、府教育委員長賞の発表になった。


 府教育長賞は図書券3000円分と学習奨学金が小学生の部は10万円、中学生の部は30万円が贈られることになっていた。


 まず、小学生の部が発表された。


受賞者は私立小学校に通っている戸山楓さんという今回の受賞者で最年少の小学4年生だった。


 彼女の作品は展覧会の時は時間の関係で見られなかったのだが、あとで入賞者の作品が載っている冊子が学校に届くことから楽しみにしていた。


そして、中学校の部が発表された。


 受賞者はなんと木郷賢治だったのだ。


 彼は一瞬驚いたが、ゆっくり立ち上がり、ステージの上に立った。


 そして、久野原府教育長から“おめでとう”という言葉をかけられて、スピーチのための場所に立った。


 彼は“私は2年間この賞をいただくためにあと一歩及ばなかった経験をバネに今年は努力してきて良かったです。”とコメントした。


 2週間後、学校に府教育長賞の賞状と額、副賞の図書券3000円分と学習奨学金30万円の小切手が入った封筒が届いた。


 彼の卒業まであと2週間だったが、彼にとっては試練が多い2週間になる事を彼はまだ知らなかった。


 

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