第15話:変えられない過去 ⑬-1

捲られた瞬間、会場内に悲鳴のような声と歓喜の声が入り乱れるようになっていた。


 今年は定員が最大70名(1回目で最大50人、2回目で最大20人)で、今回の合格者は35名とかなり少なかった。


 賢治の順番が回ってきて、受験番号を確認するとB合格の所に彼の番号があった。


 そう、彼は合格したのだ。


 しかし、彼は合格者の受験番号の前に着いているA・B・Cというアルファベットが気になったのだった。


 そして、合格が分かった彼はそのまま採寸会場に向かい、制服などを採寸して帰宅の途についた。


 帰宅途中の車内で両親は“まさか賢治がこの高校に受かるとは思っていなかったよ”とびっくりした様子だった。


 週末が終わり、学校に向かうと先生から“賢治、高校合格したのか?”と聞かれて“無事に合格しました!”と先生に伝えると先生が校庭に出るように言ってきた。


 彼は半信半疑で校庭に出て、上を見上げると屋上から何か白いものが浮いているのが見えた。


 次の瞬間、その白いかたまりが下に向かって勢いよく開き始めた。


 全てが開き終わり、文字を見ると“祝・関西国立高校合格・木郷賢治君(3年)”という合格した学生の横断幕だった。


 なんとこの中学校では関西国立高校をこれまで100人近くが受験してきたが、合格したのは彼が初めてだったのだ。


 彼はびっくりして思わず「すごい!立派な横断幕に自分の名前が載っている」と興奮気味になり、感情が高ぶってしまった。


 そして、休み時間に進路指導部長の先生と担任の先生が学校に届いた合格通知と共にある書類を出してきた。


 なんとそこに前日のアルファベットの意味が書いてあった。


 それは“A合格:特待生、B準特待生、C合格:一般生”という合格者の入学後のランク分けだった。


 彼は点数が低かったにもかかわらず、B合格になった理由が分からなかった。


 その後、先生からある事実が告げられた。


 それは“賢治君が1学期の初め頃に経済に関するエッセイを書いたことを覚えているかい?その時に賢治君が書いた作品が関西地区の政治経済に関するコンクールに出展したときに関西国立高校の先生の目に留まり、その先生から高い評価をいただいたことがある”ということだった。


 この話を聞いて彼はびっくりした。


 なぜなら、このコンクールは学校で最大5点まで、地区でも最大10点までしか出せない“選ばれし者のコンクール”と言われるほど出展できる作品には高いクオリティが求められるだけでなく、毎年出されるテーマに関して幅広い知識が求められるため、各地区の選考委員から“この作品なら上を狙える”という太鼓判を押されないと作品がコンクールに出されることは出来ないのだ。


 今年は彼の学校から3点、隣の学区の中学校から2点、小学校から2点の計7点がコンクール参加のための選考会に出された。


 選考日当日にその作品を見た選考委員は頭を抱えていた。


 なぜなら、出された作品の多くはテーマこそ合っているのだが、自分の意見というよりも使われた資料に使われている言葉を使ってよく見せようとしているような印象を受けたのだ。


 そのため、先生たちは賢治の作品以外はどの作品を出すかを決めかねていたのだ。


 そして、コンクール提出作品決定期限ギリギリまで悩んだ結果、賢治の作品と隣の中学校2年生の作品が選ばれた。


 その後、選ばれた2人に“選考会通過通知”が届き、通知文と一緒にコンクールへの招待状が同封されていた。


 2週間後、2日間の一般のお客さんが作品を見ることが出来る展覧会が開催され、そこで彼はもう1人のコンクール進出者の作品を初めて見た。


 すると、彼は見た瞬間背筋が凍ってしまうくらいの不安に襲われた。


 その理由として、自分の作品も然る事ながら対抗馬だった相手の作品は彼が思いつかなかったワードがたくさんちりばめられていることで自分の作品よりも良く見えてしまったのだ。

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