第14話:変えられない過去 ⑬
しかし、介護タクシーを使うためには事前に予約をしなくてはいけないことや送迎できる範囲が決まっているため、議会まで送迎出来るかどうかは実際に役所等に確認を取らなくてはいけないのだ。
そのうえ、来週は賢治の高校の合格発表があり、その日は両親が仕事のため、賢治は1人で学校まで行かなくてはいけないのだが、仮に合格していた場合は入学書類と制服の採寸、1年次の議会研修で使うスーツの採寸、体操服と学習備品の注文など当日にやらなくてはいけない事が多いため、“当日は保護者同伴で来校するように”と受験が終わったときに渡された紙に書かれていた。
そして、合格発表の当日になり、賢治はドキドキしながら学校のある最寄り駅に向かっていた。
家を出てから40分後、最寄り駅に到着し、高校の前を通るバスに乗り継ぎ、更に20分かけて高校に向かった。
しかし、バスの中には受験生らしき人の姿は見当たらず、全員が車で来ているのではないかと思ったのだ。
高校の前のバス停に到着し、バスを降りると信じられない光景が広がっていた。
なんと、校門に“普通科国際コースと工学科全コースの受験生のみなさんはこちらにお進みください”と書いてあった。
思わず校門に立っていた警備員さんに聞くと「本日は普通科と工学科のみで、国際コースと政治・経済学専攻コースの合格発表日は来週です。」と言われた。
この情報を聞いた彼は校門の前で立ち尽くしてしまった。
彼は少し経ってから現実を受け入れ、肩を落としながら反対側にある駅に向かうバスに乗り、電車を乗り継いで家へと帰って行った。
そして、家に着くと弟から「お兄ちゃんどこ行っちゃったのかと思った」と言われ、テーブルの上に置いてあった高校からの封筒を開けてみると「なお、合格発表日は以下の通りコース毎に行いますので、ご注意ください」と書いてあった。
そこには“2/21(土);普通科・普通科国際コース・工学科宇宙工学コース・工業デザインコース”と書いてあり、その下に“2/28(土):政治経済科政治・経済学専攻コース”と書いてあった。
なんと、今年の試験は同時に合格発表されるのではなく、2週に分けて合格発表が行われることになっていたのだ。
この時、賢治は内心焦りが出ていた。
なぜなら、この学校に合格して進学した場合、今の同級生は同じコースにはおらず、新しく人間関係を作るにしても全国から受験生がいるため、自分の価値観に合う人がいるかどうか不安だった。
そして、翌週の水曜日に進路指導担当の先生と進路指導部長に進路相談室に呼び出された。
そこで告げられたのは賢治にとっては受け入れがたい事実だった。
なんと今回この高校を受験した同じ中学校の生徒は3人いるが、“単願”として出願したのは賢治だけで、他の2人は公立高校の受験をして、受かった場合にはそちらに進学するというのだ。
そのうえ、彼が受験した政治・経済学専攻コースはほとんどが単願だが、毎年受験者の2割~3割は入学辞退して公立高校や別の高校に進む“記念受験”のような人もいるという話しを聞いて更に不安が強くなっていった。
そのため、合格ラインも毎年筆記試験3科目で280点前後をベースにして、面接の合格点も一般面接で50点満点中の40点前後、チャット・インタビュー・プレゼンテーションで50点中40点前後と最低合格点が毎年350点前後で補欠合格・条件付き合格が320点前後と少し点数が低いだけで天国と地獄が決まってしまう可能性があるのだ。
彼が自己採点の結果を伝えると先生たちの顔が次第に曇り始めた。
なぜなら、彼の自己採点の点数は340点だったこともあり、昨年の通常合格点が345点だったことから基準ラインから考えるとかなり厳しい合否ラインに経っていることになり、今年は昨年よりも偏差値が上がっていることから350点が合格点の最低点ではないかと言われていたため、先生たちも初の合格実績を作る機会を失ったのではないかと思ったのだろう。
来週の月曜日に私立の合否によっては公立高校を含めた今後の受験スケジュールを立てて、進学先を確保することも検討しなくてはいけない状況になっていた。
そして、運命の合格発表日になり、彼は合否が発表される掲示板の前にドキドキしながら向かった。
彼が高校に着いたときにはすでに多くの生徒が掲示板の前で待っていた。
彼は人の波をかきわけて掲示板の前に立った。
10分後、合格者の受験番号が書かれた掲示板に掛けられていた白い布が発表担当者によって捲られた。
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