第13話:変えられない過去 ⑫

 実はこの事故で祖父が車と接触し、足の骨と腕の骨を折る大けがをしたのだった。


 2人は急いで祖父が搬送された病院に向かった。


 病院に向かう途中で彼が母親に「賢太はどこにいるの?」と聞くと母親は「賢太はお母さんのおばさんに迎えに行ってもらっているよ」と市内に住んでいる母親の妹が賢太の通っている駅前の塾まで迎えに行って、そこから病院で合流することになっていたというのだ。


祖父が運ばれた病院に近づくと救急車が間髪入れずにどんどんと病院内に入っていき、その周辺では報道陣と思われる人だかりが出来ていた。


 そして、病院から少し離れたところに警備員さんがいて、搬送された被害者家族専用の駐車場に止めるように指示された。


 そして、指示されたエリアに車を停めて、病院に入ると院内は地獄絵図のような状態になっていた。


 救急の処置室の前には今回の事故に巻き込まれた被害者家族が座っていて、その横をストレッチャーに乗ったけが人や意識不明の人がひっきりなしに通っていて、今回の事故がいかに酷かったかを物語っていた。


 受付で祖父の名前を伝え、待合室で待つように指示された。


 待っている間に出張だった父親と父親の弟が家から祖母を連れて病院に着いた。


 そして、“木郷賢治郎さんのご家族の方3番にお入りください”とアナウンスをされて、祖母、父、弟が診察室に入っていった。


 10分後、3人が沈んだ顔をして出てきて、開口一番「お父さんはもう歩けないかもしれない」と言ったのだ。


 この時、祖父は75歳で高齢ということもあり、腕と足の骨が元のように戻るまでには最低でも3ヶ月程度かかり、元に戻ってリハビリをしても足と腕の筋力が低下している可能性があるため、まず筋力を戻し、そこから歩行訓練をするため、全治1年程度はかかる可能性があり、祖父が元に戻るかは不透明なままだった。


 そのため、祖父がこれまで行ってきた国会議員後援会の会長や選挙管理委員長などはこれまで通り行い、挨拶回りや運営委員会などの出席、今年の5月に関東で行われる全国地区後援会役員会議への出席なども自分で出席するか、父親が代わりに出席するかで調整が必要になるなどケガの状態によっては医師からの許可が下りた段階で復帰するか、長期にわたる治療が必要になることから会長・委員長それぞれに代行を立てて治療に専念するかを考えなくてはいけないことになったのだ。


 ただ、来月末には関西後援会副会長の河村さんと榎本さんが任期満了になり、4月以降の在任期間を延長するには来月中旬に行われる後援会の役員会議で継続任命の手続きが必要になり、その会議に賢治郎が出席しないと次の会議は6月の衆議院選挙の準備会議になるため、この間に2人が任期切れになってしまうため、副会長のポストが空席になってしまう事になるのだ。


 仮に車椅子で移動できるようになったとしてもこれらの会議に出席するには介助者が必要になるため、現在の会長補佐である3区の橘委員長が委員長車に乗って、議会と家の間を送迎することになるか、祖母が委員長車に乗って送迎するかだが、現在の委員長車は車椅子を乗せられないため、議会に行かなくてはいけないときには介護タクシーを使って往復するかしかないのだ。


 

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