第11話:変えられない過去 ⑩

 彼は最悪の場合、東山駅から比較的乗客の少ない普通列車の各駅停車で1時間かけて帰ることも選択肢として残してあったが、それよりもいつバスに乗れるか分からないという不安だけが並んでいる間は頭がよぎっていた。


 15時30分のバスがバス停に到着すると前方の列が動き始めたが、彼が並んでいる場所には程遠く、20メートル程動いただけで止まってしまった。


 そのため、彼の中ではこのままでは家に帰れないかもしれないという不安が時間を追う毎に増していき、次の16時45分に乗れなかった場合には諦めて最終便である17時30分に乗るしかないと思っていた。


 その時あるアナウンスが聞こえた。


 それは“本日の東山駅行き混雑のため、その他の便の運行終了後に当該区間において折り返し運転を行います。ご利用のお客様は到着のアナウンスまでお待ちください”という内容だった。


 実は今回受験したのは全科合わせて2000人ほどで多くが東山駅から来ていた受験生だったため、東山駅行きを増発していたのだが、試験の終了時間が重なったことで混雑になってしまったのだ。


 そして、しばらくすると“お待たせいたしました。1台目のバスは17時20分発の東山駅西口行き、2台目は17時20分発の東山駅東口行きです。この時間から東口と西口に分かれての運行となります。”というアナウンスのあと3台連続で入ってきた。


このバスに乗れるかと思っているが、彼の前にはまだ300人近い行列があり、最終便のバスもこのあと5分ほどで到着するということでこの便を見送ることにした。


 前の便の乗車案内が賢治の5人手前で終了し、最終便がバス停に到着し、彼はやっと乗れたのだ。


 それから30分後、彼は駅に着き、彼の家の最寄り駅に向かう電車に乗るために改札に向かうと上部の電光掲示板に“運転見合わせ:現在、信号トラブルおよび線路内人立ち入りの影響で在来線の市内方面に向かう急行・準急・快速・シティ快速の運行を見合わせています。”という案内が流れていた。そして、駅構内では“現在1番線から3番線に停車している列車は運転見合わせの解除を待っての発車となります。お急ぎの所、恐れ入りますが、それぞれの行き先と停車駅を確認の上ご乗車いただき車内でお待ちください。”というアナウンスがされた。


 彼は“何でこんな日にこんなことになるのだろう”と心の底から怒りが湧き出ていた。


 そして、彼は急行の止まっている1番ホームに向かい、運転再開を待った。


 30分ほどして“お待たせいたしました。3番線普通列車から順次発車いたします。ご利用のお客様はそれぞれの列車に乗ったままでお待ちください。”というアナウンスと共に普通列車の止まっている3番線の発車メロディーが流れて、普通列車がホームから出て行った。


 そして、普通電車が出たあとすぐに準急が3番線に入線し、2番線の準急がメロディーと共に出発した。


 5分後、賢治が乗っている急行の発車メロディーが流れ、電車のドアが閉まった。


 ゆっくりと動き始めた車両はまるで先を急いでいるかのように100メートルほどでスピードがどんどん上がっていった。


 ここから彼の最寄り駅までは30分の道のりで、仮に彼が合格した場合には毎日30分かけて通学する事になるのだ。


 その日はかなり疲れたのか、ドアの近くに持たれながら首を上下に振りうたた寝をしていた。


 すると、彼はあろうことか最寄り駅を通過し、気が付くと“次は駒石中央”という最寄り駅の2駅先の手前まで来てしまっていたのだ。


 彼は急いで次の駅で降りたが、折り返しの電車は19時57分発急行東山行きと電車が到着するまで20分ほど待つことになった。


 そして、19時57分発急行東山行きは10分遅れで到着し、最寄りの駅に着いたのは20時10分とかなり遅い到着になったため、父親が母親と共に駅前のロータリーに車を停めて待っていたのだ。


 その後、家に戻り、1人で夕飯を済ませたあと学校の宿題と卒業課題を途中でお風呂に入りながら寝る前までやって、そのまま布団に倒れ込むようにして寝た。

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