第10話:変えられない過去 ⑧-1

その根拠として昨年度は“あなたが必要だと思う法律をあなたの解釈で施行した場合の弊害と課題を答えなさい”という法律制定に関する問題について問われたが、昨年の基本正答率が15%台だったこともあり、問題の難易度を少し下げてくるという見方が各校の受験担当者から聞こえてきたというのだ。


 しかし、面接試験の会場から出てくる受験生達の顔を見ると多くの学生が“顔面蒼白状態”や“うつむき加減で放心状態”という異様な光景を見ていて、賢治はかなり焦っていた。


 そして、彼の番になり、面接室に入ると面接官との最初の15分の試験がスタートした。


 彼は少し構えてしまったが、最初の面接はこれまで練習してきた内容とあまり変わらなかったこともあり、安心していた。


 その後、15分のチャット・インタビューが始まると、室内の空気が一変した。


 なぜなら、彼に出された問題が“現在起きている政治問題において関与した議員を国家公務員法および国会議員法で処罰対象とするべきか否か”という問題だったのだ。


 彼はその質問を聞いた瞬間に頭が真っ白になってしまった。


 実は彼が対策してきたのは“法律に関する持論と提案”だと思っていたが、実際に出題されたのは“現行法における適用対象者への制裁措置の検討”と“関係者に対する処罰の検討”というまったく対策をしていない問題が出てしまったのだ。


 それでも何とか自分が持ち合わせている知識と価値観、中立的立場をフルに活用して15分間のチャット・インタビューは終了した。


 しかし、試験が終わって外に出てみるとそこは地獄絵図のような人だかりになっていた。


 その人だかりの中に笑顔の人も泣き顔の人も泣き崩れて立てなくなっている人などいくつもの感情が入り交じっていて、自分はどう表現して良いか分からなくなった。


 少しすると駅までのシャトルバスが入ってきた。


 ただ、様子がおかしく、彼がバスの着く方向を見ていると近くに居た係員さんが「このバスは皇山駅ゆきですので、東山駅、夢の森ニュータウン方面は30分後のシャトルバスをご利用ください。」というのだ。


 後で聞いたところ先発の東山駅行きのバスが途中の交差点で追突事故に遭い、代替のバスの手配が必要になったのだが、最寄りの営業所は通常の路線バスと受験会場と各駅を結ぶシャトルバスを同時に運行していたため、バスが出払ってしまっていることと営業所にある5台の予備車は3台が貸し切りバスとして運行し、2台は車検のために本社の隣にある整備場に回送されていたのだ。


そのため、周辺の営業所に連絡したところ、ここから40キロ離れた営業所に予備車があったため、その営業所から代替のバスを回送することになったのだ。


 この時東山駅行きと各ニュータウン行きのバス乗り場には長蛇の列が出来ていて、とても1台では間に合わない状態だった。


 そこで、係員さんが何やら連絡を取り始めた。


 数分後、再びアナウンスがあった。


 「次のシャトルバスは夢の森ニュータウン方面が3番乗り場、駒石ニュータウン・吉良の杜ニュータウンは5番乗り場から17:00発の大型バスをご利用ください。」というのだ。


 彼が乗るのは東山駅行きだが、係員さんに聞くと代替のバスが今営業所を出発したため、15:30のバスが出ると次は16:45分と17:20分のバスになるというのだ。


 彼はこの時どれで帰るか迷っていたのだ。


 というのも、これから来るバスは通常の路線バスが止まる途中のバス停ではなく、事前に決められたルートしか止まらないが、そのルート上にあるバス停で乗り継ぎをすると快速以上が停車する駅までは行けるのだが、路線バスも途中で起きた交通渋滞の影響で10分ほど遅延しているため、これからラッシュアワーに差し掛かると乗り継ぎのバスと電車に乗れないという可能性が出てきたのだ。


 そこで、来たときと同じように東山駅から準急電車に乗るという選択肢もあるが、この状況では最悪の場合17時20分の東山駅行きのバスで向かうことになるため、ここでもラッシュアワーギリギリの可能性があり、電車を何本か見送らなくてはいけなかった場合には帰宅時間が遅れることになるため、連絡をしなくてはいけないのだ。


 

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