第8話:変えられない過去 ⑦

 数日後、学校側は“噂されている内容に関しては現時点では確認されておらず、不安を感じる必要はないと考えている”というコメントを発表した。


 しかし、受験生の多くはこのコメントに対して違和感を覚え、試験日を3週間後に迎えることになるのだが、受験辞退を検討する子どもたちも少しずつ出てきた。


 そして、この頃から周辺の中学校では受験に向けた保護者面談が行われており、その中で大園女子に関する問い合わせが複数寄せられている事も教育委員会に報告が上がっていたため、近隣県や府の教育委員会が連名で大園女子高等学校に対して調査報告の提出を求めるなど異例の事態になっていたのだ。


 彼女は小学生から桜花高等学校に行きたかったのだが、昨年度の倍率が25倍と御三家の中でもっとも高い倍率となっていたため、万が一の不合格となり、桜花高等学校に進めない事を想定して、滑り止めで昨年度の倍率が10倍程度だった大園女子高等学校を受験するか、昨年度の倍率が15倍のシャーロット国際を受験するか、他の公立校を受験するかで悩んでいた。


 そして、彼女は将来的には国際的な職業に就きたいと思っていたため、国際的な教育を受けられる学校でかつ過去に良い実績を持っている学校を目指そうとしていたのだ。


 一方の彼も国際的な人材として就職を目指すために難関校に進学を希望し、今日まで猛勉強してきたのだが、滑り止めのことまで考えておらず、この学校に入学できなかった後のことは全く想像していなかった。


 そのため、不合格になった場合に進める学校がどの程度あるのか、どの学校に行くことで自分の夢を叶えられるのかなど考えておかなくてはいけないことに対して答えを出さなくてはいけない状況になったときに決断する事が難しくなると本人も自覚していたが、彼は自分がこの学校に不合格になるという事を想像することは出来なかった。


 そして、彼女とお互いの試験の健闘を祈って、賢治と美鈴はそれぞれ異なる方面の電車に乗った。


 1時間後、賢治は2次試験の会場であるホールの前に並んでいた。


 彼が着いた時点では30人ほどだった受験者数が時間を追う毎に増えていき、入場10分前には全体で700人ほどの列になっていた。


 彼の受験するコースは今年も100人ほどの受験者が試験を受験する予定になっており、昨年のようにここで半分程度に絞られることになるのだが、待機列を見たときにある異変を感じた。


 それは“100人程度が残っているには列が短い”ということだった。


 その後、彼が試験会場に入場すると大きなスクリーンに二次試験の筆記に関する注意事項の他に座席順が表示されていた。


 その座席表には“A列:受験番号1~50番、B列51~100番”と書いてあるが、周囲を見てもそこまでの人数がいるようには見えない。


 2時間後午前中の試験が終わり、残すは午後の筆記試験と面接になった時に受験者数が少ないことの意味が分かった。


 それは“筆記試験免除受験者”という昨年受験し、面接試験で不合格になった浪人生は筆記試験を受験せず、面接試験だけを受験することが認められていたのだ。


 

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