第6話:変えられない過去 ⑤

 実は彼が通っていた学校ではこれまでも教員の学校トラブルや生徒の補導による懲戒処分によって学期途中の複数学年において担任の配置換えや生徒の経過行動観察による支援員の増員などが頻繁に起きており、区の教育委員会から“定期指導対象校”として認定されるなど問題山積の学校として地域では有名だった。


 この事が卒業生の進路等にも影響が出てしまい、仮に成績優秀であっても”条件付き合格“や”仮合格“などさまざまな条件を付けられて、受験校入学までに大きなハードルが受験した生徒の前に立ちはだかり、自分の進路が最後まで決まらない生徒が多くなっており、この事が3年生の進路決定を遅らせているのではないか?という親からの疑念につながっていた。


 これは賢治も例外ではなかった。


 実際に彼が受けた学校は関西では“国家官僚出身トップ3”と言われるほど官僚や政務官など国の役職に就く人が多く卒業している学校だったため、彼が志望していた“政治・経済学専攻コース”は定員50名に対して全国から2500人から3500人が願書を提出し、一次選考の書類審査で300人が合格し、2次試験の筆記・面接で100人、最終試験のプレゼンテーションで50人と試験が進む毎に合格者数が減っていくという他の学校では考えられないような入学試験だったことからこれらの試験に合格するためにはかなり知識量が必要になること、学校の成績と素行などの評価が良いこと、個人のGPAが5段階評価の場合は3.8以上、10段階評価の場合は7.6以上という条件があるため、応募してくる学生の多くは1次試験で不合格になってしまうほど狭き門であり、毎年の合格倍率が50倍から70倍とも言われており、過去には70倍を超える年もあり、毎年受験生が血眼になって50席を争奪する姿は“受験生の地獄絵図”とも表されるほど壮絶で、過去には2次試験に残ったというだけで腰を抜かしてしまった生徒や合格通知と共にめまいがして、その場に倒れてしまった生徒もいた。


 賢治もこの学校を目指して3年間頑張ってきて、2次試験当日のことだった。


 その日は肌を刺すような寒さの朝で、歩いているだけで手がかじかみ、持っている参考書も小刻みに揺れていた。


 家を出て近くのバス停から最寄り駅に向かっているときのことだった。


 その日は休日だったが、隣の市区で私立中学校の受験があり、小学生くらいの子どもたちと親御さんがたくさん乗っていた。


 そのなかにオーラの違う学生がいた。


 彼はその姿を見て「あれ?美鈴ちゃんかな?」と思った。


 実は美鈴ちゃんは賢治が小学校3年生の時に両親の離婚で隣の区に引っ越した同級生だった。


 彼女は当時からスポーツ万能で頭が良く、毎月行われる月例テストや塾の模試などでいつもトップ3に入るほど秀才で、将来を熱望されていた。


 しかし、彼女は両親の離婚後に引っ越してから新しい学校の環境になじめず、不登校になったという話を聞いていたため、普通に学校に行けているのか心配していたのだ。


 そして、彼が電車に乗るために最寄り駅に降りると彼女も降りてきた。


 そこで、彼女に勇気を出して“美鈴さんですか?”と尋ねてみた。


 すると、“もしかして賢治君ですか?お久しぶりです”と彼女が言ってくれたことで不安が一気に安心に変わっていった。

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