第4話:変えられない過去 ③
入院から3週間後に戸上さんは一時帰宅したが、数日後に状態があまり良くないことが分かり、再び入院することになった。
その時、完治するまで家の管理を賢三郎にお願いしてきたのだ。
時期を同じくして、父親は府議会議員の選挙に向けて議員事務所の職員や後援会の役職者との選挙実施に向けた会議に参加していた。
この時、父親がある提案をした。
その提案とは“議会の統合”と“国政議会制の導入”だった。
“議会の統合”は現在、府議会と区議会、市議会の3議会から議会編成されているが、このうち在籍議員数が30名以下の自治体の議会を廃止し、在籍議員数が50名以上の議会との統合を行うという改革案だ。
この改革案を出すきっかけとなったのが、全国にある複数の議会で不祥事が発生したことでその議会に在籍している議員に対する信頼を損ねる事態になり、議会が開会していたとしても地元の住人から“税金泥棒”や“不祥事集団”と不信感をあらわにする表現を使い、揶揄されるという異例の事態になっていたのだ。
そこで、議員定数の見直しを行い、議会に関しても議場の利用回数を減らすことで経費を少しでも減額できる努力をすることでこれまでの不祥事による信用低下が起きていたとしても信用を回復出来るのではないか?と考えた。
しかし、この提案を実行するには課題も山積していた。
例えば、複数の議会を統合させるためには各選挙区において地域間の議員選出のバランスを安定させることや他の地区から選出されている議員に対して相互理解を求めるなどバランスの取れた議会運営が求められるのだが、この地域では過疎化が急速に進んだことで議員の平均年齢が65歳と周辺の自治体にある議会に比べると高齢化が進んでおり、この状況が若い世代の居住率が下がり、転出率の増加に歯止めがかからないため、近隣の議会に比べると若い世代との意見交換などが円滑に行われていないのだ。
この点に関しては以前から問題視されていたのだが、直近3回の選挙でも立候補したのは50代の候補が2人だけで、隣の議会では昨年の選挙で31歳の候補者が立候補し、結果としては落選したものの、議会の“ヤングアドバイザー”として議会などを傍聴席にあるアドバイザー席から見ている。
この試みは市長である大熊さんが若者に政治に興味を持って欲しいという願いから始まった試みで、将来的には学校連携プログラムとして制度を確立し、若い世代に参加をしてもらいながら市政を共に動かしていきたいという狙いがあった。
そのため、この試みに追随する形で周囲の自治体に広がっていくことが若い世代の政治に対する関心を高めて、自分自身の票に繋げたいという心理を芽生えさせているという見方をしている人も少なからずいたため、この制度に対して反対意見を持つ人が少しずつ増えていった。
ただ、この制度に参加するためには書類選考や面接など一般的な就職活動と同じ選考過程を辿ることになるため、学生の間では“就職活動の前哨戦”と言われていた。
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