第3話:変えられない過去 ②

なぜなら、彼の記憶では実家の敷地には3階建ての家と2階建ての家が2棟、車庫として使っているガレージがあり、向かいには小さい頃から可愛がってもらっていた近所のおじさんが子どもたちの遊び場として開放していた50坪ほどの公園と400坪と700坪のおじさんが持っている土地、豪華な門構えのあるおじさんの家などが建っていたのだが、おじさんの家の周りに何棟も戸建ての家が建ち並び、公園だった場所は残っていたが、管理者がおじさんの名前ではなく、“管理者:木郷賢三郎”となっていたのだ。


 この表示を見た彼はその日の夜に父親に聞いてみた。


 すると、衝撃の答えが返ってきた。


 “この前の土地は2年前に戸上さんから全て譲ってもらって、建っている戸建ての家は全て賃貸住宅として貸し出している”というのだ。


 この話を聞いた彼はびっくりして開いた口が塞がらなかった。


 というのも、戸上さんはこの地域では大地主さんとして有名で、この土地以外にもいくつも土地を持っていて、いくつかの土地がある場所にはアパートやマンションなどを持っているため、“困った時は戸上さんに相談すると何とかなる”と言われるほど周囲からの信頼が厚く、人柄も良かったため、評価が高くなっていたのだ。


 しかし、ある日の明け方の事だった。


遠くから救急車のサイレンが鳴っているのが聞こえたため、弟が急いで外に出てみると、戸上さんの家に向かって走ってきて、家の前に止まったのだ。


これは大事だと思い、父の家に行き、寝室のある窓を叩いた。


すると、父親が「隆治、こんな早くから何を焦っている」と部屋の窓を開けて、彼に言った。


隆治は「今、戸上さんの家の前に救急車が止まって、誰か運ばれている」というと、父親は急いで戸上さんの家に向かうとちょうど戸上さんが救急車で家を後にするところだった。


そして、横に目を向けると戸上さんの横で娘さんのゆかりさんとゆかりさんの旦那さんである健一さんが「しっかりして」と声をかけ、救急車には娘のゆかりさんが乗り、ここから車で30分ほどの市内にある総合救急病院へと搬送されていった。


その後、近所の区長さんから話を聞いたところ、戸上さんは“軽い心筋梗塞”だったことが分かり、手術をするために入院することになった。


 近年、戸上さんが家から出てくるところを見かけておらず、地区の合同会議や施設管理に関しても息子の康生さんが代わりに出席するという事が多くなった。


 そのため、区長さんなどが定期的に戸上さんの家に訪問していたが、次第に戸上さんは車椅子に乗らないと行動できないほど日に日に衰弱していったのだ。


 実は3ヶ月ほど前から週末に来られるきょうだいが戸上さんのお世話をするために家に泊まっていたのだ。


 そして、2ヶ月前からは週に3回ほど訪問介護を受けて、週に1回程度は通院のために病院の車が迎えに来るなど以前は見かけなかった車両が日に日に多くなっていき、戸上さんの状態が悪いことを示すかのような時間が周囲に流れていたのだ。


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