第2話:変えられない過去 ①
賢治が生まれたのは経済成長が著しく、国民の生活が裕福になっていると言われていた時だった。
しかし、彼の家は裕福ではあったが、いろいろな問題を抱えていた。
まず、彼の父親・賢三郎は都内にある有名大学の専任教授で、彼の授業は学生から人気のクラスが多く、卒業生の中には“経済産業省”や“国土交通省”などの公官庁に勤めている人や大手企業の社員として働いている人などこれまでの実績も申し分なかった。
ただ、彼の授業は人気が故に学生からの要望で授業のコマ数を増やすことを検討していたが、契約の関係上これ以上のコマを作ることは契約違反となってしまうため、大学側も頭を抱えていた。
そんなときだった。
この噂を聞いた他の大学から夏期・冬期講習の特任教授の話しが彼の元に舞い込んできた。
彼は学校側に相談したが、学校側としては「本校の教授である事からこのような講習への参加は認める事は出来ない」という回答があり、無断で参加した場合には大学から解雇や懲戒免職など厳しい処分が言い渡される可能性もある。
しかし、彼にとっては他の大学の学生と交流する機会だと思っていたため、残念な気持ちが勝っていた。
ある日、大学が3連休で休みだったときに賢治が健三郎から実家に突然呼び出された。
この時、賢治は「またお父さんが何かトラブルでも起こしたのだろうか?」と思いながら新幹線に乗り、父親の住んでいる大阪に向かった。
4時間後、彼の実家のある大阪に着いたのだが、周りを見渡すと少し違和感があった。
それは“今年は府議会議員の選挙があります。みなさん投票しましょう”という大きなポスターが新幹線ホームから改札口につながるエスカレーターの所に大々的に張り出されていたのだ。
実は健三郎の父親は地元では有名な与党議員の後援会を統括する委員長だったため、地元では“木郷先生”と呼ばれていたのだ。
その事を知った賢治は“自分が府議会議員選挙にかり出されるのではないか?”という不安が頭をよぎった。
さらに1時間後、彼の実家のある最寄り駅に着くと駅前で弟・隆治と小学2年生の甥っ子・翔太が待っていた。
彼は2人に「久しぶりだね。元気だった?」と声をかけると、「久しぶりだね、元気だったよ」と弟が答えると、甥っ子は「お久しぶりです。元気にしていました」と小学2年生とは思えないほど大人へと成長していた。
その後、実家に車で向かい、3年ぶりの実家とその周辺を見たときに「あれ?ここは本当に実家なのか?」と目を疑った。
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