第12話 俺の名は――、——。えっ?
「ところで、名はなんだ?」
俺がいろいろ目立つ女性のそばに行くと、ふと声をかけられた。
「——だ」
俺は女性の問いに対して、すぐに返事をした。
が。おかしなことに、声が出なかった。俺は自分の名前を名乗ろうとしただけ。現実世界での名前はちゃんと覚えているので名乗っただけなのに、口がパクパク動くだけだった。何故だ?いやいや急に名前のところだけ声が出なくなった。
頭の中では――と、ちゃんと自分の名前を憶えて――あれ?何かおかしい気がする。頭の中では覚えている。でも――表せてないような……どうなってるんだ?
「は?何だと?」
俺がちょっと混乱していると、さすがにいろいろ目立つ女性が怪訝そうにこちらを見てきた。なので俺は再度名前を言った。
「——だ……うん?」
が。また同じだった。名前だけいえない。
「——、——だ。……あれ?」
「——」
何故だ。やはり名前を言おうとすると声が出なかった。苗字名前ともに今度は言ってみたが。どちらも声にならない。頭の中ではわかっている。大丈夫だ。俺は――、——。大丈夫だ。思い出せている。思い出せているのだが――何故声にならない。あと――表せられない。
するともちろん女性は俺の方を見つつ怪しんでいた。まあそうだろうな。名前を聞いただけなのに名乗らない俺。怪しまれるよな。次こそ切られるかもしれない。でも何度試しても俺の名前は声に出なかった。
「待て待て。なんで声に出ない。いや、名前を言っているんだが。声に出ないんだよ」
俺は慌てて女性の方を見つつ何度も口を動かし名前を言ったが――声にはならなかった。仕方なく俺はしゃがみ。土の地面に指で名前を書くことにした。周りからみればあの男何しているんだ?という光景だろうが。俺は伝えるために指を動かしたが――。
「なんだ――これ?」
俺は土の地面に名前を書いている。書いたのだが――。
『e§k◆sdr'gy‴ji‴p〓ol』
自分でも書いた文字が読めなかった。はっきり言っておくがふざけているわけではない。パソコンのキーボードを適当に連打したような文字を書いたのではない。俺はちゃんとここ数十年名乗って来た名前を漢字で書いただけだ。——、——と。なのに――どういうことだ?バグったような文字しか俺は書けなかった。いや、自分でも何をしているのか。書いている時は普通に――、——。と自分の名前を書いたのに、書き終わったら――この状況だった。むしろこんな文字もう1回書けと言われても書けないだろう。現に『e§k◆sdr'gy‴ji‴p〓ol』の下にもう一度名前を書いてみたのだが――。
『◆ijgr'p〇〓Λ♭kjhgfr』
もうわけわかんねー。
こりゃ俺ここで『怪しいやつめ』と刺される未来が見えた。すると女性は俺の様子を見つつ。考えだしていた。そしてすぐにつぶやいた。
「……声に出ない。書けない。この症状は――また例のエラーか?この前はハーフが現れ。今度は声が出ない。いや、名前が書けないエラーか?」
「——うん?」
女性の口から出てきた言葉が異様というのか。まるでゲームみたいなこと言い出したのだった。エラー。そりゃパソコンとか機械関係の事をしていたらよく聞く言葉かもしれないが。今のこの町の雰囲気からエラーというもの。そもそも機械系の物がないからな。そんな言葉が出てくるのに違和感っがあった。
俺がそんなことを思っていると女性が立ち止まり。俺の前に来た。そして俺の方へと手を伸ばしてきた。あれ?俺叩かれるか?お前みたいなボロ布。剣など必要ない。という判断になったのだろうか?さようなら俺。と思った瞬間だった。
「スキル。特別情報開示」
「なっ!」
突然俺の目の前に画面。というものが現れた。もう驚きで心臓が止まるよ。なんだよこの世界。現実世界より見た感じは発展してないように見せかけて――実は超ハイテクなのか?もうわからん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます