第31話 想いの進展
夏も終わって少しずつ気温も涼しくなってきた頃、学校ではあるイベントがきっかけでみんながワクワクし始めていた。そのイベントというのが、秋にある行事の中で楽しみにしている人が多いであろう文化祭だ。
ウチの学校は文化祭を10月末にやっていて、生徒会の企画や有志での出し物、他にもクラス内や部活動での展示や模擬店といった様々なものをやっており、まだ一ヶ月以上も先の話でありながらもクラス内では何をしようかという話があちこちから聞こえていた。
「夏休みがこの前終わったと思ったら、もう文化祭だね……なんか時間があっという間に過ぎてる感じがするよ」
「そうだね。そして文化祭が終わったら期末テストに冬休み、その後には新年と三学期もあるし、ボーッとしてたらあっという間におばあちゃんだよ」
「いやいや、そこまでは早く過ぎないって……けど、今年は本当に何やるんだろうな。去年はたしか模擬店だったし、今年もそれか何も決まらなければ休憩所として提供するかになりそうだ」
「でも、何もしないのはやっぱりつまらないし、流石に展示くらいは……」
友香と智也も文化祭について話し出し、その姿を見ながらこっちでもかなんて思っていたその時、久寿弥が静かな事に気づいた。
「久寿弥、どうしたの? こういうお祭りごとは久寿弥なら自分から率先してやりたい物を言っていきそうなのに……」
「……なあ、すごくおかしな事を聞くけど良いか?」
「良いけど、なに?」
不思議に思っていた私だけど、久寿弥の口から出た言葉に私は心から驚く事になった。
「文化祭って……なんだ?」
「……え?」
「なんかみんなが楽しそうなのはわかるけど、文化祭が何かわからないから、いまいちその気持ちを共有出来ないっていうか……」
久寿弥は本当にピンと来ていない様子であり、友香達やクラスメート達も私達の会話が聞こえていたのか本当に驚いた顔をしていた。
「え……中学の時とか去年ってどうしてたの? 保健室登校は強いられていたとしても流石に校内がなんだか賑やかだなとか思わなかった?」
「うーん……いや、覚えがないな。これまでって、保健室にいるか時々トイレに行くかくらいだったし、たぶんその時ってネイキッドの活動の日に合わせられていたから、そもそも学校にはいないんだよ」
「だから、文化祭って聞いてもピンと来てなかったんだ」
それを聞いて私は納得していたし、5月にあった体育祭の時も初めはなんだか不思議そうにしていたけど、最後には本当に楽しそうにしていた事も思い出した。
恐らく、ネイキッドは校内行事ですら一般の生徒と関わらせない上に知られてはいけないと決めていて、その情報が入ってこないようにしながら当日などには休ませる事で完全にシャットアウトしていたのだろう。
私的にはそこまでする事かと思ったけれど、よくよく考えてみればネイキッドだとしても久寿弥のようにイベントに対して前向きだったり楽しそうにしていたりする人だっていないわけがなく、話を聞いたらやりたくなるだろうからここまでの情報操作をしたり毒島先生のように学校関係者のネイキッドには
「それで、文化祭ってなんなんだ?」
「文化祭は……まあ、基本的に秋頃に校内でやるお祭りみたいな物で、クラスや部活動ごとに出し物を決めて、教室を使ったお化け屋敷をやったりお店を出したりする感じかな。
後は体育館でのステージ発表とかもあって、私達だけじゃなく校外の人も来るから、地域や保護者まで巻き込んだ一大イベントみたいに考えたら良いと思うよ」
「なんだ、それ……めっちゃ楽しそうじゃん!」
「やっぱりそう言うよね。でも、久寿弥は参加して良いって言われるのかな……」
「たしかに……私達はもちろん良いって言うに決まってるけど、ネイキッド側からすればダメって言われてもおかしくないし……」
「やっぱりそこだよな……久寿弥、ダメって言われたら流石に参加出来なくなるのか?」
「あー……まあ、そうなるな。体育祭は許されたし、他の事もわりと良いって言われてきたけど、それはあくまでも俺がその代わりにネイキッドとしてするべき事を文句を言わずにこなす事を約束してきたからで、今回もそれで許されるかはわからないな。
幹部の子供だからと言って、なんでも許されるわけじゃないし、真澄みたいに将来的に自分の女にする奴がいても、それを言うわけにはいかない上にネイキッド側からしたら関係はないから、下っ端やその娘達からの奉仕にはしっかりと付き合わないといけないしな……」
久寿弥の嫌そうな顔を見て、奉仕の内容を知っているクラスメート達はそうだろうなという顔をしており、男子達ですら羨ましく思わないようで苦笑いを浮かべていた。
だけど、私は久寿弥の話を聞いて胸の奥がチクチクと痛んでいた。6月にあった件がきっかけで久寿弥には恋をしているし、この前のハイシェイの二人の手伝いの際には歌という形で詩雨ちゃんからそれを応援までされている。
だから、やむを得ない事情があって、且つ私達が恋人同士ではないにしても自分の好きな人が他の異性とそういう事をしているのはやっぱり辛い物があり、その姿を想像するだけでも胸が張り裂けそうになるのだ。
「……ねえ、久寿弥?」
「ん、なんだ?」
「もしも、もしもなんだけど……文化祭への参加の代わりにまたそれを強いられるなら、久寿弥はそうするの?」
「……いや、俺個人としては拒否したい。文化祭にはもちろん参加したいし、みんなと楽しい時間を過ごしたいさ。だけど、その代わりに奉仕に付き合うのは、やっぱりネイキッドの言いなりになり続けてるから嫌だし、何よりも真澄を自分の女にするって言い続けてるのに、他の女とそういう事をし続けるなんてあってはならないからな」
「久寿弥……」
「へへっ、どうだ? 好きな女には一途な俺にそろそろ惚れたんじゃないか?」
ニヤリと笑いながら言う久寿弥の姿に私は安心感から涙が一滴ポロリと流れた後、それをごまかすように久寿弥の頭にチョップをした。
「……バカ、そう簡単に惚れるわけないでしょ」
「まあ、それもそうか。けど、真澄からの愛のこもった一撃はまた貰えたし、これでよしとするか」
「こもってるのは愛じゃなくて呆れなんだけど……まあ良いか。ただ……」
「ただ?」
「……ただ、ちょっとだけ……その、嬉しかった、かも……」
言ってしまったという思いと周囲のニヤニヤ笑う顔に私が頬を赤くしていると、久寿弥は驚いた顔をしてから続けて心から嬉しそうな顔をした。
「ま、真澄が……遂に俺にデレた!?」
「デレてない! まったく……そんな事ばっかり言ってると、友達としても嫌いになるからね?」
「わかってるって。へへっ、でもやっぱ嬉しいなぁ……」
久寿弥の顔は嬉しさから明らかにニヤついており、その顔を見て私は恥ずかしさから更に顔を赤くしていたけど、久寿弥の嬉しそうな様子を見て、私も嬉しくなっていた。
尚、そんな一件があったからかその日はずっとクラスメート達から微笑ましそうな視線を向けられており、久寿弥がそれを見てまた調子に乗っていたのでもう一発チョップをかました事だけはとりあえず言っておこうと思う。
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