第29話 想いの強さ

 翌日、早朝の撮影を終えた私は自由時間という事で宿泊先をあまり離れないように気を付けながら近くをのんびりと歩いていた。しかし、私一人というわけじゃなく、こののんびり時間には同行者がいる。それも本当に意外な二人が。


「……詩雨ちゃん、どうして私が一緒じゃないといけないの?」


 軽く溜め息をつきながら一緒に歩いている詩雨ちゃんに聞くと、詩雨ちゃんは私と一緒に“ある一人”を挟んだ形でにこりと笑う。


「だって、それが私達の望みだからね。そうだよね、久寿弥君?」

「おう! 詩雨から少し歩かないかって誘われた時、それなら真澄も一緒が良いって思ってたら、詩雨から真澄も誘うって言われたからな。それなら行かないわけがないだろ?」

「もう……」


 二人の言葉に私はまた溜め息をつく。早朝の撮影を終えて朝ごはんを食べた後、久寿弥と詩雨ちゃんのお出かけが良い物になれば良いなと思いながらも少し胸の辺りがチクチクするのを感じていた時、二人が突然私のところへ来て、一緒に出掛けないかと言ってきた。

詩雨ちゃんには昨夜の入浴中に久寿弥と出掛けるように提案をして、その後に久寿弥には詩雨ちゃんと一緒に出掛けてきてと理由は伝えずに言っておいたから、正直こんな事になるとは思ってなかったし、二人の言葉が聞き間違いじゃないかとか私が伝え間違ったのかなとか色々考えた。

けれど、二人にはちゃんと伝わっていた上で二人が誘ってきたのだとわかり、私はなんでこうなったかなと思いながらも断るのも忍びないと考えて、こうして二人と出かける事になったのだ。

正直な事を言えば、これは本当に予想外な事だったし、詩雨ちゃんにはこのお出かけの中でも久寿弥ともっと仲を深めて、告白まで行ってもらえたらと思っていたので、どこかでタイミングを見つけて二人と一人で別行動でもしようかと考えたけど、詩雨ちゃんはその逃げ道すら塞ぐようにあくまでも“三人で”一緒に過ごしたいと出かける前に言っていたので、それすらも出来ずに私はどうしたものかと考えていた。

そして何か方法はないかと考えていた時、ふと久寿弥が何かを懐かしむような顔をし始めた。


「そういえば、昨日の四人の水着姿は本当に良かったなぁ……それぞれちゃんと個性があったし、ハイシェイの二人は他にも何種類かあったから、その度に別の魅力があったしさ」

「そういえば、それを見ながら亀井さんと話が盛り上がってたしね。ただ、智也は友香の水着姿ばっかり見てたけど」

「あはは、そうだったね。なんとなくわかってたんだけど、友香ちゃんと智也君って両想いだよね?」

「うん、昔からそうなんだけど、お互いに気付いてないから、私は自分達で気付くまでその様子を見守る事にしてるの。だから、久寿弥もうっかり言わないようにしてよ?」

「へーい……でも、なんかもどかしいし、体育倉庫に閉じ込めるとか四人で出かけるからって言って俺と真澄だけ予定が出来た体でこっそり見てるとか……」

「それもありだけど、とりあえず言わないようにだけ気を付けてよ?」

「ほいほい」


 久寿弥が軽い調子で答えていると、その姿を見ていた詩雨ちゃんはクスクスと笑った。


「やっぱり二人はなんだか息が合ってるよね」

「お、そう見えるか? これは真澄は俺の女計画の進展が……」

「そんな計画は頓挫させるっての。それに、息が合ってるというよりは、ほっといたら何をするかわからないから、目を離さないようにしてるだけ」

「けど、そうやって俺を見てくれてるのは嬉しいぜ? 真澄の視線を独り占め出来てるみたいでさ」

「またそういう事を言う……」


 久寿弥の言葉にまた溜め息をついていた時、詩雨ちゃんはそんな私達を見て微笑んでいたけど、ふと何かを考え付いたような顔をした。


「……ねえ、久寿弥君。一つ聞いても良いかな?」

「ん、何だ?」

「もしも……もしもなんだけど、私が久寿弥君の事を異性として好きかもしれないって言ったら、久寿弥君はどう思う?」

「詩雨ちゃん……」

「詩雨が俺を、か……そうだなぁ、詩雨は明るくて歌声も綺麗だし、ちょっと天然そうなところはあるから彩舞にツッコまれる時はあるけどそういう姿を見ていてもなんとなく落ち着く気がするし、アイドルとして人気が出るのも当然だと思えるくらいに女として可愛いとは思ってるから、好かれるのはすごく誇らしい気分だ」

「だ、だいぶ褒めてくれるね……」

「それくらい魅力的だからな。だけど、俺はそれ以上に真澄には魅力を感じてる。色々褒める点はあるし、こうやってなんだかんだで一緒に出掛けてくれるってのもあるけど、やっぱりいつだってちゃんと俺と向き合ってくれてるところが好きだ。

こんな俺に対してもいつだってしっかりとダメな物はダメだと言ってくれるし、時には気持ちのこもった一撃だって与えてくれる。それに、周囲の奴の気持ちを大切にしながら行動出来る点は俺にはない良いところだと思ってるから、見習っていきたいと考えてるよ」

「久寿弥……」


 久寿弥から初めて聞いたかもしれない想いの数々に私が嬉しさを感じていると、久寿弥は申し訳なさそうな顔をしながら静かに頭を下げた。


「だから……すまない、もしもお前から告白されても俺はそれには応えられない。真澄を愛する以上、俺は生涯真澄だけを見ていたいからな」

「……そっか。でも、これはあくまでも……」

「もしも、だな。へへっ、もしもだとしても告白的な事を言われるのは嬉しいぜ。だけど、ちゃんと誰かに告白する時は、お前の中のその愛をしっかりと言葉に乗せて伝えてやれよ? 俺だって嬉しかったわけだし、そうすれば相手に気持ちがちゃんと伝わるはずだからな」

「うん、ありがとう。さあ、行こう、二人とも」


 何事もなかったかのように詩雨ちゃんが笑う中で私達は揃って頷き、再び歩き始めた。歩きながら詩雨ちゃんに目を向けた時、詩雨ちゃんはとても哀しそうな笑みを浮かべていたけど、その顔はすぐにこのお出かけを楽しもうとする物に変わり、詩雨ちゃんの強さに羨ましさを感じて私もそうなりたいなと静かに思った。

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