第27話 服の下の秘密
二人の後に続いて歩いていく事数分、海水浴をしている人達がいる方から少し離れたところにある浜辺まで来ると、そこではスタッフさんらしい人達が話をしながら準備をしていた。
そしてその中にいた大人しそうな顔をしているスーツ姿の人に近づいていくと、詩雨さんは微笑みながら声をかけた。
「マネージャーさん、今回の撮影に協力してくれる子達を連れてきましたよ」
「ん……ああ、そちらがそうなんですね。初めまして、僕は
「根井さんはウチの事務所に来たばかりだけど、仕事には熱心だしライブ映像は何度も観て気になった事をちゃんと伝えてくれるんだよ」
「マネージャーとしての視点と観客としての視点、そしてファンとしての三つから観てくれるから、私達も気づけなかったところもわかるんだ。その点は表現者として本当に感謝してるよ」
「あはは……マネージャーとしてはまだ大した事はないんですけどね」
根井さんが苦笑いを浮かべ、ハイシェイの二人がその横で微笑んでいると、その姿を見ていた久寿弥が難しい顔をしていた。
「久寿弥、どうかした?」
「……いや、何でもない。ただ、そういう事かと思った事があっただけだから、別に気にしなくて良い」
「そう? ところで、例のカメラマンの人って?」
「えーとね……あ、あそこにいるのがそうだよ」
詩雨さんが指差す先には浅黒く日焼けした黒いスポーツ刈りの男の人がいた。ただ、その人は紺色の男性用の水着一枚で海の写真を撮っていて、その姿に私が驚いていると、久寿弥達も呆気に取られていた。
「え、えーと……カメラマンさんはどうして水着姿で写真を撮ってるの?」
「なんでも、海で写真を撮るなら、自分も海を楽しみながら撮る方がちゃんと熱も入るからって事みたい」
「あの人、業界では結構変わり者なカメラマンとして有名で、今回みたいに被写体の気持ちを理解するために自分も同じ構図を試したり格好までその場に合った物にするのがポリシーなんだって。
ただ、撮影の腕は本当に一流でそこを見込んでお願いする人も多いけど、被写体側からすると本当に変わったカメラマンにしか見えないから、あの人はちょっとって声もあるみたいだよ」
「な、なるほど……」
「たしかにその説明を聞かないと何でってなるかも……聞いてもまだよくわかってないけど」
「それくらい真面目なんだろうけどな……」
カメラマンさんはそんな私達の視線には気づかずに楽しそうに写真を撮っており、ようやく気が済んだのかこっちへ向かって歩いてくると、私達に気づいて驚いた顔をした。
「おっと、もしかして君達が今回の撮影に協力してくれる子達か?」
「は、はい」
「そうか……四人ともすごく絵になる顔をしているし、女の子達の方はハイシェイの二人にも引けを取らない感じだから撮りがいがあるぜ。
俺は
亀井さんはとても感じの良い笑顔を浮かべており、肌の黒さとは対照的な白く輝く歯が印象的だった。そして私達も根井さんと亀井さんに対して簡単に自己紹介をした後、他のスタッフさんとも顔合わせをし、その後すぐに打ち合わせが行われた。
内容自体は事前に詩雨さんから聞いていた通りで、撮影は二日間に分けて行うらしく、基本的にはハイシェイの二人をメインで撮るけれど、一緒に遊ぶところやハイシェイの二人が手を引いているところなどを撮る時には私達も参加して、写真集の解説には二人が友達になった人に撮影の協力をしてもらったとだけ載せるらしい。
因みに、水着以外にも普通に海辺を歩く写真や夕方や夜に撮る写真もあるようで、大方の撮影は今日の内に終わらせて、明日は朝方の写真を撮ったら帰るお昼過ぎまで自由時間なのだという。
そして打ち合わせを終えた後、まず水着での写真を撮るために私達は男女に分かれて簡易的に作られた更衣室に入った。
ハイシェイの二人に大きく見劣りせず、それでいて二人よりも目立たないようにと考えながら四人で選んだ水着に着替えていたその時、ふと隣で着替えている詩雨さんに目が行くと、肩の辺りに小さなアザのような物が見えた。
「詩雨さん、そのアザは?」
「え? あ、これか……」
「もしかして、聞いちゃいけない物だった?」
「そうでもないけど……まあ、今日の夜になったら教えるよ。今は撮影に集中した方が良いと思うから。ね、彩舞ちゃん」
「私もそう思うよ。ただ、撮影中は化粧で少し隠しておこうか」
「うん、そうしよう」
詩雨さんと彩舞さんが頷き合う姿を見て私と友香は顔を見合わせる。話せない物ではないようだったけど、少なくともあまり人目には晒したくない物だったみたいだったから、私達はそれ以上は何も言わずに着替えを終えた。
そして外に出ると、男子組は既に着替えを終えていて、私達が出てきたのを見ると、智也は友香の姿にハッとしてから見惚れた様子で軽く顔を赤くしており、久寿弥はニッと笑いながら私達に話しかけてきた。
「みんなよく似合ってるぜ。やっぱり女子の水着姿ってなんだか特別感があるよな」
「お、わかってるじゃないの、久寿弥君。そうなんだよ、少しお年を召した人の大人っぽい色香も若い子達のハリとツヤのある肌もどれも甲乙つけがたいくらい良いから、俺も撮影の時は気合いを入れてその良さを伝えようとしてるんだ」
「わかるっすよ、その気持ち。普段の服装とは違って、肌が多く見えてるところはより色っぽく見えるし、本人の肌の感じや顔つきに水着が合ってると、よりその魅力が引き立つ感じがして」
「だよなぁ。いやぁ、まさかその気持ちを共有出来る相手とこんなところで会えるなんて思ってなかったよ」
「俺もっすよ」
どうやら久寿弥と亀井さんは意気投合したらしく、二人で楽しそうに笑う様子を私達はただ見ているしかなかった。
「……類は友を呼ぶ、って今の状況に合ってたっけ?」
「正確なところは違う気がするけど……まあ、仲良くなれてるのは良いんじゃないか?」
「まさかのマッチングではあったけどね」
「あはは……」
「やれやれ……」
そんなどこか和やかな雰囲気が漂い始めた後、私達はその雰囲気のままで写真集の撮影を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます