第25話 意外な助け
私達を憎々しげな目で見てくる二人組に智也は歯をギリッと鳴らす。
「く……今回は流石に警察に通報したフリは通用しないだろうし、何か別の策を練らないといけないよな」
「だな……智也、ここは俺が引き付けるからお前は真澄達を連れてどこかの店に──」
「いや、流石に二人とも引き付けるのは無理そうだ。逃げてる最中に捕まって真澄か友香が人質にでもなったら目も当てられないぞ」
「私も智也の意見に賛成。友香も今日は動きやすい服装ってわけじゃないし、捕まる可能性は普通にあるもん」
「私も同感かな。けど、本当にどうしよう……このままじゃ本当に……」
友香が不安そうな顔をする中、何事かという視線を向けてくる周囲の人達の視線を浴びながら二人組の男達はズンズンと私達へと近づいてきた。
「まさかこんなとこで会うなんてなぁ……あの時はよくもやってくれたな、ああ!?」
「ガキにナメられたままじゃ俺達もカッコがつかねぇんだ。サツに捕まるくらいなら、このガキ共に俺達をナメた事を後悔させてから捕まってやるよ!」
「……本気で警察への通報が通じないみたいだな。こればかりは仕方ないか……智也、難しくてもどうにかコイツら二人だけでも逃がしてくれ」
「けど、それだとお前が!」
「……全滅よりは俺だけ犠牲になる方がマシだ。それに、今日の集まりだって元はと言えば俺がお願いした物だからな。それなのにお前達に怪我をさせたとなれば、お前達の親にだって申し訳が立たねぇよ」
「でも……!」
「……早く行ってくれ、早く!」
必死さのこもった久寿弥の声が響き、二人組の男達との距離が縮まっていく中で智也が覚悟を決めたような表情をし始めたその時だった。
「……ほう、中々男らしいじゃないですか、久寿弥君?」
そんな穏やかな声が聞こえ、私達がそちらに視線を向けると、そこには黒いスーツをピシッと着て一般的なマスクをつけた優しげな顔の人がおり、その人が私達の間に入ってくる中で私達はその姿にハッとした。
「……
「なんで貴方みたいな有名人がここに……!」
「というか、久寿弥君って益子さんと知り合いなの!?」
「え……いや、知り合いというか……」
突然の出来事に私達が困惑する中、男達は一瞬怯みはしたものの、益子さんに対してガンを飛ばし始めた。
「おうおう、邪魔してくれてんじゃねぇよ。さっさと退けや!」
「俺達はそっちのガキ共に用があんだよ!」
「……嘆かわしいな」
「ああ!?」
「やはり、こういった野蛮な輩は変わらずに出てくる。その上、私達の活動にまで悪影響を……今の内に始末をしてしまおうか」
「はあ? てめえ、一体何を──」
その時、どこからか厳つい顔をした黒いスーツの男の人達がバラバラと現れ、何も言わずに二人組の男達の腕を掴み始めた。
「な、何をしやがる!」
「てめぇ……その手を離しやがれ!」
「……連れていけ。そんな野蛮な真似がもう二度と出来ないようにしっかりとしつけるんだ。どれだけ自分達が劣等な存在で、優秀な存在を残すための道具に過ぎないかを思い知らせろ」
「畏まりました。よし、連れていくぞ」
「はい」
黒スーツの人達は暴れる男達をそのままどこかへと連れていき、その場が静まり返る中でも益子さんは優しい笑みを私達に向けてきた。
「君達、大丈夫でしたか? 怪我などは?」
「あ、いえ……大丈夫です……」
「……そうか。ああいった奴らが何の罪もない人々をネイキッドのフリをして襲っているという話を聞いていたので、見回っていたんですが……まさか久寿弥君があんな男達に襲われているとは思いませんでしたよ」
「あ……ま、前に他の人に絡んでたのを追い払った奴らだったんですが、その時の事をどうやら覚えていたみたいで……」
「なるほど。ですが、そちらの方々を守ろうとするその姿はとても見事でしたよ」
「あ、ありがとう……ございます……」
益子さんを前にして久寿弥も流石にいつもの調子では話せないみたいだけど、その顔は緊張というよりは怖がっているように見え、私は思わずその手を握っていた。
「え……ま、真澄……?」
「いつもの久寿弥らしくないよ。ほら、ちょっと深呼吸して」
「し、深呼吸……」
久寿弥の顔はまだ恐怖の色に染まっていたけど、私が手を握ったからか顔色は少し良くなっており、一度深呼吸をすると、表情も顔色も少しずつ良くなっていった。
「……はあ、落ち着いた」
「そう、ならよかった」
「ああ……ありがとうな、真澄」
「どういたしまして」
安心した顔をする久寿弥に対して微笑み、友香と智也もよかったという顔をしていると、益子さんは興味深そうな顔で私達を見始めた。
「……良い交遊関係のようですね、皆さんは。その関係、いつまでも大事にしてくださいね」
「はい、もちろんです」
「では、私はそろそろ失礼します。久寿弥君、また今度」
「……はい」
そして益子さんが去っていくと、久寿弥は本当に安心した顔で大きく息をついた。
「はあー……本当にどうなるかと思った……」
「ほんとにね。でも、久寿弥も流石に益子さんみたいに偉い人の前だとああなるんだね」
「うんうん。それにしても、マスク推進大臣ともなるとあんな風に見廻りもするんだね」
「だな。けど、政治家としては良い事だと思うよ。久寿弥もそう思うだろ?」
「……やっぱり、お前達は勘違いしてたんだな」
「……え? 勘違いも何も……あの人はマスク推進大臣をしてる益子さんじゃない」
「……いや、違う。たしかにあの人の名字は益子だけど、政治家でもマスクの推進なんかもしていない。あの人は……俺達の、ネイキッドのボスの益子
その言葉に私達は固まる。
「え……ほ、ほんと……?」
「ああ。だから、俺の事も知っていたし、ネイキッドのフリをしてた奴を摘発するために見廻りなんてしてたんだよ」
「そ、それじゃあさっきの二人って……」
「……考えない方がいい。予想はつくだろうけどさ」
「そうだな……」
その後、私達はこの件を考えるのは後にして、予定通りにお昼を食べて、ショッピングやカラオケを楽しんだ。だけど、ネイキッドのボスの前にして恐怖で震えていた久寿弥の顔は決して忘れる事は出来なかった。
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