第24話 望まぬ再会

 30分程店内を見回った後、私達は揃って入り口へと戻ってきた。私達が揃ってつけるためのマスクの候補を見つけるという事で30分程店内を見てきたけれど、みんなの顔を見る限り、どうやらよさそうな物は見つけられたようだった。


「さてと……それじゃあそろそろ見つけてきた物の報告会をしよっか」

「おう! 俺はな……なんか竜とか虎が描かれてた四つセットの奴を見つけたぜ! 他には……なんか赤い感じの鳥と尻尾が蛇みたいになってる亀がいたな」

「それは……四神のマスクか。久寿弥が見たのは、中国の神話に出てくる青龍と白虎、朱雀と玄武で、それぞれ別の方角を守護してるらしいぞ」

「おお、そうなのか! なんかカッコいいから良いなって思ってたんだ」

「たしかにカッコいいとは思うけど、なんだかつけるのも抵抗感あるような……」

「たしかに……こう言ったらあれだけど、なんだか族っぽいというか……」

「えー……みんなでお揃いで守護しようぜー?」

「守護はあれとして、それぞれ別の方角をっていうなら、一緒と言うよりは四方向に分かれてる感じじゃない?」


 私の言葉に久寿弥は納得顔で頷く。


「そうか……それだと顔を合わせずに別々の方向を向いてる感じだもんな」

「そうだね。それじゃあ次は私だけど……私はね、四つの季節をモチーフにしたマスクを見つけたよ。それで、柄もそれぞれの季節の植物が描かれてるみたいなんだけど、春の椿以外は全くわからなくて……」

「春が椿……それじゃあそれぞれの季節の漢字に木へんを当てはめた物かもしれないね。たしか、夏がえのきで、秋がひさぎ、冬がひいらぎだったかな」

「椿と柊は知ってるけど、他の二つはなんかピンと来ないな……」


 久寿弥が顎に手を当てながら言うと、それを見た智也は苦笑いを浮かべる。


「たしかにあまり聞かないしな。それじゃあ次は俺だ。俺も実は季節をモチーフにした奴で、春が桜で夏がヒマワリ、秋が紅葉の冬が……たぶんクリスマスローズかな」

「へー……というか、二人揃って季節をモチーフにした奴を見つけるなんてお前達って本当に仲良しなんだな」

「昔からこうだよね。真澄も含めて幼馴染み三人組だけど、結構私と智也は同じのを選びがちというか」

「だな。それで真澄はどうだ? なんか良いのって見つけたか?」

「私? うーん……色々見てみたけど、やっぱり四つ葉のクローバーの奴が一番無難かなと思ったんだ。三人とも色々見つけてきた中で私だけそれっていうのもどうなんだろうとは思ったんだけど……」


 四つ葉のクローバーの花言葉は“約束”や“幸運”であり、それぞれにも“愛”と“健康”、そして“幸運”と“富”の意味があり、四つ葉のクローバーがそれを運んできてくれるらしい。

意味としては悪くないけれど、三人が自分でしっかりと見つけてきたのに、私だけが一番無難な物を選んだのはあまりよくないかなと思っていると、久寿弥は私を見ながらニッと笑った。


「俺は別に良いと思うぜ? だって、それってたしか四つ合わせたら四つ葉のクローバーが出来上がる奴なんだろ?」

「え? あ、うん……」

「だったら、それを作るためにまた会うっていう理由も出来るし、俺はそういう理由だったとしても何度だってこの四人で会いたいと思うぜ」

「久寿弥……」

「たしかにな。久寿弥が心配してるような事じゃなくても、俺達のこれからの進路によっては四人ともあまり会えなくなるかもしれない。でも、そういう理由だったとしても会おうと出来るのは良い事だと思うし、俺も四つ葉のクローバーのマスクに賛成だな」

「私も。それに、四つ葉のクローバーって幸運を呼ぶって言われてるし、つけてたら何か良い事が寄って来そうだからね」

「三人とも……」

「という事で、俺達のマスクは四つ葉のクローバーのマスクに決定だな。真澄、良いアイデアをありがとな」


 そう言う久寿弥の表情はとても嬉しそうであり、その眩しいまでの笑顔が少しカッコよく見えて、私は不覚にもまたドキってしてしまった。


「ど、どういたしまして……ほ、ほら! 早く買いに行くよ! 今日だってマスク探し以外に何かやりたいんじゃないの?」

「おう、あるぜ。色々見て回ったり飯を食ったり、時間があったらカラオケにも行きたいんだ」

「お、良いねぇ。この前のレッスンで更に歌う事に目覚めた感じかな?」

「おうよ。やっぱり習った事はどんどん実践していきたいしな!」


 嬉しそうに言う久寿弥の顔を見てなんだか私まで嬉しくなった後、私達は四人でお金を出し合って四つ葉のクローバーのマスクを買った。すぐにはつけないけれど、次からこの四人で出かける時にはつける事にしていて、お店を出て歩いていた時、久寿弥は本当に嬉しそうな顔をしていた。


「へへっ……これでまたお前達との思い出が増えたなぁ」

「本当に嬉しかったんだね」

「当然だろ? やっぱり仲の良いお前達との思い出が増えるのは良い事だからな」

「たしかにな」

「まあ……悪くはない、かな」


 そんな事を話しながら歩いていたその時だった。


「……あ、てめぇらは……!」


 そんな声が後ろから聞こえて揃って振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。


「……おいおい、なんでこんなところで出会うんだよ」


 ハイシェイの詩雨ちゃんにナンパをし、久寿弥と智也の行動によって追い払われた二人組が憎々しげな顔をしながら私達の事を見ていたのだ。

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