第23話 センス勝負の始まり

 歩き始めてから十数分後、私達はマスク専門店の一つである『CHANGEチェンジ』へと来ていた。ここはマスク専門店の中でも結構マスクの種類が多い場所であり、スタッフに話を聞いてもらいながら自分に合ったマスクを見つけていくサービスもあるので、評判が良いお店でもある。


「ここがマスク専門店か……専門店だけあってどこを見てもマスクだらけだけど、ここってマスク以外にも売ってるのか?」

「うん、あるよ。メイク用具や整髪剤もあるし、ここの近くには提携してるブティックもあるから、ここでどういうマスクを選んだかそっちで言ったら、そのマスクに似合った服も選んでくれるみたい」

「へー……」

「でも、私達も専門店は初めてなんだよね。このマスクだって他のところで買った耐水性のある安い奴だから」

「それでも十分ではあるけど、拘りたい人はこういう専門店に来るみたいだな。因みに、ハイシェイもこことは前にコラボしていて、二人がデザインしたマスクも売ってるみたいだぞ」

「お、そうなのか。あれから一度も会えてないけど、予定が合えばまた一緒に歌いたいよなぁ」


 懐かしそうに久寿弥が言う。あの日、二人の生ライブを楽しみながら私達も楽しくカラオケを出来ていたけど、その時の久寿弥の歌というのが中々スゴかった。

最初、久寿弥が言われたという独特で聞いていて痺れるという歌声は音痴という意味で捉えていたけど、実際は結構上手く、音痴だと思っていたのを心の中で反省していた。

因みに、その後に件の評価の理由についてみんなで考えた結果、たしかに結構上手かったけれど、語尾で上げるヒーカップ唱法という歌い方を無意識の内に頻繁に使っていたからではないかという事になった。

その後、ハイシェイの二人の簡易的なレッスンで他の歌い方も久寿弥はマスターしてカラオケの点数も更に上げていて、久寿弥の呑み込みの早さには二人も驚いていた。

勉強や運動もそうだけど、久寿弥はわりと要領が良い上に知ろうと思った物は貪欲なまでに知識を深めようとするところがあり、そういった点もあるからか抜き打ちの小テストが来ても平気で高得点を取ってみせるし、クラスメート達の趣味についてもすぐについていけるので、私は結構羨ましかったりする。


「私も二人とはまた会いたいけど、中々難しいんじゃない? 同じ高校生ではあるけど、向こうは人気のあるアイドルだし、仕事だって忙しいだろうしね」

「まあ、たしかにな……」

「連絡先は一応お互いに知ってるし、こっちからは中々誘えないけど、向こうから誘われたらラッキーくらいに考えた方がいいかもね」

「だな。さてと……とりあえずどんなマスクが良いか見てみようぜ」


 そして私達は店内を見てまわり始めた。評判通り、置いてあるマスクの種類は本当に多いみたいで、久寿弥もマスクを見ながらとても楽しそうにしていた。

そうして歩き始めてから数分が経った頃、久寿弥はふと一つのマスクの前で足を止めた。


「ん、これ……」

「どうしたの?」

「いや、この『MAXまっくす』っていうロゴが入ったマスクをさっきからよく見かけると思ってな」

「ああ、それは有名な人がデザインした物だからじゃない?」

「有名な人?」


 首を傾げる久寿弥に対して私は頷きながら答える。


「そう。前に、マスクがファッションアイテムとして浸透したのは色々な人が協力してファッション用のマスクを作ったからって話したと思うけど、その内の一人がこの『MAX』をデザインしてるマクシーン・マクスウェルさんで、元々は美容やファッションをメインに扱ってた外国の配信者さんなんだ」

「ふーん……」

「それで、この『MAX』っていうのがマクシーンさんのブランドで、自分の名前と名字の綴りにMAXってついてるところからそう名付けたみたいだよ」

「この『MAX』のマスクは世間から本当にセンスが良いって言われてるみたいで、新作のマスクが発表されてその中に『MAX』があると、すぐに売りきれるって言われてるな」

「なるほどなぁ……」

「久寿弥はそれが気になったの?」


『MAX』のマスクを指差しながら聞くと、久寿弥は首を横に振った。


「いや、なんかよく見かけるなぁと思っただけだ。でも、この『MAX』だけでも本当に色々なマスクのデザインがあるよな」

「マスクもこの『MAX』を含めた何種類かのブランドしかもう出してないからね。出始めた頃は、それで大儲けしようとした人もいたようだけど、流石にセンスの良さでは勝てなかったみたいで、少しずついなくなっていったんだって」

「マスク業界も大変なんだな」

「そうだね。だから、ハイファイみたいに有名な人達とのコラボレーション戦争も激化してるって前にニュースで聞いたよ。ブランドのネームバリューだけじゃどうにも難しいし、コラボレーション相手のファンも取り込みたい考えがあるみたいだし」

「自分が扱ってるのとは違う分野が好きな人を取り込むのは重要みたいだからな。それで、二人は何か良いのって見つけたか?」


 智也からの問いかけに私と友香は揃って首を横に振る。


「ううん、まだ」

「無難に四つ葉のクローバーのも良いとは思うんだけど、もう一捻り欲しい感じがしちゃうんだよね」

「そうだな……よし、もう少し色々見てみよう。それで、帰る前にそれぞれのイチオシを紹介する。それでどうだ?」

「お、良いな! 俺のセンスの良さで真澄を惚れ直させてやるよ!」

「そういう目的じゃないでしょ。でも、私もそれには賛成かな」

「私も!」

「オッケー。それじゃあ一番目指してまた色々探すぞ」


 その言葉に頷いた後、私達は再び店内を歩きながら数あるマスクの中で自分達に合ってそうな物を探し始めた。

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