第22話 お揃いの思い出
週末、いつものように一度学校に集合してから街へと向かった。GWの時に出掛けてから四人で出かける事も少しずつ増え、一度学校に集合してからというのも恒例になり始めていた。
そうして街まで来てみると、あの日よりは人の数も少なかったけど、街中は週末という事もあってかそれなりに賑わっており、見かけるマスクの種類も多かった。
「相変わらずマスクはファッションアイテムの一つとして浸透してるね。少し周りを見ただけでもかなりあるよ」
「たしかにな。それで、どうしてマスク選びを手伝って欲しいなんて言い始めたんだ? これまでそんな事言ってこなかったのに」
「ああ、それか。前にマスクの話を聞いてから少し興味が出たっていうのもあるけど、ちょっと考えた事があってさ」
「考えた事?」
「なんかマスクってさ、柄が同じ物を色違いでつけたりもするんだろ? この前、そんな話をクラスの奴から聞いたんだよ」
「ああ、あるね。グループ内でお揃いにするとか友達や恋人同士で似たのをつけるとか」
たしかにそういうのは世間のちょっとした流行りになっている。服とかでも双子コーデとかペアルックといった物があり、それをマスクにも取り入れるのはどうかという声が読者モデルやファッション系の配信者から上がって、実際に同じ雑誌に載ってるモデル同士やグループで活動している配信者達がそれをやり始めた事で真似し始める人も出始めた。
その結果、各メーカーもそれを目的としたマスクを売り始めて、四つの柄を合わせるとクローバーになる物や名前を書いて相合傘ならぬ相合マスクに出来る物もあるため、友達同士や恋人同士でつけるという事も多いようだ。
因みに、私達三人もそういうお揃いのマスクにしてみようかと考えた事もあったが、昔から色違いの無地のマスクを使っていたからその点でお揃いと考えたら良いんだという事に落ち着いて結局しなかった。
けど、それを久寿弥が言ってきたのが結構意外で、友香と智也も少し不思議そうに久寿弥を見ていた。
「それで、それがどうしたの?」
「それでさ……俺達も何かお揃いのマスクを買えたらって思ってるんだ」
「お揃いの……」
「ああ。お前達と出会ってもう三ヶ月くらいだろ? 真澄は俺の嫁だし、友香と智也はすごく良い奴だから、色々助けてもらったり教えてもらったりしてきた」
「よ、嫁って……いきなり何を言ってるの!?」
「それは確定事項だからな。それで、さっきのマスクの話を聞いた時、俺もお前達とお揃いのマスクが欲しいなって思ったんだ。俺はネイキッドだから、普段使いは出来ないけど、こうやってお前達と出かける時だけでもお揃いの物をつけてたら楽しいだろうし、持ってるだけでもお前達と繋がってる感じがすると思うんだ」
「久寿弥……」
「前も言ったように俺はもしかしたら完全なネイキッドとして教育をされて、もう今みたいな考え方も出来なくなるかもしれない。でも、そのマスクがあれば、お前達の事は忘れないだろうし、心の支えにだってなってくれるはずだ。完全なネイキッドとして生きるなら、俺は今よりも辛い経験をするだろうからさ」
そう言う久寿弥の顔は哀しそうであり、今の久寿弥自身はやっぱりネイキッドとしてのやり方を望んでいない事がハッキリとわかり、そうなってしまう事に対して恐怖を感じているようだった。
そう思った瞬間、久寿弥の事が少し愛おしく思え、私は自然と久寿弥の事を抱き締めていた。
「うおっ……ま、真澄……?」
「……今だけ抱き締めてあげる。久寿弥、少し怖そうにしてたから」
「……たしかに怖いな。お前達とこうやって過ごせなくなる事も自分が自分じゃなくなる事も」
「そんな気がした。だから、久寿弥からのお願いも聞いてあげる」
「え、良いのか?」
「別に断る理由もないしね。友香と智也も良い?」
私からの問いかけに二人は微笑みながら頷く。
「うん、もちろん。前だって三人でそういう事をしても良いかもなんて話はしてたわけだし」
「だな。こうして久寿弥が提案してくれたのは良い機会だから、これも四人の思い出にしても良いだろうしな」
「お前達まで……へへ、俺って本当に良いダチを持ったよな」
「それにはちゃんと感謝してよね?」
「ああ、もちろんだ。それに、好きな女から抱き締められてるんだ。こんなに幸せな事はねぇし、感謝しなきゃバチだって当たるさ」
耳元で聞こえてくる久寿弥の声は優しく、そしてとても嬉しそうで私も嬉しさを感じていたけれど、それと同時に好きな相手を堂々と抱き締めているという状況を思い出し、また顔が燃えるように熱くなっていた。
「……そ、それじゃあそろそろ離すから。このままここにいても時間がもったいないし」
「ん、わかっ──って、顔赤いけど大丈夫か?」
「……大丈夫。今日も暑いからそれでだと思うし」
「そうか……まあ、本当にキツい時は言えよ? すぐに涼しいところに連れてったり何か冷たいもん買ってきたりするからな」
「……ありがと」
久寿弥の優しさに私は嘘をついた事による罪悪感を覚えたけど、やっぱりまだ本当の事は言えなかった。
そして友香と智也の二人に微笑ましそうな目で見られながら私は小さく息をついた後、三人と一緒にお揃いのマスクを探すために歩き始めた。
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