第18話 失う意識
「はっ……くしゅん!」
お昼休み、もはやお馴染みとなった四人で屋上でのお昼ごはんを食べていた時、大きなくしゃみが出た。その瞬間、ブルルと体が震えると同時に寒気がし、その姿を見た友香が心配そうな顔をした。
「大丈夫? 昨日の雨で体が冷えて風邪でもひいたんじゃない?」
「大丈夫……だと思う。別に熱はないし、ただくしゃみしただけだから」
「そうは言うけど、風邪は油断してると怖いからな。なんだか変だなと思ったら、すぐに言ってくれよ?」
「そうだぞ、真澄。風邪はひき始めが肝心だからな」
「久寿弥にすら言われるなんて……私、よっぽど調子が悪そうに見えるんだね」
少し軽口を叩き、友香には大丈夫だと言ったけど、正直な事を言えば朝から寒気がしていて、なんとなく頭がボーッとしていた。
久寿弥に送られる形で雨の中を帰った翌日、私はそれを隠していつものように三人と一緒に登校したけれど、どうやら友香の予想通りに雨の寒さで風邪をひいてしまったらしく、起きた時からくしゃみをしていた。
だから、本当は大事を取って休んだ方がよかったけど、休んでしまったら送ってくれた久寿弥が気に病むと思ってしまい、とりあえず今日のところは頑張って行こうと考えて来たのだった。
もちろん、両親からは無理だけはするなと言われているので、本当に無理そうなら早退も考えるけど、基本的にそれはしない事にしている。した方が良いけど、してしまったらやっぱり久寿弥に心配をかけると思ったので、出来るならしたくない。
「……こう考える辺り、私にとって久寿弥ってまだそこまでの仲じゃないんだな」
小声でそう呟く。幼馴染みで親友の友香と智也の二人だったら、少しだけ甘えても良いかなと思って、風邪をひいた事やもしかしたら早退する事も躊躇せずに言えるし、お見舞いに来て欲しいとお願いも出来る。
だけど、久寿弥に関してはまだそこまで言えるだけの仲じゃない。久寿弥についての評価がまだ高い方じゃないのもあるけど、友香達に対しては言える事を言おうとしたら流石に躊躇してしまうし、考える必要はないと思うけど、なんだか申し訳ないと考えてしまう。
それはやっぱり友香達と久寿弥では私から見た関係値に結構な差があって、その差が久寿弥に対して気軽に何かを言えないと躊躇する原因になっているんだろう。
久寿弥の事だから、恐らく早退するって言ったら自分も早退して送るって言いそうだし、お見舞いに来てなんて言ったら喜んで来そうに思える。だけど、久寿弥はただでさえ両親からの指示に背いて私達と一緒の教室で生活をしていて、昨日なんて早く帰ってくるようにと言われていたのに忘れ物をしたと嘘をついてまで戻ってきてくれていたから、これ以上何かをさせてしまったいい加減久寿弥の行動にも制限がかけられてしまうだろう。
「……やっぱりそれじゃダメだ。久寿弥に対して何かを頼んだり気を遣わせたりするのは良くない」
呟きながら改めてどうにか踏ん張る覚悟を決めていたその時、久寿弥は不意に私に顔を向けると、曇りの無い瞳でジッと見つめてきた。
「ど、どうしたの……?」
「……真澄、本当は風邪ひいてるんじゃないか?」
「え……?」
その問いかけに驚く。たしかに具合が悪そうに見えているかもしれないけど、そこまで言えるだけの証拠は出した覚えがない。なのに、久寿弥がそう言った事は驚くと同時に何故か嬉しさを感じた。
「そ、そんなわけないじゃん……それに、本当に風邪なら友香と智也がすぐに気づくでしょ? ねえ、二人とも?」
「うーん……たしかにそうだね。でも、言われてみればひいててもおかしくない感じはするかな」
「ああ。それに、真澄って結構頑固なところがあるし、久寿弥に気を遣って言わないようにしててもおかしくない。真澄は昔から相手の事を考えて行動する癖があるからな」
「ああ、そういえばGWの時も助けたい気持ちと俺が外出制限をかけられるかもっていう気持ちの間で揺れてたしな」
「そう。真澄は相手の事を考えるあまり、自分の事を後にする事が多いの。私達に対しては少しだけ甘えてくれるけど、それでも自分より相手っていう考えをする事はあるしね……」
「だな。そう考えると、久寿弥が予想したように風邪をひいてる可能性は結構あるよな……」
味方になってくれると思っていた幼馴染み達にも疑念の視線を向けられ私はたじろぐ。私の予定では、後で二人には正直に話して、今日は私が家の用事で先に帰らないといけない事にしてもらって帰るつもりだった。
だけど、いま誤魔化して後で言おうものなら、確実にそれを叱られるし、誤魔化したという罪悪感に苛まれる事になる。
「ど、どうすれば……」
二人の幼馴染みからは疑念、久寿弥からは心配の視線を向けられ、この状況を打開する方法は無いかと考えていたその時、私の視界が急にぼやけた。
「あ、あれ……?」
視界がぼやけた事に驚いていると、体がぐらりと揺れて倒れだし、視界の端では三人が驚く顔が見えた気がした。
「ま、真澄……!?」
そんな友香の声が聞こえたけど、私の意識は少しずつ薄れていき、みんなの顔も声も少しずつ見えなくなったり聞こえなくなったりし始めていた。
「だ、だめ……このままじゃしんぱ……い、を……」
口も少し回らない中では呟いた後、私は屋上の床に倒れ、そのままぼんやりとしながら意識を失った。
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