第15話 HIDE&SHADE

 お昼ご飯をファミレスで済ませた後、“詩雨さん達”に連れられて私達はカラオケに来ていた。元々、私達も午後はそうする予定だったから好都合だったけど、まさか一緒だとは思わなくて驚いていた。

因みに、お昼ご飯中に詩雨さんが彩舞さんの事を名前で呼ぶなら自分も名前で呼んで欲しいと言い、それに便乗して久寿弥も私達にそろそろ名前で呼んで欲しいと言い始めたので、全員で名前で呼び合うように決め、詩雨さんはそれを本当に嬉しそうに喜んでいた。

そして店内に入り、指定された部屋まで行く途中、ここでも梨野は珍しそうに色々な物を見ていて、室内に入った瞬間、子供のように目を輝かせた。


「うわ……なんかすげぇな、ここ……!」

「久寿弥君はカラオケに来た事ないの?」

「ちょっと事情があってな。だから、すごくワクワクしてるんだ」

「でも、気持ちはわかるよな。俺達もカラオケに初めて来た時はあまりわからない状態だったけど、なんだかワクワクしたし」

「だね。さてと、歌う前にまずはドリンクバーで何か取ってこようかな。みんなは何が良い? 言ってくれたら私が取ってくるよ」

「あ、それなら俺が手伝うぞ。友香だけにやらせるなんて出来ないからな」

「それなら私も手伝うよ。三人で行って二つずつ持てばちょうど良いから」

「おお、そうだな。それじゃあ俺達で持ってくる担当にするか」


 その言葉に友香と詩雨さんが頷き、三人でドリンクバーまで行くために部屋を出ていくと、彩舞さんは途端に真剣な顔になった。


「……さて、詩雨と久寿弥君も行ったしちょっと二人に質問させてもらっても良いかな?」

「質問?」

「それは良いけど……俺達に何を聞きたいんだ? なんとなく久寿弥についてなのかなとは思うけど」

「……そう。率直に聞くけど、久寿弥君ってネイキッドの関係者だったりする?」


 その質問に私と智也の顔は強張り、その反応を見た彩舞さんは小さくため息をつく。 


「やっぱり、か……マスクもつけ慣れてない様子だったし、カラオケやファミレスも珍しそうにしてたからもしかしたらって思ってたんだ。カラオケやファミレスにあまり行った事がない人なら家庭の事情とかでまだわかるけど、マスクをつけ慣れてないなんて現代だとネイキッドくらいしかいないと思うし」

「う……」

「でも、勘違いしないで。私は久寿弥君がネイキッドだったとしても拒絶はしないし、関わってるあなた達に対して何かを言おうとは思ってないから。ただ、確認だけしたかったの。予想が合ってるかどうかね」

「……それならどうして久寿弥と詩雨の二人がいないタイミングに聞いてきたんだ?」

「……詩雨はネイキッドにあまり良い思い出がないから」

「良い思い出がない?」


 その言葉を聞いて彩舞さんは静かに頷く。


「詩雨は前にネイキッド関連で嫌な目に遭ってて、ネイキッドって聞くだけで体が震えるくらいになってる。だから、二人がいないタイミングじゃないと確認出来なかったんだ。

詩雨だって久寿弥君がネイキッドだと知っても拒みはしないと思うけど、心に受けた傷が痛んで、その姿を見た久寿弥君だって良い気はしないはずだから」

「そっか……」

「だから、後で二人から友香さんと久寿弥君にはその事を伝えて欲しいの。久寿弥君に少し辛い思いをさせるのはわかってるけど、詩雨はこれからもみんなと関わっていきたいみたいだし、知っていてもらった方が詩雨の耳に入る可能性を減らせると思う」

「……うん、わかった。私達も二人ともっと仲良くなりたいし、詩雨さんが辛くなる姿は見たくないから」

「そうだな。俺も話す時には気を付けるようにするよ」

「……ありがとう、二人とも」


 彩舞さんは安心したように微笑む。それくらい詩雨さんの事を考えているのがハッキリと見て取れ、その姿を見て私と智也はクスリと笑いあった。

そしてそれから程なくしてドリンクバーに行った三人が戻ってくると、久寿弥はとても目を輝かせていた。


「真澄! あのドリンクバーってスゴいんだな!」

「確かにスゴいけど、ファミレスにもあったでしょ?」

「あったけど、あそことは入ってる物が違う奴だったからさ!」

「はいはい、良かったね。まったく……詩雨さん、久寿弥が騒がしくなかった?」

「ううん、そんな事ないよ。私からしたらもうドリンクバーは結構見慣れた物だと思ってだけど、久寿弥君が楽しそうにしてるのを見てたら改めてドリンクバーってスゴいんだなって思えたから」

「そっか。さてと、飲み物も揃った事だし、まずは誰から歌う?」


 その問いかけに詩雨さんと彩舞さんの二人が揃ってマイクを取る。


「それじゃあ私達から行こうかな。ね、彩舞ちゃん」

「うん。元々、楽しみながらボイトレするために来たわけだし、まずは私達から行こうか」

「お、良いな。それで、何を歌うんだ?」

「それはね……これだよ」


 そう言って詩雨さんが入れたのは、ハイシェイこと『HIDE&SHADE』のデビュー曲だった。それを見て二人も好きなんだなと思っていると、二人は掛けていたメガネを外し、詩雨さんはキャスケットを取った。その瞬間、私達は目を疑った。


「……え?」

「う、うそ……二人って『HIDE&SHADE』だったの!?」

「ふふ、黙っててごめんね。でも、外で正体を明かしたら、騒ぎになってたから」

「そのお詫びにたくさん私達の生ライブを見せてあげるよ。さあ、行くよ。詩雨!」

「うん、彩舞ちゃん!」


 そして曲が始まり、二人は本番さながらのパフォーマンスを始めた。詩雨さんのとても澄んだ綺麗な声と少し振りを小さくしていてもカッコいいと思わせる彩舞さんのダンスは私達の目を奪い、目の前で起きている事が現実なのか信じられない程だった。


「わ、私達の目の前に本物のアイドルが……」

「スゴイ……これが二人のパフォーマンスなんだね」

「だな……なんだかこんな形で見せてもらって良いのかって思うよな」

「たしかにな。けど、二人はやる気みたいだし、俺達も時々歌いながら二人のライブを楽しませてもらおうぜ」

「……そうだね」


 久寿弥の言う通り、ハイシェイの二人はカラオケの個室というステージや観客が私達四人という状態でも手を抜く事なくパフォーマンスをしてくれて、その事に私はライブを楽しむと同時に嬉しさを感じていた。

久寿弥の思い付きで始まったGWのお出掛けだったけど、その思い付きはこの五月を私達にとって忘れられない物にしてくれたようだった。

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