第14話 景山彩舞との出会い

 拝戸さんの名前を呼んだ事から、その子が拝戸さんと待ち合わせをしていたという子なのだろうという事はわかった。だけど、その子の格好は拝戸さんと同様にあまり目立たないようにしていても雰囲気などからやはり本当はおしゃれに詳しいのが何となく察せられる物だった。

そして、その子の格好について私が疑問を感じていると、拝戸さんは嬉しそうに微笑んだ。


「あっ、彩舞あむちゃん!」

「彩舞ちゃんっていうのがあの子の名前なの?」

「はい。私にとって自慢の友達です」


 そう言う拝戸さんの嬉しそうで少し誇らしげな顔からその言葉が心からの言葉だというのがハッキリわかった。そして彩舞さんは心配そうな顔をしながらそのまま拝戸さんに近づくと、その手をスッと取った。


「遅れるって連絡があってもまだ来ないから探しに来たんだよ。何かあったの?」

「あ、うん……少し地味目な格好にしたつもりだったんだけど、チャラチャラした人達にナンパされちゃって。でも、ここにいる四人が助けてくれたんだよ」

「この人達が……?」


 彩舞さんは私達に視線を向ける。その視線は少し警戒した物だったけど、すぐに警戒心を解いてくれた様子で彩舞さんは丁寧に頭を下げた。


「詩雨を、友達を助けて頂き本当にありがとうこざいます。この子、普段から少し抜けてるところや押しに弱いところがあるので、皆さんに助けて頂かなかったらその人達に連れ去られて酷い目に遭っていたと思います」

「それは……まあ、否定出来ないか。あの人達、結構強引に連れていこうとしてたし、梨野君達が助けてくれた時もちょっとした言葉でだいぶカッとなってたから下手な事をしたら怪我どころじゃ済まなかったと思うもん」

「たしかに……ああいう事をやりなれてる感じはしたから、いつもあんな風に誰かを連れ去っては好き勝手してきてるのかも」

「正直、男として最低だよな。嫌がられても無理やり連れてこうとするなんてさ」

「うんうん。もう二度と会いたくないよね」

「まったくだな」


 三人がそれぞれの思った事を口にする中、彩舞さんはハッとしてから再び口を開いた。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は景山かげやま彩舞、景山でも彩舞でも好きな方で呼んでください」

「それじゃあ彩舞さんって呼ぶね。私は有原真澄」

「私は正親友香、真澄の幼馴染みで親友だよ。よろしくね、彩舞さん」

「真澄と友香の幼馴染みで親友の小佐田智也だ。よろしくな」

「そして俺は梨野久寿弥っていうんだ。この三人と拝戸のダチで、真澄を俺の女にするために毎日頑張ってる。よろしくな」

「頑張ってはいるのは認めるけど、心を動かされる気はないから。というか、自己紹介でそれを言うのはどうなの?」

「良いじゃねぇか。自己紹介っていうのは、自分の紹介なんだからさ。それに、真澄を俺の女にするのは確定事項だし、今の内からそれだけは言っておいても良いだろ?」

「確定してないから。まったく……」


 梨野の言葉にため息をついていると、彩舞さんは私達の様子を見てポカーンとしていた。けれど、すぐにクスクスと笑い始めた。


「……詩雨、なんだか面白い人達と出会ったんだね。正直、これまでに出会った人達の中で上位に入る程だよ」

「お、そうなのか? よかったな、真澄」

「それは喜んで良いのかな……」

「良いんじゃない? 初対面から悪印象よりはずっと良いよ」

「そうだな。警戒されたままの可能性もあった中ですぐに警戒も解いてもらって、こんな風にお前達の夫婦漫才みたいなのを楽しんでもらえてるしな」

「夫婦漫才……これは幼馴染み兼親友からの真澄を俺の女にしても良いっていうお許しが……」

「出てないから!」


 梨野の更なる言葉を否定し、少し恨みがましい視線を智也に向けると、智也は悪びれた様子もなく笑っていて、私は小さくため息をついた。

友香と智也の言う通り、初対面な上に友達の拝戸さんを囲むようにしていたのに、彩舞さんから警戒を解いてもらって自己紹介までしてもらったのは本当に良い事だ。一つ悪い事があるなら、そのために私のスタミナが犠牲になった事なんだけど。


「はあ……」

「真澄さん……だっけ、なんだか苦労してるんだね」

「本当に頼りになる幼馴染みで親友なのは間違いないけど、こういう時にノリの良さを発揮しないで欲しいかな……」

「はは、悪い悪い」

「本当に悪いと思ってる?」

「思ってるって。さて、こうして拝戸さんを会わせてあげられたわけだけど、この後はどうしようか。本当は二人の待ち合わせ場所まで行く予定だったけど、ここで会えたわけだし」

「あ、たしかにね。私としては二人さえよかったらこのまま一緒に過ごしたいけど……」

「それは構わないよ。だから、お昼を食べたらこのまま私達が行こうと思ってたところに行こうか。そろそろ良い時間っぽいしね」


 彩舞さんの言葉を聞いて携帯電話の画面を見ると、その言葉通りそろそろお昼になりそうな時間だった。


「そうだね。それじゃあそうする事にしようか」

「ああ。でも、本当に良いのか? 元々は二人だけの用事だったんだろ?」

「うん、良いの。聴衆が多いに越した事は無いから。ただ、結構驚かせちゃうかもしれないなぁ」

「たしかに」

「驚くって、何かあるのか?」

「それは後のお楽しみ。それじゃあお昼ごはんを食べるところを探そうか」


 彩舞さんの言葉に頷いた後、私達はまた新たに出来た友達と一緒に歩き始めた。

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