第12話 緊迫した空気
「……あれって、もしかしてナンパ?」
「そうっぽいけど……明らかに嫌がられてるよね」
「そうだな……」
腕を掴まれている女の子の顔や声は離れていてもわかる程に嫌がっていて、他の人達もどうにかした方が良いと思っていても今度は自分が絡まれたり逆上されたりする事を恐れて近づけないようだった。
私もどうにかして助けたいとは思ったが、チャラそうな方は私達よりも年上に見えていて、こっちに智也と梨野がいても殴りかかられたらひとたまりもないと思っていた。友香と智也も同意見なようで悔しそうな顔をしていたけど、梨野だけは不思議そうな顔をしていた。
「なあ、向こうで何か起きてるみたいだけど、みんな何もしないのか?」
「しない、じゃなくて出来ないの。助けたいとは思うけど、私達が向こうに行って助けようとしてもあの二人に逆上されて助けるどころかこっちが捕まったりいらない怪我を負ったりするかもしれない」
「ああ、なるほどな」
「そう。だから、今は警察に通報を──」
「けど、俺は放っておきたくない」
「え?」
私が驚いていると、梨野は真剣な顔をしていた。
「お前の言いたい事はわかった。だけど、だからといって行動しないのはわからない。警察が来るまでにいなくならないとも限らないし、来たとしても素直に応じる奴らじゃなかったら、あの嫌がってる子が危険に晒される可能性は大いにあるだろ」
「そうだけど! こんな日に怪我して帰ったら、梨野は中々外に出してもらえなくなるかもしれないんだよ!?」
「学校でもまた保健室登校しろって言われるかもな。けど、ここで放っておいたりあの子が傷つくような事があったら、この後だって存分に楽しめないし、帰ってから死ぬほど後悔する。それは俺の性に合わないんだよ」
「梨野……」
「だから、すまん。怪我を心配してくれるのは嬉しいけど、俺は放っておきたくない」
そう言う梨野は本当に止めても無駄だと感じる程で、その真剣で女の子を助けたいと思っている顔を少しだけカッコいいかなと思ってしまったのは悔しかった。
「……まったく、梨野って本当に頑固というか……」
「本当にすまないな」
「でも、そういう梨野を放っておくのもやっぱり良くないって思うし、私も手伝ってあげる」
「え、良いのか?」
「私だって助けたいのは同じだしね。友香、智也、二人は待ってて」
「ううん、私もやるよ」
「俺もやるよ。だけど、一応警察には通報しておくぞ。何かあってからじゃ遅いからな」
「わかった。三人とも、本当にありがとうな」
微笑む梨野に揃って頷いた後、智也が携帯電話を取り出す中で私達は女の子達に近づいた。
「は、離してって……!」
「良いじゃん、どうせ一人でさびしんだろ?」
「俺達と一緒にいた方が楽しいぜ?」
「だから、止めてって言ってるでしょ!?」
女の子が嫌がり、離してもらおうとする中、梨野は女の子を掴む手を力強く握り、私と友香で女の子の方へ駆け寄った。すると、掴まれた方はサングラス越しに梨野を睨み付け始めた。
「あ? なんだてめぇ?」
「お前みたいな奴に名乗るわけないだろ。こんな衆人環視の中で女の子に嫌な思いさせやがって」
「なんだ、ヒーローでも気取ってんのか、あぁ!?」
「気取るかよ。せっかくダチとの楽しい休みにしたいのに、お前達みたいなダサい奴らに邪魔されるわけにいかないだけだ。そんな趣味悪い格好してるようなダサい奴らなんかにな」
「て、てめえ……!」
「ふざけんじゃねぇぞ、ガキが!」
梨野の言葉に怒りを露にした事で女の子を掴む手も弱まり、私達はその内に女の子の手を引いてさっと梨野達から距離を離した。
そして梨野と男達の間に緊迫した空気が流れる中、智也は携帯の画面を見せながら男達に話しかけた。
「暴力で俺達を傷つけたいならすればいい。ただ、さっき警察には通報したから、捕まるのはお前達だぞ?」
「ぐ……!」
「さあ、どうする? このまま俺達を殴って警察に捕まるか立ち去るか、好きな方を選べよ」
「く、くそが!」
汚い捨て台詞を吐いて男達が去っていき、周りの人達が拍手をする中、私は女の子に声をかけた。
「大丈夫? 痛いとか苦しいとかはない?」
「だ、大丈夫です……怖かったけど、ただ掴まれていただけなので……」
「それなら良かった」
友香が安心したように微笑んでいると、梨野と智也もゆっくり近づいてきた。
「その子、大丈夫だったか?」
「うん、怖い思いはしたけど、痛いところとか苦しいとかはないって」
「そっか……けど、あれで退散してくれて助かったよ。あのままキレて殴りかかってきたら、酷い事にはなってたからな」
「でも、警察に通報してたんだし、智也の言う通り、結局あいつらが捕まるんじゃないの?」
「いや、実は通報はしてないんだ。お前達にはしておこうとは言ったんだけど、警察沙汰になったら、結局梨野が両親からの締め付けが強くなると思ったからな。だから、掛ける直前の画面をあいつらに見せてたんだよ」
「智也……へへっ、ありがとな」
「どういたしまして。とりあえずここから離れよう。このままここにいるよりもちょっとどこかで落ち着いた方がいいからな」
智也が言うと、女の子は少し申し訳なさそうな顔をした。
「えっと、それならちょっと友達と待ち合わせをしてるところだったので、そこでも良いですか? 少し遅れてしまってるから、たぶん心配してると思いますし……」
「俺達はいいけど、君達は良いのか?」
「私は大丈夫ですし、友達も私を助けてくれた人だって説明すれば大丈夫だと思います」
「わかった。よし、それじゃあ行こうぜ」
梨野の言葉に揃って頷いた後、智也と梨野は私達三人を挟むようにして前と後ろに立ち、その形のままで女の子の案内に従いながら歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます