十日目 魔王ルト
十日目、明かり一つ無い薄暗い大広間に一つだけ置かれた玉座に魔王ルトは座り、その目の前には四人の少年少女の姿があった。
「……来たか、四天王を討ちし者達よ。話によれば、己らの復讐を達成するための足掛かりとして我らを倒そうとしているそうだが、我は簡単には倒れんぞ? 我を倒すのは勇者のみなのだからな」
「勇者には倒されても良いんだな、魔王ルト」
「当然、勇者が相手であろうとも負けてやるつもりはない。だが、これまでの歴史の中で勇者以外に魔王を討った者はいない。よって、我も勇者以外の存在に負けてやる理由はないのだ」
「それなら良かったですね。私達がその最初の一組になりますから」
「ふん、ずいぶんと自信があるのだな。死の間際、四天王達からはどのような攻撃を仕掛けられたかは聞いている。そしてそこの長剣の小僧と杖の少女が自分達の力を手に入れていったとも」
「巨青竜イースの“
「つまり、アンタは擬似的に私達と四天王の八人を相手にするような物。そんな状況で勝てるのかしらね?」
「……我を誰だと思っている。我は魔王ルト、魔物達を統べ、人間達の支配から守護する者だ。お前達の屍、亡くなった者達の手向けとしよう」
そう言って魔王ルトは玉座から立ち上がり、階段をゆっくり踏みしめながら歩いていたが、光真はその姿を見ながら静かにニヤリと笑った。
「魔王ルト、俺達がお前相手に何の策もないと思うのか?」
「……なんだと?」
階段を降りきったところで魔王ルトは足を止め、光真達に鋭い眼光を向けると、光真達はスッと横に避けた。そしてその先にあったものを目にし、魔王ルトは驚くと同時に怒りを露にした。
「セト! くっ……貴様ら、セトに何をした!」
「安心しろよ、今は眠ってるだけだ」
「ここに来る前、先に倒した側近の人の能力を試してみたら、私達以外の人間の反応があったので誰がいるのかなと思って見に行ったらいたんですよ。
見たところ、私達より少し年下のようでしたし、もしかして魔王さんはこのくらいの女の子がお好みなのかなと考えて、一度強佳ちゃんを捧げたら良いんじゃないかなと思いましたよ」
「……真言、後で覚えておきなさいよ。それで話を聞いたら、勇者の力を持ってるっていうし、私達に対してあまり警戒心もないようだったから、とりあえず眠ってもらって、人質にしたのよ」
「察知の魔法の対策はあったから、俺達の行動はわからなかったようだな」
「ぐ……」
「まあ、今はこの幼い勇者様には何もしないさ。でも、どうしてここに勇者がいるんだ? 話を聞く限りだと、勇者はまだ見つかってないはずだろ」
光真からの問いかけに魔王ルトは怒りを堪えながら静かに答えた。
「……そやつは滅ぼした人間の村にいたのだ。勇者としての力を持ちながらもまだ覚醒していなかった事でそれには気づかれず、セトの両親が村長一家の召し使いとして村の中でも格が低く扱われた事から村人達が逃げるための盾とされてそのまま命を落とした。
そして、そんな両親の子供だからという身勝手な理由でまともな教育を受けられず、精神も幼いままになっており、そんな勇者など倒したところで意味は無いと考え、我に対して勇敢に挑戦をする勇者に育て上げるために名前すらなかったそやつをそのまま連れ帰り、セトと名付けて側近達にも特訓をさせていたのだ」
「あくまでも勇者として挑戦させたかったのか。けど、勇者の力ってまだ覚醒してないのか?」
「……している。だが、覚醒を確認した時点で力の気配は消させた。セトの気配を感じて勇者を我が物としようと考える不届き者にセトを渡すわけにもいかぬのでな。およそ、貴様らが復讐を果たしたい相手はあの四大国なのだろう?」
「……そうだ。勝手に呼び出した挙げ句、力がないと言って俺達だけ殺そうとしたり下僕みたいに扱おうとしたりしたあいつらは許してはおけないんだ」
「ふん、なるほどな……」
光真の話を聞いた魔王ルトが鼻で笑うと、光真達の表情に怒りの色が見え始めた。
「何がおかしいんだ!」
「……なに、そうして強大な力を手に入れて、復讐を果たしたとて、貴様らには栄光の未来などないと感じただけだ」
「栄光の未来がない……そんな事はありません!」
「貴様らの栄光の未来は
「……ええ、言ってたわ。屍や流れた血に対して何もせずに建てられた王宮は後々簡単に崩れて、自らの破滅を招く一因にもなるって」
「それが今の貴様らを待つ未来だ。そもそも貴様らに力を与えた者が本当に信頼出来るのか?」
「センセイを信頼……」
敦史が軽く俯きながら言う中、光真は怒りを露にする。
「出来るに決まってる! 少なくとも、あんな奴らよりかはな!」
「そうか。では、そろそろ終幕といこうか」
「終幕……」
その瞬間、魔王ルトが己の心臓に腕を突き立てると、それと同時に勇者セトの胸にも大きな穴が空いた。
「な、何だこれ……!?」
「かはっ……くく、我がセトとの間に交わした契約だ。どちらかの状態が変化した時、相手の同箇所も同じようになるというな」
「そ、それじゃあこの子を助けようとしたら貴方も……!?」
「その通りだ。これはセトが望んだ事であり、我も止めはしたが、頑なにそうしてくれと言うのでな」
「……でも、アンタは良いの? アンタだって魔王として成し遂げたい事があったんじゃ……」
「こうして部下達がいなくなった以上、我がこの世界にいる理由はない。そして我の消滅と同時にまだこの世界にいる魔物達もいずれは消える。それも奴らが望んだ事だからな」
「……それで、向こうで四天王達と会うのか?」
敦史の問いかけに魔王ルトは口から血を吐きながら頷く。
「ああ、そうだ。果たして我が黄泉の国で奴らに会えるかはわからんが、会えた時には最期の時に立ち会えなかった事を謝り、これまでの苦労を労ってやるとしよう。セトには悪い事をしたが、何か菓子でも与えてやれば喜ぶだろう」
「ま、待てよ……!」
「ああ、我とセトの力であれば好きなだけ持っていくが良い。図書館にも能力を記した本を納めているから、お前達の復讐の助けにはなるだろう」
「そういう事じゃ……!」
「ではな、人間達よ。お前達の復讐、黄泉の国より見守らせてもらうぞ」
その言葉を最期に魔王ルトは事切れ、ハッとして光真は勇者セトの胸部に手を当てたが、勇者セトの心臓も拍動を止めていた。
「……ふざけんなよ。こんな向こうに勝ち逃げされた形なんて望んでねぇよ!」
「……どうせ私達なんてまともに相手する勝ちもないと思われたんでしょ。ほら、図書館に能力の本があるらしいから、早く真言を連れて行ってきなさい」
「……わかりました。行きましょう、光真君」
そして光真と真言が大広間を出ていった後、強佳と敦史はお互いに何も言わずに魔王ルトと勇者セトの亡骸を共に玉座へと載せた。
「……センセイが信用出来るか、か……」
「出来るかどうかではなく、今はするしかないというのが正直なところだな」
「そうね。光真と真言、私と敦史で考えの相違が見られたし、とりあえず二人とは協力しながら復讐を終わらせて、その間に色々考えましょ。あの二人は何も感じてないようだけど、私とアンタは白虎将スウトと黒亀老スノーの言葉に感じる物があったようだから」
「ああ、わかった」
二人の亡骸に対して強佳達が静かに手を合わせる中、命を落とした魔王と勇者は共に穏やかな死に顔をしていた。
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