九日目 黒亀老スノー
九日目、黒亀老スノーは古ぼけた神殿の中で恐怖していた。連日、四天王達の死の報告を受け、残るは己のみかと考えながらも勇者とは違う何者かがいるのだとワクワクしており、散っていった四天王達の意思を継いでその者達を必ずや討ち果たすと意気込んでいた。
しかし、黒亀老スノーは自分の見立てが甘かったとすぐに気づかされた。長剣を振るいながら四天王達の力も使う少年と同士討ちなどを狙いつつボウガンで的確に射抜いてくる少年はたしかに大した実力があったが、他にいた少女二人の力は黒亀老スノーにとって脅威以外の何ものでもなかったのだ。
「あ、あ……」
「ふふっ……お爺さん、だいぶ接触隷属に抵抗してますけど、そのローブ越しでも私に対して劣情を催しているのがしっかりとわかりますよ?」
「もっとも、私が先に経験搾取で筋力と体力を奪っておいたし、今もそれは継続してるから、そのまま地べたに倒れててもらうけどね」
自分を見下ろしながら嬉しそうにゾクゾクとしている真言と自分に座りながら頬杖をつく強佳の姿に黒亀老スノーは己の内から込み上げてくる真言への劣情と老いと悟りから既に考えすらしなかった女人の肉体への渇望に困惑しながらも荒い息づかいをしていた。
「はあ、はあ……お、お主ら……本当に何者なんじゃ……!?」
「私達はある人達に復讐するために頑張っているんです。自分達が優れていると考え、私達を見下したあの人達を苦しめて殺すために」
「それで、その前に四天王全員と魔王を倒して自分達の経験値にしようとしてるのよ。ただ、手下を全員男子側に送ってくれたのは助かったわ。おかげで、アンタの動きを真言が封じている内に私が力を奪って完全に制圧出来ているんだから。この筋力と走力をくれた白虎将スウトには感謝ね」
「……四天王において筋力や走力と言えば奴じゃからな。ワシらとは違って魔法を使う事は出来なかったが、それでもあのリーダーシップやいつでも自分を鍛えようとする向上心には部下達も尊敬の眼差しを向け、魔王様やワシらも一目置いておった。ワシもこの老身にムチを打って奴の特訓には付き合ってやったわい」
「アンタの無限に回復する力や弱点以外は受け付けない力があれば出来るでしょうね。その上で死霊や魔法生物達まで使役してるし、私の力がなかったら勝ち目なんて無かったわよ」
「ワシとて四天王じゃからの。簡単には勝たせんというわけじゃ。さて、ワシを倒して後は魔王様と言っておったが、魔王様も四天王達を倒されてお怒りのようじゃ。そう簡単には勝てんぞ?」
苦しそうにしながらも黒亀老スノーが笑ってみせると、その態度に真言はムッとしながら棘鞭を振るおうとしたが、強佳はそれを手で制した。
「簡単に勝てるなんて思ってないわ。だけど、勝たないといけないから私達は勝つのよ。私達の復讐に水を差されるわけにもいかないし、漁夫の利を狙われても仕方ないからね」
「魔王様はそのような事はせんとおもうがな。じゃが、一つだけ言っておくとすれば、お主らの復讐の果てに何があるのかだけは考えておくといい」
「復讐の果て……」
「ああ。自分達を虐げたり命を奪おうとしたりした者達に復讐する事は別に構わん。じゃがな若人達よ、復讐を果たした時に周りにあるのはこれまでに命を奪ってきた者達の屍とその者達が流してきた血じゃ。
それに対して何もせずに建てられた王宮は後々簡単に崩れ、それが自らの破滅をもたらす一因にもなる。弔えとは言わんが、復讐を果たす前に成し遂げた後の事について考えるのも一つの考えじゃとワシは思うぞ?」
「…………」
「……何をわけのわからない事を。私達の復讐が終わった後も私達は問題なくこの世界を統治しますよ」
強佳が神妙な面持ちでいるのに対して真言がバカにしたような顔をすると、黒亀老スノーは二人の反応を見比べてから小さく息をついた。
「……そうか。それならばそれでもよいが、あとで後悔だけはせんようにな。さて……先程、唯一弱点であったかかとをその棘鞭で打たれてしもうたから、回復も間に合わずにこのまま死ぬ事じゃろう。力を吸い取る力のお主、ワシの力もだいぶ足しにはなったかの?」
「足しどころかもうお腹いっぱいよ。だけど、そろそろウチの何でもコピーする奴が来るから、アンタの持ってる能力も頂いていくわね。アイツは前線に立つタイプだし、かなり役には立つでしょ」
「違いない。どれ程の傷や毒などを負っても、何もせずに少しずつ回復していくからの。前線に立つ剣士となれば、その力は有利に働くとワシも思うぞ」
「そうね。それと……アンタの話も少しだけ参考してあげる。敵でありながら一応の忠告をしてくれるわけだし、白虎将スウトと一緒でアンタから奪った力を使う時はその顔や声を思い出してあげるわ。感謝しなさいよね?」
「……ああ、そうさせてもらうとしよう。しかし、まさか四天王の久しぶりの顔合わせが黄泉の国でとはな……奴らも先に酒盛りをしているじゃろうし、何か肴でも探してから会いにでも行くかの」
そう言う黒亀老スノーの表情は接触隷属の力が及びながらも少しだけ穏やかになっており、それに対して真言が苛立った様子を見せながら棘鞭を振るう準備をする中、強佳だけは黒亀老スノーを静かに見つめていた。
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