六日目 巨青竜イース

 六日目、支給された鎧やローブを着た光真達は、センセイを先頭にしながら松明を片手に薄暗い洞窟を歩いていた。洞窟内にはスライムやゴブリンなどの魔物の姿も見かけられたが、それらは血溜まりや嘔吐物の中で既に息絶えており、洞窟内には異臭と死臭が混ざった臭いが漂っていた。


「ふぅ……だいぶ倒してきたな。センセイ、そろそろ目的地か?」

「はい、もうすぐですよ」

「く、暗くてなんだか怖いな……」

「あんなに魔物を容赦なく殺しておいてそんな事を言えるあんたの方が怖いわよ。まあ、私もだいぶ経験は貰ったし、人の事は言えないけど」

「だが、これも必要な犠牲だ。ところで、目的地には何があるんだ? 着けばわかると出発時には言っていたが……」

「それは──ああ、ここですね」


 広場に着くと同時にセンセイは立ち止まる。目の前には青い鱗を持つ巨竜がおり、静かに眠るその姿に光真達はざわめき始めた。


「ど、ドラゴン……!?」

「はい。この竜が本日の授業の相手ですよ」


 センセイが微笑みながら言うと、巨竜は目を覚まし、顔を近づけながらセンセイ達を見た。そしてニヤリと笑うと、洞窟内に反響する程の声で話し始めた。


「ほう……エサが自分からやってくるとはな」

「エサって……」

「そうであろう? 魔王四天王であるこの我の元にわざわざ来たのだから、自ら食われる以外にあり得ん」

「いえ、食べられる気はありませんよ。巨青竜イース、貴方には私の生徒達の授業のための教材になってもらいます」

「我を授業の教材にだと……我を愚弄する気か!」


 巨青竜イースの怒りの咆哮は天井や壁を震わせ、それに光真達も緊張した様子を見せたが、センセイは顔色一つ変えずにニコニコと笑っていた。


「その程度ですか」

「なっ……!?」

「さて、今日は反省会やおさらいなどもしたいので、早々に片付けましょうか。皆さん、そろそろ手を出しても良いですよ」

「良いですよって……」

「こんな巨大なドラゴンを私達で……」

「問題ありませんよ。とりあえず、今日からの五日間で四天王並びに魔王の討伐まで行うつもりですから。このくらいはまだ序の口です」


 淡々と言うセンセイの言葉に巨青竜イースは信じられない物を見るような目でセンセイを見始める。


「貴様……一体何者だ……」

「私は一介の教師に過ぎません。さあ、出番ですよ、皆さん」


 センセイの言葉に光真達はようやく戦う意思を見せると、光真と真言が前に進み出、その少し後ろに敦史と強佳が立った。そして、真言が息を吐いてから巨青竜イースを見つめた瞬間、何をするかと警戒しながら真言を見た巨青竜イースの顔はボーッとした物に変わったが、すぐに苦しそうな唸り声を上げ始めた。


「ぐぅ……な、なんだこれは……!」

「どうやら無事に真言の接触隷属が掛かったみたいだな」

「な、なんだと……?」

「ふふ……ドラゴンさん、私が欲しくてたまらなくなっていませんか? 人とは大きさも形も違うそのいきり立つモノで私を貫き、内側から滾ってしかたない欲望を私の中に放ちたいんじゃないですか?」

「ぐっ……があっ……!」

「良いんですよ、その反応は正常ですから。さあ、早く私に触れてみて下さい。私に触れて、私に全てを委ねてください……」


 妖艶な雰囲気を出しながら真言が手を差し出して近づくと、巨青竜イースは息を荒くしながら真言に視線を向け、己の欲を主張するモノをむき出しにしながら涎を垂らしつつ真言の手に触れた。

その瞬間、巨青竜イースの顔には感情がなくなり、その姿に光真達は安心感に満ちた様子を見せた。


「これで完全にコイツは真言の支配下に置かれたな。さて……これなら何も心配せずに戦えるけど、まずは経験を吸いとっておくか。強佳、頼んだ」

「はいはい」


 強佳は答えながら巨青竜イースに近づくと、真言が手を離した箇所に今度は自分が触れた。すると、巨青竜イースの体は仄かに青い光を放ち、その光は少しずつ強佳の中へと吸い込まれていった。

そして数分程度それを続けていたが、強佳が手を離すと同時に真言が接触隷属を解くと、巨青竜イースはハッとした。

しかし、腕力や筋力を全て奪われた事で足はその体重や翼の重量を抑えきれずに大きな音を立てながら折れていき、巨青竜イースはその場に倒れこむと同時に苦痛の声を上げた。


「ぐぅっ!?」

「うわ……今、すごい音を立てて骨折れてたよな」

「腕力と筋力、後は体力に魔力、それと骨の耐久力まで奪ったからね。これはもう勝負にならないでしょ」

「あ……あぐっ、ぐがあっ!!」

「強佳、知力も奪ったのか?」

「ええ。これで言葉もまともに発する事が出来ないし、私達が痛め付けてもただ痛そうな声を上げるだけよ」

「そっか。さてと……それじゃあ俺達の武器のサビと復讐成就のための経験値になってもらうか」


 光真の言葉に三人が頷いた後、四人は抵抗出来ない巨青竜イースに攻撃を仕掛け始めた。光真の放つ炎と強佳が落とした雷は耐久力を失った鱗を焦がしながら巨青竜イースに声にならない悲鳴を上げさせ、鱗が剥がれた事でむき出しになった肌に真言が楽しそうな顔で棘鞭を振るいながら簡単には殺すまいと回復魔法をかけ、ボウガンの矢を次々と目や剥がれ落ちた爪の中に打ち込みながら敦史は毒の魔法をかけ、巨青竜イースは血と共に胃の中の物を吐き出した。

その光景は一方的な蹂躙であり、楽しそうな様子の光真達が攻撃を仕掛ける度に洞窟内には血が飛び、千切れた肉片はビチャリという水音を立てて壁や床にぶつかると、耐え難い異臭を放つ。

巨青竜イースは何も出来ずに光真達にいたぶられながら瀕死と回復を繰り返されて終わりのない悪夢を味わい、誰もが目を背けたくなる凄惨な光景をセンセイはニコニコと笑いながら何も言わずに見守っていた。

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