七日目 赤雀姫スウ
「な、何よこれ……」
七日目、魔王四天王の一人である赤雀姫スウは目の前の光景に驚いていた。一時間程前に手下からアジトとしている宮殿内に人間の侵入者が来たと伝達が入ったが、赤雀姫スウは勇者がまだ見つかっていないという事実を知っていた事で特に焦らずに手下達に始末を命じた。
これまでも四天王を討伐しようと侵入してきた人間達を自慢の炎で焼きつくし、死に際の体を足で踏み砕きながら嘲笑ってやった事もあり、赤雀姫スウは今回もそうしてやろうと考えながら手下達の報せを待った。
しかし、一向に誰も報せに来ず、赤雀姫スウは報せが遅いと手下達を叱りつけてやるのだと意気込みながら侵入者達を追い込んでいるであろう大広間へ向かい、襖を開けた瞬間に目を疑うような光景が広がっていたのだった。
「ああ……コウマ様ぁ……!」
「コウマ様、私も……」
「コウマ様、いっぱい愛してくださぁい……」
「ああ、全員俺が愛してやるよ」
大広間では手下である魔族の女性達と侵入者であろう人間の少年がいたが、その誰もが衣服を身にまとっていない上に手下達は目をトロンとさせながら人間の少年に対して甘えた声を出し、その近くには白い体液をベッタリとつけながら恍惚とした表情で息を荒くして倒れている者すらいた。
「な……何をやってるのよ、アンタ達! ソイツは侵入者なんだから、さっさとたお──」
赤雀姫スウは怒りを露にしていたが、自身の背後に強い殺気を感じると、即座に距離を取るべく大広間の中へと入った。目の前にはニコニコと笑う少女がいたが、少女の目はまったく笑っておらず、手には殺傷能力の高い棘鞭が握られていた。
「あ、アンタも侵入者よね。ウチの手下達に一体何を──」
「黙ってくれますか?」
「え?」
その瞬間、棘鞭は赤雀姫スウの首に巻きつき、少女が持ち手を引っ張った事で血のように赤い棘は首に勢いよく食い込み、赤雀姫スウは痛みと苦しみで声を上げた。
「あっ……があっ……」
「……気持ち悪い声出しますね。見た目は綺麗ですけど、苦しい時はそんな声しか出せないんですか」
「ぐっ……あ、アンタ達は何者なのよ……!」
「……私達は復讐のために生き、そのために貴女達四天王や魔王を殺そうとしている者です。そしてそのために光真君には私の接触隷属で手下達を篭絡してもらいましたが……想像していた通り、やっぱりとても不快ですね。
光真君から愛されるのは私だけでよくて、光真君から好きだと言われるのは私しか許されなくて、光真君から色々な物を注がれて良いのは……」
狂愛。目に暗い光を宿しながらブツブツと呟く少女にはその言葉が一番合っており、その人間でありながらもどこか人外のようにも見えてくる少女の姿に赤雀姫スウは恐怖を感じた。
そして光真は二人の方へ視線を向けると、満足そうな笑みを浮かべながら少女に話しかけた。
「真言、お疲れ。向こうはどうだ?」
「あ、光真君。はい、敦史君と強佳ちゃんが経験搾取で力を奪いながらどんどん殺していて、そろそろこっちに来ると思いますよ」
「そっか。それで、その鞭で捕まえてるのが今回の四天王の赤雀姫スウか……」
光真は艶のある短い赤髪やくびれのあるスラリとした体型、チャイナ服を彷彿とさせる赤い衣服から覗く白い肌や無駄に肉のついていない肢体をなめ回すように見ると、下卑た笑みを浮かべた。
「……ソイツもだいぶ良さそうだな。真言、強佳が来るまで良いか?」
「……その分、後で私もお願いしますね? 本当ならさっさと殺してしまいたいですが、強佳ちゃんの能力のために生かしているだけですから」
「さっさと殺す、ですって……ふざけんじゃないわよ! こんな鞭くらい簡単に引きちぎって、アンタ達やその仲間も私の炎で消し炭に……!?」
赤雀姫スウは体をビクリと震わせると、顔を紅潮させて息を荒くし始めた。
「な、何これは……!?」
「あー……真言、またその毒を使ってみたのか?」
「ど、毒……!? そんなバカな……私達四天王や魔王様にはその辺の毒が効くわけが……!」
「その辺の毒じゃないからですよ。私がこの棘鞭を介して貴女に盛ったのは、遅効性の媚薬的な物ですから」
「媚薬……!」
「はい。それと、体に力が入らなくなる遅効性の毒も少々。光真君の事ですから、貴女を楽しみたいと言うと思っていたので、首に巻きつけた時に盛っておいたんですよ」
「流石だな、真言。因みに、この手下達もまずはその毒で抵抗出来なくして、その後に前にコピーしてた接触隷属で完全に支配下に置いた。それで、アンタが来るまでだいぶ楽しませてもらってたんだが……今度はアンタが俺を楽しませてくれる番だ」
「ふ、ふざけ──」
赤雀姫スウはどうにか気丈に振る舞っていたが、光真が行使した接触隷属の効力によって更に己の欲求を高められ、太股に透明な液体を垂らしながらその場に座り込んでしまった。
「はあ、はあ……!」
「そろそろ限界のようですね。自慢の炎で攻撃したくともそれさえ唱えさせなければ問題はないですし、一旦その欲求に身を委ねてしまえば楽になれますよ?」
「そ、そんな事は……させ、ない……! 私がこの身を捧げるのは……魔王様だけ、なんだか……ら……!」
「へえ、アンタは魔王とそういう関係なのか。まあ良いさ、どうせすぐにアンタは魔王よりも俺の方がよくなる。その後は……まあ、強佳に力を吸われて、真言にこの手下達と一緒に殺されるけどな」
「あ、アンタみたいなお子様に……」
「それじゃあ、そのお子様にヒイヒイ言わされてもらおうか」
ゆっくりと近づいていた光真はその言葉と同時に赤雀姫スウに触れ、赤雀姫スウは一粒の涙を流しながら何かを呟いたが、その目にはもう光真しか映っていなかった。
そして、宮殿内にはしばらく多くの女性の嬌声が響き渡っており、敦史と強佳が宮殿内へ入っていく中、センセイは微笑みながらその様子を静かに見守っていた。
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