一日目 能力覚醒
一日目の朝、起床した光真は用意されていた寝間着から昨夜と同じ制服に着替え、静かな廊下を歩いていた。睡眠自体はしっかりと取れたのか昨夜のようすとは違って、顔つきもどこか晴れやかであったが、何か気になる事があるのかしきりに自身の胸の辺りに視線を向けていた。
「……なんだろうな、この感じ。起きた時から胸の辺りに何かがある感じがするけど、これがもしかしてセンセイが言ってた能力って奴なのか?」
不思議そうに呟きながら胸の拳で軽く二度ほど叩いたりゆっくり擦ったりするも何かが起きるわけでもなかったため、光真は一度それを置いておき、とりあえず誰かいるだろうと考えてエントランスへと向かった。
エントランスに着くと、そこには予想したように昨夜と同じ姿のセンセイや他の三人の姿もあったが、階段に座る気弱そうな黒髪の少女を見た瞬間、光真の胸の辺りに強い衝撃が走った。
「ぐっ……!?」
その衝撃で光真は膝をつき、気弱そうな少女はハッとして立ち上がって光真に近づき、壁にもたれていた少年と調度品の前に立つ少女はまたかといった様子で小さく息をついていた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ぐ……な、なんだこれ……」
「ご、ごめんなさい……私の能力のせいで……」
「の、能力……?」
申し訳なさそうにする少女を光真は見上げていたが、口からは興奮による熱く荒い吐息が漏れ、その目には少女への劣情や支配欲などが宿っていた上に、身体中の血液が“ある一ヶ所”に集まり、それが衣服で押さえつけられている事で痛みを感じる程だった。
「はあ、はあ……」
「え、えっと……さっきと同じでどうにか解除を──」
「その心配はいりませんよ、一色さん」
「え?」
一色と呼ばれた長い黒髪の少女が不思議そうにしながらセンセイに視線を向けていると、光真の頭の中に感情のない声が響いた。
『能力の存在を確認。対象能力、
「ふ、複製って……あれ?」
「ど、どうしました?」
「……治まった。さっきまで君を自分の物にしたかったり組み敷いてでもめちゃくちゃにしたかったりしたのに急に大丈夫に……」
「それが君の能力、
「完全複製……」
「はい。自身が体験や目撃したり詳細を伝聞されたりした能力を自分の物としてその身に宿し、以降はその能力を自由に使用出来る上に一度複製した能力は一切受け付けない能力、それがその完全複製です」
「相手の能力をコピー出来る上に自分に対してはそれを行使出来ない……」
自身の能力の詳細を聞いて、光真が信じられないといった顔をする中、金髪のツインテールの少女は少々危機感を覚えた様子を見せていた。
「……その能力、私達にとっても危険じゃない。今のでその子の能力をコピー出来たみたいだし、使おうとしたら私とその子がさっきのそいつみたいになって、そいつの好き勝手にされかねないわよ?」
「俺の能力もコピーされてしまったら厄介ではあるし、たしかに危険視はすべきだな……」
「ああ、心配はいりませんよ、
「……まあ、それなら良いけど」
「たしかにその方が俺も良いな。別にこの能力を使ってお前達三人を支配したいわけでもないし、そんなのあいつらと同じ事しかしてないからな」
「そう言ってもらえると助かる。さて……これでまた全員が揃ったな」
猪狩と呼ばれた大柄な体格の少年がエントランス内を見回し、食満と呼ばれた金髪のツインテールの少女が少し警戒したような視線を周囲に向ける中、センセイは満足げに頷く。
「はい。完全複製の対田光真さんと接触隷属の一色
この四人で皆さんを無能として追放したかつてのクラスメート達やこの世界を手中に収めようと目論む四つの大国を倒し、その後の世界を皆さんが治める。それが私達の目的です」
「あいつらを……けど、俺達は戦いや異能とは無縁の世界から来たんだぜ? そんな中で戦えるとはとても……」
「そのために私がいるのです。今日は交流のための一日目としますが、明日からは武器をお渡ししたりあらゆる魔術の修得、能力を利用しての戦術の指南などの座学や実地の授業を行います。
そしてそれらとあなた方の復讐、それを30日で行う。それがこれから皆さんに行ってもらう事の全てです」
「30日……それって短いのか長いのかわからないですね……」
「だいたいの計算ですが、妥当な日数ではありますよ。因みに、授業がない時間は自由時間なので、この寄宿舎内で好きなように過ごしてもらっても構いませんし、皆さんがお互いを好きになった場合、恋愛も自由にして頂いて構いません。
それと……昨夜もお伝えしたように異性の部屋に入る事も禁止していませんので、合意の上であれば同衾もご自由にして頂いて構いませんし、来訪にさえ気を配って頂ければ自室で何をしていても大丈夫です。一応、言ってもらえれば道具などもご用意出来ますが……その際はあまり大きな声を出さないように気をつけてくださいね?」
その含みのある言い方に光真と敦史は目をギラつかせてから一瞬真言と強佳に視線を向け、真言が少し恥ずかしそうに顔を赤らめながらも光真を見る中、強佳だけは呆れたようにため息をついていた。
「そんな事をするわけないわ。ただ、この寄宿舎を自分の家のように考えて良いっていう点だけはありがたいわね。そうじゃないと安心なんて出来ないもの」
「そうでしょうね。因みに、皆さんはかつてのクラスメート達やあの大国達に対してこれをしたいといった考えはありますか?」
センセイからの問いかけに四人は静かに頷く。
「……俺はあいつらを殺してやりたい。能力が無かった俺を蔑んだり殺そうとしたりしてさんざん傷つけてきた上に助けないように町の奴らに言い含めていたんだろうからな。後悔しても許してやる気なんて更々ないし、あいつら全員を殺した後は今度は町の奴らも皆殺しにしてやる」
「わ、私も……同じです。これまでさんざん酷い仕打ちばかり受けてきたので、この能力や皆さんと一緒にあの人達を心から後悔させたい、です……」
「俺も似たような物か。向こうの世界にいた頃から、身に覚えのない罪を着せられたりそれがきっかけで孤立したりさせられてきたからな。ここらであいつらには痛い目にあってもらい、苦しみながら死んでもらうとしよう」
「……私も同じ。これまでさんざんバカにしてきたり能力のない私を慰み物なんかにすらならないと言った事を後悔させてやるわ。その中であいつらが死んだとしても……まあ、仕方ないでしょうね」
「わかりました。では、そろそろ朝ごはんにしましょうか。その後は自室を好きなように変えたりこの寄宿舎内を探索したりなど自由にして頂いて構いませんので、今日一日はのんびりとしていてください」
センセイのその言葉に四人が頷いた後、センセイの後に続いて光真達は歩き始めた。その間、光真は真言に近づき、ボソボソとした声で話しかけると、真言は軽く頬を赤らめながらも静かに頷き、それに対して光真は嬉しそうな笑みを浮かべ、真言の腰にスッと手を回し、手のひらは真言の臀部を静かに擦っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます