二日目 自己紹介
二日目の午前、寄宿舎内にある教室の一つに光真達の姿はあった。少々広めの室内に教卓と黒板が一つ、男女で隣り合って座っている光真達の机と椅子が中央に四つずつあり、黒板の前に立つセンセイは席に座りながら自分を静かに見つめる光真達を見回して満足そうに頷いた。
「皆さんの様子を見る限り、どうやら少しだけでも仲良くなれているみたいですね」
「仲良く、ね……その二人に関しては仲良くしてたというよりは“よろしくやってた”っていうのが正しいんじゃない? 声も普通に大きかったし、食事と入浴の時以外はずっと二人きりなんてほんとお盛んよね」
「だ、だって……私の能力にかかってた時の光真君を見てたら私もその気になっちゃったし、それに……き、気持ちよかったから……」
「俺もだよ、真言。というか、それはそっちも同じだろ? 少し休憩しようかなんて話してたら、お前達の声だって聞こえてきてたし」
光真の指摘に強佳は赤面しながらムッとする。
「し、仕方ないでしょ……! 私だって本当は興味ないわけじゃなかったし、私の能力を最大限に活かすなら触れあう方が一番なわけだし……」
「そうだぞ。強佳は少し体型が幼く見えるが、俺を攻める時の顔と動きはとても色っぽくてよかったし、白い肌ももちもちツヤツヤで色々な体の具合も最高で──」
「余計な事を言うな、敦史!まったく……それに関しては後にして、とりあえず今日は座学で何を学ぶのよ。昨日は魔法や武器の扱いなんかもやるって言ってたけど」
「教室にしたのは少しでも学校らしくしようと考えたからですが、今日は改めて皆さんに自己紹介をしてもらい、その後に能力の再確認をしようと思います。対田さんにはまだコピーをしていないお二人の能力もコピーしてもらう必要がありますしね」
「そういえば、まだ二人の能力はコピーしてなかったな」
「そういう事です。では、まずは対田光真さんからお願いします」
その声に頷き、光真は静かに席を立つ。
「えっと……名前は対田光真、みんなと同じで別の世界からここにクラス単位で転移させられてきたんだけど、俺だけ能力がなかったから無能っていうレッテルを貼られて、不要だから殺そうなんて言われたから逃げてる内に色々な魔法や武器で攻撃を受けて傷だらけになってたところをセンセイに拾われたんだ」
「だいぶ血の気が多い奴らだったんだな。因みに、学校はどこなんだ?」
「
「ん、東校か。奇遇だな、俺は盛日北だぞ」
「え、私は盛日西高校です……」
「私は南よ。まさかその四校から集まってるなんてね……」
「そうだな。それで、俺が転移させられてきたのが、リュイ王国ってところで、俺の能力はみんなも知ってるように『完全複製』って奴なんだけど……センセイ、この能力って昨日説明があった通りで良いのか?」
光真の問いかけにセンセイは微笑みながら頷く。
「はい。体験や目撃をしたり、能力の詳細を伝え聞いたりする事でその能力を自分の中に複製し、複製した能力は全て万全の状態で使用出来る上にコピーした能力を相手から行使されてもそれらを無効化します。
ですが、能力が介入しない攻撃に関してはしっかりと受けてしまうので、出来るだけそれらにも対応出来る能力を早めに手に入れたいところですね」
「でも、能力相手なら無敵なのは頼もしいわね。私達の場合は特別にその無敵を一時的に無くせるから不安になる必要もないし」
「だな。とりあえず俺はこんなところだし、次は真言で良いか?」
「は、はい……」
真言は返事をすると、光真が座ると同時に席を立った。
「い、一色真言です。ここに来た経緯は光真君とだいたい同じで、光真君にはもう話したんですが私の場合は……その……能力が無いからといってすぐには追い出されそうになったり殺されそうになったりしなかったんです」
「ん、そうなのか?」
「……はい、その代わりに男子達や兵士の人達の発散相手になれって言われて、私……こんな暗い感じだから向こうでも男子から結構セクハラを受けたり誰もいない放課後に何人かに囲まれて私の局部を無理やり晒されそうになったり襲われそうになったりしてて、同じ事になるのが嫌だから逃げ出したらセンセイに拾ってもらえたんです」
「酷いわね……男子も当然最低だけど、それを止めない女子も最低よ」
「それで、私が転移させられたのがビャコ王国というところで、私の能力は接触隷属というみたいですけど、これがまだ相手を昨日の光真君達みたいにするくらいしかわかってなくて……」
「接触隷属は異性に対して強い効果を発揮する能力で、その姿を見た者は使用者に魅了されると同時に強い劣情と支配欲を感じ、人目も憚らずにその肉体を味わいたいという強い欲求に駆られます。
そして欲求に負けて使用者に触れたら、使用者が能力を解除するまで使用者の支配下に置かれ、使用者の命令ならばどのような事でも迷わずに遂行する人形に成り果てます」
「ああ、だから昨日二人で試してみた時に結構キツめの事をお願いしても文句も言わずにやってくれたし、俺も疑問すら抱かずに真言の頼みを聞いてたのか」
「意識ってその時もあるのね」
「ある。あるけど、真言が自分の絶対的な支配者みたいに思ってて、ただ触れただけよりも繋がりあった後の方が更にその考えが頭の中に浸透していった感じはするな」
「その通りです。使用者の肉体にどれだけ触れるかによって支配の強さも変わり、肉体全てに触れてしまったら、使用者以外の存在はどうでもよくなる程に支配されてしまいます。因みに、同性でも使用者に対して肉欲や恋愛感情を持っている相手なら同じように支配下に置く事は出来ますよ」
「そうなんですね。それじゃあ私はこれでいいので、次は……」
真言が迷った様子で残った二人を見る中、敦士が静かに立ち上がった。
「俺が行こう。俺の名前は猪狩敦史、俺もクラス単位で転移させられてきて、能力のないデカブツに用はないと追い出されて、どうしたもんかと思っていた時にセンセイに拾われたんだ。
転移させられたのはゲブ王国で、能力は拒絶創造という物だ。これからよろしく頼む」
「拒絶創造……なんかコピーされたら厄介って言ってたけど、どんな能力なんだ?」
「拒絶創造は能力の対象となった人物がどんなに深い仲の相手からも嫌われ、殺意を抱く程に憎まれるという能力です。要するに容易に仲間割れを引き起こせる能力と言えば良いでしょうか」
「仲間割れさせられるのは便利だな。対象って増やせるのか?」
「ああ。光真が来る前に俺と強佳にもかけてみたんだが、複数人への使用も自分への使用も成功しているし、能力にかかってる間は同じ空間にいるだけでもムカついて、その場に刃物でもあったらすぐに刺し殺してやりたくなるくらいに憎くなったな」
「だから、完全複製が厄介なのよね。考えたくはないけど、私達を簡単に仲間割れさせて自分だけ生き残るなんてのも出来るし」
「光真君ならそういう事はしないと思うけど……」
「たしかにしないな。敦史、他には何かあるか?」
「ないな。だから、最後に強佳、頼んだ」
「はいはい」
敦史が座ると同時に強佳が席を立つ。
「私は食満強佳、クスザ王国に転移させられてきたんだけど、クラスメートだった奴らが無能な上にちっこい役立たずだなんてバカにしてくるから、ムカついて私の方から出てきてやったらセンセイに拾われたわ。
能力は経験搾取っていう物みたいなんだけど、名前だけ頭の中に響いてきた声に教えられて、敦史と少し試した程度だから、まだあまりわかってないのよね」
「経験搾取は使用者に触れた相手から様々な物を奪い取る事が出来る能力です。腕力や魔力、知力に体力など奪い取る事が可能な物は多く、使用者が返却するまではそれが戻る事はありません。
奪い取った物は自分の物として使う事が出来、接触隷属と同様に対象の体に多く触れる事で一度に奪い取る事が出来る量も増えます」
「ああ、だからか。せっかくだからと強佳に上で動いてもらっていた時、なだらかだが綺麗な肉体を眺めていたら体力も腕力も一気にも──」
「だから、余計な事を言うな! つまり、こっちから触れても相手から触れられても能力は発動するのね」
「その通りです。なので、条件こそ厳しいですが、相手を捕縛するなどして条件さえ整えれば容易に相手を弱体化させる事が可能です。ただし、すぐに魔力を回復する相手もいるので、その時は注意が必要ですけどね」
「なるほど」
センセイの言葉に光真が納得顔で頷いていたその時、光真の頭の中に再び感情のない声が響く。
『能力の存在を確認。対象能力、拒絶創造並びに経験搾取を複製します』
「複製、完了したぞ。それで、自己紹介も能力の確認も終わったけど、次はどうするんだ?」
「今日はこれが目的だったので以上で終わります。明日はこの世界について改めて説明し、武器の配布などを行いますから、後は自由時間で良いですよ」
「自由時間……因みに、能力を使う練習ってしててもいいのか?」
「……ええ、どうぞご自由に。勉強熱心なのは良い事ですからね」
その言葉に光真達は揃って喉をゴクリと鳴らすと、光真は隣席の真言の膝に手を置いた。
「あ……」
「真言、ちょっと色々試させてもらっても良いか?」
「……はい、もちろんです。でも、あまり私以外の子とは試さないでくださいね。私、寂しがりやなので、そんな事してたら寂しくて死んじゃいますから」
「はは、わかったよ。お前達はどうする?」
「俺は強佳さえよかったらもう少し能力への理解を深めたいし、仲も深めたい。強佳、良いか?」
「良いけど……変な事はしないでよ?」
「変な事はしない。変な事は、な」
「そう……まあ、アンタのはデカイくせに優しくて気持ちいいから嫌いじゃないけど」
顔を赤らめる強佳の頭を敦史が微笑みながら撫でてから教室を出ていき、お互いに膝の辺りを触り合っていた光真と真言が立ち上がって続けてそそくさと出ていく中、その様子をセンセイは何も言わずに静かに見ていた。
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