30日のカリキュラム~クラス転移した先で各々のクラスで無能とされた四人にチート能力を与えて復讐を企てさせたらどうなるのか~

九戸政景

プロローグ 出会い

 シュオン、それは魔術と科学が発展し、ドラゴンやオークといった生き物達が各地に住まう世界であり、この世界には十種類の種族が存在しており、世界を我が物にしようと日夜争いの時を窺っている四つの大国があった。

その内の一つ、リュイ王国の城下町に一人の少年が倒れていた。すっかり夜も更けていたが、城下町にはまだ住民達が楽しげに酒を酌み交わしたり夜空を眺めながら歩いていたのにも関わらず、その少年はまるでそこに何もないかのように無視をされ続けていた。


「くそ……アイツら、今頃はあの王宮で……」


 少年はぼろぼろの体のままで顔を上げ、遥か向こうにある王宮を睨んだ。短い黒髪にこれといって特徴のない顔、多少高い背丈と少々筋肉がついた程度の体を学生服が包み、足には革靴を履いているその少年の顔や手足には擦り傷や火傷がところどころついており、睨むその顔も時々痛みによってしかめていた。


「クラス単位で突然この世界に転移させられて、これは何か良い能力でも見つかるのかなんて期待してたら、俺だけ何もなくてバカにされて追い出されるなんてふざけんなよ……!

勝手に呼び出した王国の奴らだけじゃなく、クラスの連中や仲良いと思ってた奴らまでお前は使えないだの落ちこぼれと一緒にいたくないだの言うだけじゃなく、役立たずは処刑するなんて言い始めるし……こうして逃げてきても誰も俺を助けようとすらしてくれないなんてあり得ないだろ……!」


 少年は自身が置かれている状況に対しての恨み言をひたすら口にする。住民達はその声すら聞こえていないのかそのまま通りすぎていき、少年はそんな住民達を見ながら恨めしそうに睨む。


「……許せない。この国の奴ら、そしてクラスの連中にも絶対に思い知らせてやる。能力がないだけで俺だけをここまで虐げて、自分達だけ良い思いをしてるアイツらなんて絶対に殺してやる……!」


 少年が目をギラつかせながら怒りを露にしていたその時、そこに一人の人物が現れた。


「おや……だいぶやられていますね」

「え……?」


 少年はその人物に目を向ける。その人物は銀縁のメガネをかけたサラサラとした短い茶髪の男性であり、手に大きな本のような物を持って茶色のスーツを着たその姿を少年は胡散臭そうに見た後、警戒した様子で口を開いた。


「……アンタ、何者だ? パッと見は俺がいた世界の教師みたいな格好をしてるけど、俺に怪しまれないための変装をした王宮の刺客とかじゃないのか?」

「いえ、違いますよ。もしそうであれば、貴方は今頃この世にいませんから」

「……じゃあ、誰なんだよ?」

「私が誰なのか、それは貴方の選択次第ですよ。異世界からの転移者、対田たいだ光真こうま君」

「……俺の名前を知ってるのか」

「ええ。事情も知っていますし、選択次第では貴方に力を与える事も出来ます。どうですか? 私の手を取り、貴方の望む世界を手に入れませんか?」


 対田光真は男性が差し伸べてきた手をジッと見ると、目に怒りと殺意の炎を燃やしながらその手を取った。


「……乗ってやるよ、その誘い。どうせ俺がいなくなった方があいつらも喜ぶだろうしな」

「交渉成立ですね。では、まずは貴方の傷を癒しましょうか」


 そう言いながら男性が光真に手を翳すと、光真の体の傷はみるみる消え、一分も経たずに傷は全て消えた。


「こんな事が……」

「ふふ、このくらい朝飯前です。それでは、そろそろ参りましょうか」


 その言葉と同時に二人は街から一瞬で姿を消し、気づいた頃にはどこかの屋敷のエントランスにいた。


「え……こ、ここは……」


 光真は不思議そうに辺りを見回す。高級そうな調度品や絵画が飾られ、天井に吊り下げられたシャンデリアでエントランスは煌々と照らされており、二階へ繋がる階段や壁際には光真と同い年に見える少年少女の姿もあった。


「驚きましたか? ここは私達の拠点、そして貴方達が暮らす寄宿舎です」

「寄宿舎……」

「ええ、そうです。貴方達にはこれから私の生徒となってもらい、貴方達を虐げてきた者達に復讐を果たしてもらいます。もちろん、やり方はお任せしますし、復讐を果たした後、彼らをどうするかも貴方達次第です」

「……さっきもそんな事を言われたけど、貴方を、そしてこの三人を本当に信用して良いの?」


 絵画の前に立つ少女が問いかける。長い金髪をツインテールにした制服姿の小柄な少女はその気の強そうな顔で男性や光真達を見回し、その眼光に階段に座る気弱そうな長い黒髪の少女が体をビクリと震わせていると、男性は口許に手を当てながら上品そうに笑う。


「ええ、もちろん。こう言ってはなんですが、それぞれの集団から爪弾きにされた貴方達を騙す理由などありませんし、もしも殺そうとしているならとっくにそうしています」

「……つまり、貴方は俺達どころかあいつらよりも遥かに強い力を持っているという事か」


 壁にもたれ掛かる大柄で大人しそうな少年が呟くと、男性は微笑みながら頷く。


「当然です。ですが、私が手を下すよりも恨みを持つあなた方が手を下す方が遥かに良い。なので、私はあなた方に力と復讐の機会を与えるのです」

「……それは助かる。だけど、アンタにメリットはあるのか? 俺達を助けてアンタは何を得られるんだよ?」

「そうですね……強いて言えば、満足感でしょうか。私はこの世界の仕組みが少々嫌いでして、あなた方を除け者にしてきた大国がお互いに睨みを効かせ、四つの国で牽制し合っているその状況を壊したい。それが私があなた方を助ける理由です。

なので、それぞれの国の王やあなた方のかつての仲間達を始末した後は、出来ればお互いに仲良くしてもらえると助かります。その方が私も嬉しいので」

「な、仲良く……」

「俺は構わないが、他のみんなはどうなんだ?」


 大柄な少年が見回しながら訊くが、三人はあまり気乗りしていない様子を見せる。


「……あんな目に遭って、誰かとまた仲良くなんて簡単には考えられないな」

「……私も、同感です……」

「私も。ただ、ここにいる四人はそれぞれの国で酷い目に遭った者同士なのは間違いない。だったら、協力関係というくらいなら私は譲歩しても良いわ。仲良しこよしなんてする気はないけど、お互いに嫌な目に遭ったのなら、復讐を果たすまでだけでも協力するのは悪くないから」

「……まあ、たしかにな。俺も今はそれくらいなら良い事にしても良いぜ」

「そ、それじゃあ私も……」

「決まりだな。ところで、貴方の事はこれからなんと呼べば良いんだ?」


 その問いかけに男性は微笑みながら答える。


「センセイ、と呼んでください。私の役目は生徒であるあなた方に力を与え、その力の使い方や戦い方を教える事なので。因みに、寄宿舎内にはそれぞれの部屋もあり、他にも色々な施設がありますが、掃除や料理は皆さんの共同作業として行ってくださいね」

「センセイ、ね……まあ、立場としては間違ってないのか」

「そうね。それで、私達にはどんな力を与えてくれるの?」

「与えられる力、それが何かは貴方達次第です。では、そろそろ与えるとしましょう」


 その言葉と同時に男性の体から四つの光の珠が現れ、それらは光真達に一つずつ近づくと、そのまま体内へと入っていった。


「今のは……?」

「力の源です。貴方達の体に浸透するまで時間はかかりますが、翌朝になれば各々の力は目覚めているはずなので、それまで待っていてくださいね」

「翌朝か……じゃあこのまま待っててもしょうがないわね。私はこのまま寝させてもらうわ」

「それじゃあ俺もそうするか」

「わ、私も……」

「……本当は自己紹介でもしたかったんだが、仕方ないか。それでは俺も部屋に行かせてもらおう。センセイ、俺達の部屋って……」

「男子は階段の横にある向かって左側の通路、女子は向かって右側の通路の先ですよ。ネームプレートを扉につけているので、間違える事はないはずです。後、異性の部屋に入る事は別に禁止しませんから、何か個人個人で話したい事があったら、その時は遠慮なくどうぞ」


 センセイの言葉に四人が頷き、それぞれの部屋がある通路へ向けて歩き出した後、その様子を眺めながらセンセイは静かに微笑んだ。


「さて……それでは始めて行きましょうか、彼らの復讐を果たすためのカリキュラムを」

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