第5話
「何それ………」
「アオイ様!!」
振り返ると、そこにはアオイ様が立ちつくしていた。顔が青ざめている。大丈夫だろうか?
テーラーが慌てて駆け寄るも、彼女は彼の手を振り払い、アシュリー様に掴みかかった。
「ねえ、アシュリー! あなた、その女に騙されているのよ!! そんな女と結婚なんてしない方が良いに決まってる!」
悲痛な声のアオイ様に、私の胸も痛む。でも、アシュリーはそんな彼女にも、一切感情を揺らすことなく言った。
「君に俺たちの10年の何がわかる」
「じゅう……ねん……?」
「俺たちが婚約して10年だ」
「そんなに縛られ……て?」
「ああ」
「やっぱり?!」
アシュリー様の返答に、アオイ様の黒い瞳に光が差す。
「俺はずっとステラにだけ、心を奪われている。俺を縛れるのはステラだけだ」
アシュリー様がキッパリと告げると、アオイ様の瞳はすぐに翳った。
私はというと、アシュリー様がそんなことを思っていてくれてたなんて!!と嬉し恥ずかしな気持ちで舞い上がっていた。
「何それ………じゃあ、私のほうが邪魔者なんじゃん……私を愛してくれる人なんて……」
「アオイ殿?」
ゆらり、とアオイ様の周りの空気が揺れた気が、した。
「私を愛してくれる人なんていないんじゃん!!」
「アシュリー様!!」
ゴオッ、というけたたましい音と共に、アオイ様の周りが、竜巻で囲まれた。
私はすぐさま結界魔法を張ってアシュリー様の前に出た。
「ステラ、すまない」
「いいえ! 私はアシュリー様を守りたくて魔法を必死に勉強したんですから」
私の言葉に、アシュリー様は嬉しそうに微笑んだ。甘くなりそうなせっかくの空気を我慢しつつ、私はテーラーに問う。
「テーラー、あれ、どういう状況?!」
テーラーは地面に腰を付き、呆然としていたが、私の問いかけにすぐにハッとする。
「聖女の力が、暴走しています……。あれを止められる者なんて、この国一番の魔法の使い手じゃないと……」
さっきまでアシュリー様に食ってかかっていた彼は、聖女の力の暴走を前に、すっかり縮こまってしまっている。
「テーラー、お前の処遇は後でゆっくり下すとして。とりあえず、すぐに救護隊を呼んでこい。」
「で、でも……聖女様は………?」
そんなテーラーにアシュリー様が指示を出すも、彼は戸惑っている。
「お前、ここに誰がいると思ってる?」
「え?」
「国一番の魔法の使い手、だぞ」
戸惑う彼に、手を差し出され、紹介されたのは、もちろん、私。
アシュリー様に並び立つために、とがむしゃらに鍛えた私の魔法は、今や国一番になっていた。
「え? え?」
戸惑うテーラーの反応は、まあそうだろう。神官は聖女派だ。皇太子であるアシュリー様の婚約者である私を知ろうともせず、馬鹿にし、排除しようと思っていたのだから。
「早く行け!」
「はっ、はいいい〜」
アシュリー様に怒鳴られたテーラーは、情けない声を出してすっ飛んで行った。
「さて、ステラ。君を危険な目に遭わせたくはない……。だが、」
私の頬に手を滑らせ、アシュリー様は困ったように微笑んだ。
「いえ、お任せください、アシュリー様! 私、あなたのためなら何だって出来るんですから!……アシュリー様?」
力強くそう答えれば、アシュリー様はまた手で口を覆い、そっぽを向いてしまった。
「もう、君って何でそんなに俺を喜ばせることばかり言うの……」
「えっ?!」
照れながらも嬉しそうに笑って振り返ったアシュリー様に、私も思わず赤くなる。
「あの……」
何か言わなきゃ、と口にした所で、添えられていたアシュリー様の手によって、私の頬が引き寄せられ、お互いの唇が合わさった。
「?!?!」
「ステラ、必ず俺の元に帰ってきて。じゃないと、俺は生きていけない」
「………アシュリー様、そんな重いこと言う方でしたっけ?」
キスの後、アシュリー様らしからぬ台詞に、私は思わず笑ってしまった。
「俺は本気なんだが……」
ムスッとして答えるアシュリー様に、愛しさがこみ上げる。
「アシュリー様! 私はあなたに死んでほしくないので、絶対に帰ってきます!!」
力強くそう言えば、満足そうに微笑んだアシュリー様の顔が近付いて、またキスをされた。
「これが片付いたら結婚式をしよう」
「アシュリー様………!」
「今回、神官が暴走しただけの話で、根回しは済んでいる」
そう言えば、さっきテーラーとそんな話をしていたな、とアシュリー様を見れば、彼は企みを成功させた悪者のような笑顔で、こちらを見ていた。
悪役アシュリー様もカッコイイ!!
そうして、アシュリー様にもう一度キスをされた私は、彼と別れ、魔法で浮き上がる。
アシュリー様は、万が一のため、王宮内とその周辺の避難指示のため騎士団へ。
私が目指すは、竜巻の中心地。アオイ様の元へ!!
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