第6話
ゴウゴウと音を立てる竜巻は、どんどん大きさを増している。
このまま何も出来ずにいると、王宮だけではなく、この国そのものを破壊する脅威になるだろう。
まあ、私が阻止してみせるんだけど!!
勢いの弱い場所を目指し、竜巻に近づくと、私は結界を自身の周りに張り、中に侵入した。
「アオイ様ー?」
竜巻の中は、風が吹き荒れるも、外よりは静かで、不気味なほどシンとしている。
王宮よりも高く膨れ上がったその竜巻の一番上を見ると、光に包まれた人影が見えた。
「アオイ様!!」
私はすぐさまスピードを上げて、上へと上昇した。
「アオイ様!」
アオイ様は、眩い光に包まれたまま、うずくまっていた。
小さく縮こまり、泣きじゃくる彼女は、まるで小さな子供のようだ。
「アオイ様……?」
そっと彼女の頭に手を伸ばした、その時。
キイイン、と音と共に、風が吹き荒れた。
思わず目を閉じ、体勢を整えてアオイ様を見ると、彼女は泣きじゃくりながらこちらを見ていた。
「何よ! 何しに来たのよ?! 私を笑いに来たの?!」
「アオイ様、落ちついて…」
アオイ様は泣き叫びながら、その聖女の力を暴走させていた。
「みんな嘘ばっかり!! 影で私のことなんて馬鹿にしていたんだわ! テーラーも、アシュリーも、あなたも!!」
「アオイ様、それは違います……」
「うるさい!!」
キイイインーー
アオイ様の力が不安定すぎて、近付けない。
迂闊に刺激すれば、王宮くらいは一気にやられてしまうかもしれない。
「誰も、誰も、私のことなんて愛してくれないんだーーー」
痛いくらいのアオイ様の叫びに、こちらも胸が苦しくなる。もしかしたら彼女は、異世界で寂しい思いをしてきたのかもしれない。
でも、だからといって、アシュリー様を譲ってなんてあげられない。本気で彼を愛しているのは、私だから。
アオイ様はアシュリー様を愛しているというよりは、恋に恋をする、少女のそれのような。
アオイ様を召喚したのはこちらの国の都合。彼女の人生そのものを奪ってしまった責任は取る。
でもそれとアシュリー様との結婚は別よ!
アオイ様の幸せも必ず、一緒に探す!
「アオイ様、聞いてーーーー」
「うるさい、うるさい、うるさーい!」
聞く耳を持たないアオイ様はただただ泣き叫んだ。その感情と比例して、力が暴発していく。
うーーん、話をしないことには……。
覚悟を決めた私は、結界をより強く自身にかけると、アオイ様にゆっくりと近付いた。
「来ないで!来ないでーーー!」
アオイ様はそんな私に泣き喚き続けた。
そんな彼女にゆっくり近付き、頃合いを見て一気に間合いを詰めるーーーー。
「落ち着け」
ゴン。
アオイ様にすっと近寄った私は、彼女の頭にチョップをかました。
瞬間、ピタリと風が止む。
アオイ様が呆然としている。
うん、うん。やっぱりこういう時は、小難しい魔法より、原始的な方法が一番よね。
「いったあああい!! 何すんのよ??」
我に返ったアオイ様が、頭を押さえながら叫んだ。
「いや、人の話聞かないから……」
「だからって、普通、人の頭、叩く?! 信じ、らんっない!」
フッ、と笑みが溢れた。お互い、目が合った瞬間、自然に溢れた。
それから、私はチョップしたアオイ様の頭を撫でてあげると、彼女は私に抱きついて、わんわんと泣いた。
力の暴走は止まっていた。
それから。
次第に凪いでいく竜巻の中、私はアオイ様の異世界での話を聞いた。
アオイ様のご両親の話、お付き合いしていた人の話、本気で愛した人の話。
そして、アシュリー様こそ本気で愛してくれる存在だと思った話。
ポツリポツリと語ってくれた彼女の話を、私はただ黙って聞いていた。
「ごめんなさい……私、自分のことしか考えてなかった」
「えっ」
話し終えたアオイ様は、私に面と向かって謝罪した。あまりにも殊勝な姿に、思わず面食らってしまった。
「な、何よ?」
「いえ、あんなに敵意剥き出しだったのに、そんなあっさり謝られるとは……」
「あ、何よ?! せっかく人が謝ってるのに!!」
「ご、ごめんなさい……」
頬を膨らませ、怒るアオイ様に思わず謝ると、彼女は「許してあげる。私優しいから」と言って笑った。
真ん丸の黒目を細め、異世界に来て、初めて心から笑う彼女を見た気がした。
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