第4話(アオイ視点です。)

 東雲 葵、16歳。


 制服に一目惚れして頑張って入った高校には、半年で行かなくなった。


 中学でも私が可愛いからってひがみはあった。私は男子ウケする容姿なんだって気付いたのはいつからだろう?


 とにかくモテてモテて、告白されまくった。


 試しに付き合ってみた男の子は、一ヶ月で別れた。


 どの男も、私の容姿しか見ていない。連れて歩けば自慢出来ると思っている。


 高校でも人気のバスケ部の先輩に告白されたけど、断ったら、上級生に目を付けられ、陰湿なイジメを受けるようになった。


 それから保健室に通うようになった私は、そこで保健室の先生と恋に落ちた。


 やっと私を愛してくれる人と出会えたと思った。


 でも、先生は結婚をしていた。学校では指輪をしていなかったので気付かなかった。


 夜遅く、夕飯を買いにコンビニに出掛けた先で、身重な奥さんとマンションに入っていくのを見かけた。表札には、二人の名前が仲良く並んでいた。


 次の日から、私は学校に行かなくなった。


 両親は共に仕事で忙しく、顔を合わせることもない。お互いに恋人がいて、私が成人したら離婚することになっている。二人が話しているのを、たまたま聞いてしまった。


 二人の未来に私はいないし、私の未来にも興味が無い。


 学校も行かず、親からは見限られる未来。私なんて、生きてる価値が無い。


 誰か、私を愛して!!!!


 いつものようにコンビニへの道を歩いていると、眩しい光に包まれ、気付けば私は異世界とやらに来ていた。


 神官のテーラーという男が私なんかに跪き、恭しく扱う。


 この人もイケメンだったけど、それよりもタイプだったのが、アシュリー。


 嘘!カッコイイ!イケメン!タイプ!!


 初めて会ったとき、すぐに思った。


「あなたの結婚相手ですよ」


 豪華な控え室に通された私は、この世界に呼ばれた意味をあらかた説明受けた後、アシュリーのことを聞かされた。


 元々、自分のいた世界に未練なんて無い。


 必要とされて呼ばれ、私だけを愛してくれるならそれで良い。


 あんなカッコイイ人が私の旦那様なんて、ラッキーじゃない?


 大勢に傅かれ、この国の王子様が私の旦那様。


 悪くない。これは、神様がくれた人生をやり直せるチャンスだ。


 幸い、私はこの見た目には自信がある。アシュリーもきっと私に夢中になる。


 そう思っていたのに、アシュリーは私に興味が無さそうだった。


 テーラーから、政略結婚で決められた婚約者がいると聞かされた。その人が立場を笠に着て、重い愛でアシュリーを縛っているんだとか。


「アシュリー殿下はアオイ様と結婚するのが決められているのに、それをあの女が割り込んでいるのです」


 テーラーは困った表情で私に教えてくれた。


 許せない……。


 アシュリーは私の旦那様なのに! 私がアシュリーを救ってみせる! 


 私は強く決意をした。


 私はすぐに次の日、アシュリーと婚約者がお茶会をしている場所に突撃した。


 どんな悪い女だろう、と思って出会った彼女は、ミルクティー色の長い髪の毛に合った可愛い容姿で、いかにも、異世界のお姫様!って感じだった。


 でも、その可愛い茶色の瞳を強く見開き、『婚約者の……』と自己紹介をしてきたので、やっぱり気の強い嫌な女だと悟った。


 こんな義務みたいにお茶会に付き合わされて、こんな嫌な女に縛られて、アシュリーも可哀想!


 私は我儘を言うフリをして、アシュリーを彼女から引き離した。


 聖女は絶対的な地位。アシュリーは私に力を使いこなせるようになって欲しいみたいだし、表向き私の我儘に付き合うってことにしておけば、あのステラって子も、アシュリーに危害を加えないだろう。


 我ながら名案!


 そう思ってテーラーに話すと、彼も思いっきり褒めてくれた。


 それから毎日、アシュリーは私の訓練に付き合ってくれた。


 アシュリーも私と結婚するために、そうしてくれているのだと思っていた。……今日までは。


 訓練室でいつものように、聖女の力の制御を教わっていると、窓の外を眺めていたアシュリーが、突然、部屋を飛び出して行ったのだ。


「アオイ様はここで訓練を続けてください」


 テーラーが私にそう言うと、アシュリーの後を追いかけて行ったようだった。


 どうしたんだろう?とアシュリーが見ていた窓の外を見ると、ベンチに座る、あの女が見えた。


 ガタイの良い年上イケメンと楽しそうに話をしている。


 まさか、あれを見て……?


 不安に駆られた私は、気付けば部屋を飛び出していた。


 私がその場に着くと、アシュリーとテーラーが言い合いになっていた。


 信じられない言葉が次々に飛び出し、私はその場から動けずにいた。そして、彼の口から一番聞きたくなかった言葉が出た。


「ステラ、俺は君しか愛さないって言ったろ?」

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