第18話 聖女とは

(ここは…どこかしら…)

 気がついたら真っ暗闇…袋の中だった。気を失っていたので分からないが、まだ街の中のように思われる。王都の壁の外で感じる空気とは違うからだ。

(音が反響しているわ。それも広い…)

 靴音が響いている。とすると、売りに出されているような屋敷が思い浮かぶが、どうにもカビ臭い。

 担がれたまま階段をおりていくと、より籠もった匂いがした。

 地下だと思われる部屋に袋の口を開けて放置されたので、すぐに出ようとしたが。

(腕と足が…)

 ロープで拘束されている。邪教誘拐のイベントだとすぐに気がついた。

(ヒロインもこんな状態だったわね)

 そう思いつつ袋から這い出て、ここはどこだろうと周囲を見回すと、壁に祭壇があった。

(そのまんまだわ)

 壁には見たことがないシンボルのタペストリーが掛けられているし、その前には黒い布がかけられた横長のテーブルが設置されていて、ボロボロの経典、怪しげな水晶玉や魔獣の骸骨が捧げられている。

 どこからどう見ても邪教のアジトだった。

(えっ!魔石ランプじゃなくて蝋燭だわ)

 時代錯誤もいいところだ。雰囲気的には合っているが、換気は大丈夫かしら、と思ってしまう。

 一応、炎が青く揺らめいているので大丈夫そうだ。

 薄暗い中ついてきてしまったチロルが首元で震えている。

(大丈夫よ…)

 頬ずりをするとチロルもすり寄ってくる。

 覚醒前の聖獣はそれほど力を持たないし、魔法も治癒と結界魔法だけ。

 だが、その温かさがあることで緊張が少し解けた。

 周囲には乱雑に箱が積み重なっており、床には何かの魔法陣。そこから嫌な空気が漏れ出ている。

(生贄、だったかしら…?)

 今さら魔王を呼び出そうと言うのだろうか。

 魔王は器となる人の体がないと、いくらこの身を切り裂いても誕生しないというのに。

(それとも、魔王が出現して私を…?)

 しかしアルフィ司教は魔王が誕生する程の強い瘴気は発生していない、と言っていた。

 という事は、やはり自分を生贄に何かを喚び出すつもりだろうか、と考える。

(…スカートの裾にマーカーがあるわ)

 魔力でつける目印のようなものである。

 隠れても、煙幕を張られても攻撃魔法を当てるための的のようなものだが、魔力には見覚えがあった。

(ヘンリー君ね)

 魔法の授業でいつもレオと張り合う子だから覚えている。エレンがいつも謝ってきていた。

(楽しそうだから別に構わないのだけど…身分というのは厄介ね)

 そういう世界なのだから仕方ないが、どうにも話し辛い。

 エレンに相談したことがあるが、貴族は領民を豊かにすることで還元してくれるから、贅沢したり偉そうにしてていいと思います、と言われてしまった。

 領地を好きにしていいって言われても私たちじゃ出来ませんよ〜と笑っていた。

(責務、か)

 自分に課せられたのは魔王復活の阻止、そして皆のハッピーエンドである。

(こんな所で捕まってる場合じゃないわ。逃げないと)

 しかし少しばかり考えすぎてしまったようだ。数人が階段を降りてくる音がする。

 なんとか上半身を起き上がらせ、木箱にもたれると先頭でランプを持った神官服を着た男が驚愕に目を見開くのが分かった。

(……?)

 視線の先は、首元。

 声を発したのは男の背後に居た黒いローブを着てフードを目深に被った者たちだった。

「おお!これはいい!」

「でかした!聖女と一緒にいるというのは本当だったようだな」

「あれが聖獣か…。良い贄が手に入った」

「いや、まだ幼体ではないか」

「だがそのほうが好都合だろう?」

 口々にそう言い、祭壇のタペストリーに独特な形で手を組み祈っている。

「まさか、そんな」

 低い耳障りな祝詞が響く中、神官が呻いていた。

(…聖獣はルーナ教の経典にも出てくるから…)

 虹色の目を持つ獣を見間違える事はないようだ。今更ながらに事の重大さに気がついたらしい。

「さぁ、贄をこちらへ」

(えっ!?もう?)

 こういう時はもっと長い儀式が必要ではないのか。

 だいたいヒロインを助けに来るはずの攻略対象が到着していない。

(私が悪役令嬢だから…?)

 冷や汗が背中を伝う。

 短刀を片手に男が進み出てきた。

「一刺しで魂を取り出したほうがいいだろうか」

「苦しませたほうがいいのでは?」

 余裕のある声音でイアンナの制服の襟を掴み魔法陣の真ん中へ引きずり出す。

 首元でチロルが威嚇するが、彼等には供物にしか見えてないようだ。

(ダメだわ。魔封じの魔道具かしら)

 念じても魔法が発動しない。だからチロルもくっついているだけなのだろう。

(チロル、逃げなさい)

(ヤダ!!)

 猿ぐつわで声が出せないので念じてみるが、拒否の言葉が返ってきた。

 蝋燭の明かりに短刀がきらめいた。

(…レオ)

 イアンナは目をぎゅっと閉じた。


「「「「「わ我ららの神み…リり・ン・タたール様まのか糧てとなれれ!」」」」」


 統制の取れていない低い声がばらついて叫んだあと。

「!」

 強引に体が引っ張られ、次に背中に痛みが走った。

(っ…!!)

 投げられたような感覚だ。

 しかし、短刀が突き刺さるはずだった喉元に痛みはやってこない。

 おそるおそる目を開けると、イアンナから少し離れた…先程まで彼女が居た場所に神官が倒れていた。

 瞬間、怪しく黒色に光る魔法陣。


「邪魔をされたぞ!どうなるんだ!?」

「この、邪教の神官めっ!」

「しかし何かが来た」

「これっぽっちの魔力ではダメだ!」

「いや、それでも顕現が…」


 口々に言い、狼狽えている。

 イアンナは自分の中にある核と共鳴する魔法陣を見た。

(なにか、来る)

 魔法陣からぬぅっと大きな角が出てきた。

 そのはずみで魔法陣の真ん中に倒れていた神官が、イアンナの元へ転がってくる。

(背中に刺し傷…早く治癒魔法を唱えないと)

 しかし魔封じの道具もあるし、何より手足が拘束されている。


「おお、おお、来られるぞ」

「大丈夫か?魔力が足りないのでは…」

「顕現を邪魔してはダメだ」

「奴らは後回しだ」

「さらなる者を呼び出すための、贄に使えばいい」


 黒ローブの男たちの興味は完全にこちらから逸れているから、やるなら今だ。

(チロル、このロープかじれるかしら?)

(ヤッテミル)

 イアンナは神官に向かって祈る。

(もう少し頑張って)

 表情は逆光で見えないが、息遣いが荒い。

 魔法陣の方は、何かが出てこようとしているが入り口が狭く窮屈そうだ。時間が掛かっている。


「大丈夫だ、これなら」

「中級程度ではないか?」

「平和な王都をかき乱すくらいなら出来るであろう」

「我らもいるのだ」

「魔王様バンザイ!!!」


 喜びの声を上げる彼等だったが、次の瞬間、それは悲鳴に変わった。


「ひぎゃぁぁぁ!!??」

「ぐあ!!」

「か…は…っ!!」

「うぐっ」


 そして低い低い、幾重にも音が重なったような音が響いた。


『願いを叶える、対価だ』


 黒ローブの男たちは次々に倒れる。怪我もなく血も流れていないが、生気の失せた表情から既に命がないことが伺えた。

(…魔力じゃないわ、命を食べてる)

 イアンナはゾッとした。

 角が怪しく光り始め、くつくつという笑いが響き渡る。

 …と、足が自由になった。

(チロル、ありがとう)

(ウン)

 足の拘束を齧り取ってくれた。次は腕だ。

「!」

 神官が震える手を伸ばし、イアンナの背中側にある腕に触れた。

 すると、腕の束縛が無くなり魔力の拘束も無くなった。

「にげ、ろ」

 力尽きたように腕をぱたりと落とした神官に向かって治癒魔法を唱える。

 傷は治したが彼の魔力は完全に失われ気絶していた。

(運ばないとっ)

 推定・魔神はまだ片腕だ。<ヒカコイ>ではこんなシーンはなかった。そもそもこんな事になる前に攻略対象者が迎えに来てくれる。

 魔神は魔法陣から出ようと四苦八苦しているようにも見える。

(実際はもっと大きな場所でやらないとダメだったのね…)

 あさってのことを考えつつ、イアンナは神官を担いで静かな動作で階段へ向かった。

「くっ…」

 しかし息苦しい。黒い靄が周囲に満ちているせいだろうか。

(これが瘴気…?)

 普段レオが見ているものが自分にも見えるほど、濃いのかもしれない。

(体が怠いわ。魔王の核があっても、私は人間なのね…)

 その事は嬉しい誤算だったが、現状は打破出来ない。

(チロル、結界を張れるかしら?)

(デキル)

 イアンナの魔力を消費してチロルが透明な結界を張ると、それだけで呼吸が楽になる。

(瘴気って…ただの煙のようなもの、ではないのね)

 鎌鼬のように時折通り抜け、祭壇や壁を次々と切り刻んでいる。

 チロルの結界がその度に削れ、イアンナの防護魔法をかけた制服をかすり傷をつけた。

 今更になって震えが来て足元が覚束ないが必死に歩いていると、耳元で声がする。

「置いて、いけ」

 イアンナは首を横に振る。すぐに前を向いて歩き出した。

 魔神が苛ついているのか周囲に鋭い風魔法を放ち始めた。少女の頬には傷がついている。その横顔を見て男は唇を噛みしめた。


(このような娘を…生贄に捧げようとしたのか…)


 貴族の娘が顔に傷をつくってなお、得体のしれない…攫った自分を助けようとしている。

 聖獣はその娘を護るように首に巻き付いて、必死に結界を張っていた。

(大神官も…ルーナ教とは…いや、聖王国とは一体、なんなのだ…?)

 マーロウは何もできない自分を呪い、祖国をやっと疑い始めた。

 そして萎えた四肢に力を入れてなんとか足を付くと、ギリッと奥歯を噛みしめる。

 浄化魔法が広がり階段の周囲だけ瘴気が消えた。

「!」

(少しでも、持てばよいが)

「ありがとうございます」

「……」

 この状態でなぜお礼が言えるのかわからない。

 反対の立場なら絶対に自分は見捨てて逃げている、そう思いながら背後を見ると。

「!」

 魔神の角が出ていたはずだがそれがない。替わりに手が出てきた。

 浄化の波動を嫌そうにしつつも、こちらへ向けて腕を伸ばしている。

(まさか、この娘の命を…?)


 大神官は言っていた。

 侯爵令嬢の中には魔王の魂があると。


「!!!」

(まさか…魔王は、聖女の中に封印されて…?)

 マーロウは知らないからこそ、勘違いをした。しかしその推察は正しいのかも知れない。

 その魂を得たら、目の前の魔神はどうなるのだろうか。


(王都を乱すどころではない!)


 とっておきの浄化の魔石もたいした効果はなさそうだ。腕は瘴気を竜巻のように集めて浄化魔法の残滓と結界を削りながら徐々に近づいてきている。


(この娘が、目的だ)


 彼はようやく気がついた。

 聖女を邪教の者たちに渡してはならなかったことを。

 彼は足を踏ん張り、イアンナの肩に回されていた腕を解いて彼女を階段の上に押し上げる。

「なにを!?」

「アレの標的はそなただ!!」

 もう一つ、浄化の魔石がある。

「危ない!」

『キュイー!!』

 それを噛み締めようとして、それよりも強い浄化魔法が階段下へ爆風のように広がった。

(なんと強い力…!)

 魔神の腕が恐れるように離れ、そして苛ついたように床へ打ち付けられた。

「きゃっ!」

「!!」

 振動が階段へ伝わり二人は手すりを掴む。

「これならもう少し時間が…さあ、ここから出ましょう!」

「捨て置け」

 何度も言うが娘は強情なようで、自分の手を離さない。


『我に力を』


 低い声が響いたと思うと、より一層の瘴気が集まってきた。

(大変!)

 レオが王都の上空に「たくさんある」と言っていた瘴気を集めているのだろう。イアンナは焦る。

 腕は爆風を展開し、自分たちを歩かせてくれない。むしろ、吸い込むように地下の方へ引き寄せられているようだ。

「チロル、結界を!」

(ウン!)

 魔力を流し結界を維持するが、このままでは埒が明かない。

 召喚の魔法陣を見れば、いびつに歪んで…広げようとしている。

(もう、あれしかない)

 片手で階段の手摺を掴み、片手で男のローブを掴んでいるがいずれ限界が来る。

 それに魔神を召喚陣から出してしまえば、自分たちどころか王都が無事では済まないだろう。


 思い浮かぶのは、皆の姿。


 父も母も兄も健在で、今度、弟か妹が生まれるのだ。

 王妃も生きていて、<ヒカコイ>には存在しなかった王女たちも生まれた。

 攻略対象者たちも既に攻略対象者ではない。

 それぞれが己の進む道を選択して歩んでいる。

 もちろん、ヒロインではない伴侶を既に決めた者もいる。

(それに…)

 危惧していたヒロインだが、彼女も楽しそうに学園生活を送っている。

 いつも傍らにいるのは彼女を優しい緑の目で見つめる男の子で…。


(駄目よ!!)


 せっかくここまで来たというのに。

 これが世界の自浄作用なのだろうか。

(みんなを、悲しませたくない)

 最後に思い浮かぶのはレオだ。小さな頃から自分の側で守り続けてくれている。

(レオがずっと守ってくれていた、私も)

 断罪や魔王によって失われるはずだった…しかし生きているこの命を、無駄にしてはいけない。

「チロル、おいで」

(?)

 チロルは二人の前で踏ん張っていたが、呼ばれるままにイアンナのもとへ行く。

「私の魔力を全てあげるわ」

 聖獣は驚いたように虹色の目を見開いた。

(ナンデ!?)

 もうこれしかない、とイアンナは言う。

「あなたは聖獣だけど、まだ目覚めてない。たくさんの魔力があれば真の姿になれるわ」

 <ヒカコイ>の中ではヒロインから3年の間、膨大な聖力を得て真の力に目覚めるのだ。

 だが今はまだ1年も経っていない。

(他に、思いつかないの…)

 真剣な気持ちが伝わったようだ、チロルは伝える。

(ママ、マホウ、ツカエナクナル)

「いいわ。この魔力はきっとそのために…私が持って生まれたのよ」

 魔王が居ないこの世界で、魔力を必要とする意味をずっと探していた。


 今しかない。


(…ワカッタ)

 いっそう分厚い結界を張ると、チロルがイアンナの額に額を充てる。

 小さな角が白く輝いた。

(何をするのか…)

 マーロウが階段のヘリを掴みながら固唾を飲んで見守っていると、少女の中の膨大な魔力が聖獣へ移るのを感じた。

(聖獣へ魔力を?間に合うか…)

 背後ではミシミシと音を立てて結界が破られようとしている。

 ゴウゴウとした風の音と、瓦礫がぶつかる音。そして狼のような、牛のような、サルのような声だけが地下室内に響き渡っている。


 カシャーーーンッ!


 しかし無情にも…薄いガラスを突き抜けたような音がした。

「逃げろ!!」

 魔力の受け渡しを続けるチロルとイアンナに巨大な黒い爪が迫ったその時。


 ガシャン!

 バキバキバキバキ…!!


 天井から何かが乱暴に突き破ってくるような音が聞こえた。

「!?」

 元神官は、金色の流星を見た。

 星祭りで地上へと流れる星の色を。


『ガァァァァァァァっ!?』


 一拍置いて耳障りな叫び声が響き、折られ、回転した指が床へ突き刺さる。


(黄金の騎士…!)


 聖女を護る騎士だと聞いた。こうも、的確に現れるとはやはり神がかり的な何かなのか。

「レオ…!?」

 彼は険しい顔で驚いた様子のイアンナとチロル、そしてマーロウを見ると、爆風をものともせずに二人を両脇に抱えて聖獣を頭に乗せると階段を駆け上がっていく。

『待てぇぇぇぇ!!!!』

 背後からは魔神が生み出した小さな魔獣が迫るが、黄金色の結界で近寄れない。

 そのまま彼は地上へ出ると、扉が壊れた部屋をつっきって窓をぶち破り外へ脱出した。

 地下からは魔獣がうじゃうじゃと吹き出して迫っている。

「チッ、しつこいな!」

(ケッカイ、ボクヤル)

「頼んだ」

 すると、レオが睨んだだけで魔法が発動し魔獣が吹き飛んだ。

 その隙にと彼は再び走り出して荒れ果てた庭園を駆け抜ける。

「レオ!掴むぞ!」

「ああ!」

 上空から声が聞こえたかと思うと、何かにまたがった少年が飛んできた。

(制服…学園の)

 要注意人物としてあげられていた少年だ。

 火魔法が強力と聞いていたが、風魔法も得意らしい。なぜか箒にまたがっていて、黄金の騎士の胸当てを背後から掴むとふわりと浮き上がった。

「うっわ、やべっ!!」

 地下から魔神が巨大な腕を伸ばしてきたのだ。瓦礫が舞う中、それを上空へ避けてヘンリーは空を滑空して騎士団が待つ場所へと降り立った。

「さすがに3人は重い…」

 レオたちをゆっくりと降ろし、自分はどすんと尻もちをついたヘンリーの頭をエレンが撫でる。

「えらい、頑張った!」

「助かったぞ、ヘンリー」

(助かったのか…私は…)

 地面に置かれたマーロウが呆然としていると、近くからガチャガチャと鎧の音がした。

「皆、少し下がれ!魔道士隊、結界展開!」

(あれは…中庭に居た第二王子か)

 ジョシュアが号令を掛けると、瓦礫の降る中、魔道士隊が結界を張り始める。

 そしていつも彼の側にいる娘は、王子の周囲に結界を張った。

「無理はしないで下さい。私は殿下の護衛を致します。皆さんはあちらへ専念して下さい」

 騎士や魔道士たちは瓦礫を弾き、周囲の貴人たちを護っている。

 そこへ狼のような魔獣がやってきては蹴散らされていた。

「いったいなんだ?あれ!」

「わからん。魔王じゃない」

 ヘンリーにレオが返す。

(魔王ではないのか)

 安堵するが、もう少しで魔王の誕生を手助けするところだったかもしれないと思い出して、ゾッとする。

(!…あの娘は…いや、聖女様は…)

 マーロウが慌てて周囲を見回すと、真上で黄金の騎士に抱えられていることがわかった。

(無事か…良かった…)

 聖獣も一緒にいる。

 護られた場所で自分が先程まで居た場所を見れば、ほぼ全壊して瓦礫を風に乗せて振りまいている。

 魔獣は次から次へと生み出されて廃墟から出ようとしているが、騎士団と魔道士たちに阻止されていた。

(魔神を呼び出すなど…)

 瓦礫を雨のように降らせれば、人は簡単に死んでしまう。魔神を討伐したところで、失われた命は戻らない。

 自分の命が危機に晒されて初めて、気がついた。

 せっかく助かった命の使い方を、間違っていた。

(馬鹿か、私は…)

 マーロウはそのまま、地面に横たわった。

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