第36話 白き戦士

工場内での戦いで次々と現れるクローンザーガ。

その戦闘力はヒサと同等、もしくはそれ以上だ。


おそらく戦闘用に技術を教え込まれているのだろう。

しかしその技術すらオリジンザーガには到底及ばない。

常時放出している破壊エネルギーを拳に乗せて顔面に叩き込むと、激痛に苦しみながら爆散した。


(ごめん。ヒサくんみたいに君達を救うことはできない)


自分のクローンである彼らを自ら倒すこと。

完全な戦闘マシンと化した存在に容赦はできない。


そんな中仲間の死を惜しんでか、複眼が黒く染まって行くクローンザーガ達。


「まさかこいつらもパワーアップを残していたのか?」


ゴアドの疑問にヒサは唾を飲み「違います」と震え声で言う。


「あれは憎しみの戦士。俺と同じ暴走で得た力です。でもそんな偽りの力で強くなっても意味がない」


憎しみの戦士となったクローンザーガ達は口部分をクラッシャーオープン、咆哮を上げ六問に向けて走り出す。


(仲間想い………君達にはちゃんと意思がある。じゃなきゃリベンジアイが発動することはない。それでも俺は………)


オリジンザーガに彼らを救う権利はない。

兵器として戦うクローンザーガを全滅させなければこの世は堕天使の物となる。

自分の遺伝子を受け継ぐ者とは言え、このまま生かしたら世界に解き放たれ地獄の様な未来が待っている。

そんなことがあってはならないのだ。


身体能力が向上した戦士達は咆哮を上げながら拳を唸らせる。

しかし六問はショットガンを生成しポンプアクションで弾を装填、トリガーを弾く。

無数の弾が破壊エネルギーと共にばらかれ、全身に命中する。

攻撃を受けそれでも激痛に耐え、拳を握り殴りかかって来た。


それに対して最初の戦士はショットガンを吸収、破壊エネルギーをバリアの様に放出する。


「天国で待っていてくれ」


破壊エネルギーに触れた瞬間、爆死して行くクローンザーガ達。

有利に見えるこの戦況。

だが変身を続ける六問に、限界が迫っていた。


一方ヒサは六問を超えるため、そして戦いを終わらせるためリベンジアイで凶暴化したクローンザーガに立ち向かっていた。


前の戦いでアームド・ダークエンジェルから吸収した装甲を禍々しい大剣へと変換し、さらに光の翼のエネルギー源をとわせ切れ味を上昇させる。

その剛腕から繰り出される剣技は次々と敵を蹴散らしていく。


「俺だって救われなければ君達みたいに兵器として扱われたかもしれない。クローンは本物を超えることはできないかもしれない。それでも、俺は………」


戦いの中で生まれた偽りの記憶とは違う新たな感情。

それは………


「生きたいんだ! 俺として! ヒサとして! 人を守る守護者として!」


生きたい。

オリジナルとは違う新たな人生を歩んで生きたい。


するとそれに応えるようにザーガの腕輪、その宝石が光り出す。


「そんなバカな!? クローンザーガであるお前が!? 物質に頼らずに更なる変身をげると言うのか!?」


余裕の表情続けていた老人が驚きを隠せない様子で思わず叫ぶ。


「ヒサ! お前のその力は人を救う物だ! 絶対に使いこなせよ!」


幕昰の言葉にザーガはうなずき、大剣を床に突き立てる。

そしてザーガの腕輪を見せつけながら左拳を握る。


「変身!」


変身の掛け声で全身が光を放つ。

その光はクローンザーガ達を後退りさせるほど。

いや、それどころか次第に爆散して行った。


光の放出が終わり、姿を表す。

元々真紅だった装甲が美しいホワイトになり、複眼が鋭くなっている。

複数箇所に破壊エネルギーを制御するためのリミッターが搭載。

すべて解除した状態で攻撃した場合、世界が破滅するほどの破壊エネルギーが1人の体に叩き込まれる。

そのため常に放出している〈ザ・ヒーロー〉とは違い破壊エネルギーを自由自在に操ることができ、加減は必要だが今の彼なら暴走しないだろう。


これがヒサが追い求めた圧倒的力。

その姿を見た六問は「変身できたね。君の最強の姿に」とサムズアップする。


「はい! このまま戦いを終わらせましょう!」


拳を握りしめ走り出す2人のザーガ。

次々と現れるクローンザーガを倒し、悪魔の科学者のそばに立つ。


「わしの研究は間違っていない! 間違っていないのだ!」


「あなたのおかげで俺は誕生した。産みの親を倒すことは心苦しいですが、悪に染まってしまったあなたを止めるのは俺の役目です」


「やめろぉぉぉぉぉ! わしはまだやらねばならないことが!」


その2つの拳は老人の叫びを聞かずカプセルをぶち破り、緑の液体が流れ出した。

ずっと液体漬けだったためかヨボヨボの体はすぐに崩れ落ち、完全に消滅した。


あとはクローンザーガ達を倒し、工場を破壊すれば敵の計画は失敗に終わる。

そんな時だった。


「グハッ!?」


幕昰の悲痛な声にすぐに向かうと、そこにはクローンの戦士に殴られ蹴られボロボロで倒れた姿があった。


「「幕昰さん!?」」


駆け寄ろうとする2人に「俺に構わず戦いに集中しろ!」と叫びながら立ち上がり、弾切れになったリボルバーのシリンダーを素早く取り替える。

シリンダー装填を完了したリボルバーの銃口をクローンザーガの頭に向け、親指でハンマーを下ろす。


「言っておくが俺はお前達を六問のクローンとは思わない。ただの敵だと判断している。その意味が分かるか?」


「…………?」


「つまりこう言うことだ」


リベンジアイによって暴走状態の敵に対して問題を出す幕昰、当然答えられない彼の顔面を撃ち出された銃弾が容赦なく貫通した。


膝から崩れ落ちたクローンザーガ、死亡を確認し銃口を襲いかかって来る者に向ける。

倒すことに躊躇ためらいのない刑事、ザーガの相棒はその左拳で腹の装甲にヒビを入れ、追撃の0距離射撃で仕留める。

息を荒くし、傷だらけの左拳を見てなぜか微笑む幕昰。


「俺はまだ死ねない! みんなで平和を掴み取るまでは!」


彼の戦闘スタイルは20年前から変わっていない。

元ボクサー仕込みのパンチ、そして正確な射撃。

偉くなってからもトレーニングをおこたらず、次の戦いに備えてきた。


だからこそ堕天使には、絶対に負けられないのだ。

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