第6話 兄と妹


「アルムちゃ~ん! おっはよー!」


 次の日──ジェイムズとアルムは、仲良く、買い物に出かけていた。


 毎朝、兄弟4人で食卓を囲み、兄たちを仕事に送り出したあと、弟たちは、こうして町の市場へと出かけてくる。


 だが、市場に着けば、いつもこの有様で、アルムは、今日も目立ちまくっていた。


「やっぱ、アルムちゃんは、この町一の美少女だなぁ」


「なに言ってんのよ。アルムちゃんは、舞台役者であるルーク君のなのよ。可愛くて当然! そうそう! 私、この前、ルーク君の舞台見てきたの。もう、騎士ナイト役が、すっごくカッコよくてー」


「いいな~。私もルーク様、拝みたかった~」


 若者たちが、アルムとジェイムズを囲みながら、賑やかに話をする。


 そして、その際に一緒に話題になるのが、次男のルークだった。


 なぜなら、ルークは、この町に二つしかない劇団の一つ『アストラ』のトップ3に君臨するほどの実力の持ち主。


 しかも、その中性的な顔立ちと甘い声は、老若男女をたぶらかし、オマケに、男役のみならず、女役まで演じきってしまうため、かなりもてはやされていた。


 そして、そんなルークに兄妹がいるとなれば、その兄や妹は、自然と目を引いてしまう。


「ねぇ、アルムちゃんも、いずれはルーク君と同じ劇団に入るの?」


「え? いいえ、私は、お芝居なんてできないし、人前に出るのが、恥ずかしくて……っ」


 陽気なお姉さんの質問に、アルムが、恥じらいながら答えた。


 町の人たちの前では、常にのアルム。


 だからか、彼らは、アルムが男だとは、一切気づいていない。


(……なにが、芝居なんてできないだよ)


 そして、そんなアルムの返答に、ジェイムズは眉をひそめた。


 昨日、拳銃ピストルを突きつけてきた悪ガキとは、まるで別人だ。


 これで演技ができないとは、よく言ってくれる。


 だが『こいつ男ですよ?』と、暴露したい気持ちをジェイムズは、ブンブンと首を振り堪えた。


 アルムが女装しているのには、ちゃんと理由がある。


 だから、家ではとして扱うが、外ではとして扱う。


 それが、ルノアール家の約束ルールの一つだ。


「兄さん。そろそろ、帰ろっか」


 すると、食材を買い終えたのか、アルムがジェイムズに声をかけてきた。


 アルムの手の中には、食材が入った紙袋が二つ。


 そのうちの重い方を持ってやれば、アルムは、市場の皆さんに向かって、愛らしく微笑みかける。


「それでは、皆さん、さようなら。あと、私達、父から探偵事務所を引き継いでるんです。もし、困ったことがあれば、いつでもいらしてくださいね♡」


 そう言って、溢れんばかりの美貌で訴えかければ、男性陣が「行くよ、絶対いく!」などと騒ぎ出すと、ジェイムズは、アルムの手を取り、足早に市場から逃げ去っていった。

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