第二話 招来

 弟子達の襲名式から2ヶ月後、風に乗り老いた薬師の下に皇帝陛下からの招来勅書が届いた。


 風に乗って届いた手紙は皇帝陛下の印が押されており、蛇が這ったような文字で書きしたためられていた。


 ”古き友よ、少し困った事が起こりそうな兆しがある。過去の名を捨てたお主に頼ることは約束を違えた事になるが、火急のため、みょうにち一度話を聞いてほしい”


 書を読んだ老いた薬師は困った顔をしていたが、古き友からの久しき手紙とのこともあり、渋々了承の手紙をしたためた。手紙をしたためた後、老いた薬師は少し嬉しそうであった。


 風よ、この手紙を古き友のもとへ。

指で空を切ると、手紙は風に乗り飛んでいった。


 みょうにち———


 老いた薬師は春の神木の麓にある王宮の門を叩いた。朱色に綺麗に彩られた門の左右には、訪問者を睨みつけるように2体の巨大な像が立っている。


 門が開くとそこには波打つような波紋を模すように砂利を敷き詰めた広い庭が広がっている。


 こんなに広くては歩くだけで疲れてしまうと王宮に来るたびに思ってしまう。年寄りのことももう少し考えてほしいものだと苦い表情を見せた。


 老師よ、お待ちしておりました。

 庭先でツルギが出迎えに来てくれていた。皇子ともあろうものが、従者を連れずに一人で日がさんさんと照り続ける中、日傘をさして待っていてくれたのだ。


 私に事前にお伝え頂ければ、事前に遣いを出しましたのに。

少し不満そうにツルギは老師に伝えた。


 すまなんだ、仰々しいのは少し苦手での…。

ツルギがいた事に驚きつつ、嬉しそうに言った。


 さて、父上の下に向かいましょう。途中で疲れたのであれば申し付けください。

ツルギはニヤニヤと笑みを浮かべながら話した。


 ええい、年寄り扱いするで無い。

門での広さに対しての不満顔をどうやら見られていたようで、少し恥ずかしそうに発言した。


弟弟子達の話やたわいもない修行の日々の話を

しているうちに皇座の間に到着した。


 古き友よ、よく来てくれた。お互い歳をとったが、息災であったか。

間の奥の玉座の方から声がかけられた。玉座には煌びやかな着物の上に鎧を身に付けた中肉中背の男が腰掛けていた。


 もったいなきお言葉、何とかここまで歳をとる事が叶いました。

社交辞令的に返した。


 相変わらず面白味がないのぅ。

陛下は少し不満げに老師を揶揄った。


 お主も相変わらずのようじゃの。

老師は少し呆れた顔で言った。


 そのやりとりを不思議そうにツルギは眺めていた。


 昔話に華を咲かせたいところであるが、本題に移らさせてもらおう。

陛下は真剣な顔で老師を見つめた。


 夏の神木の麓の町近くに穴が空いたようだ。今回の穴は中型なのが救いだが、いつ瘴気が噴き出すかわからん状況だ。

陛下は険しい顔で老師に話した。


 老師はその話を聞いた途端に顔色が変わった。穴は黄泉の国に繋がっていると言い伝えがあり、かつて巨大な穴が空いた際は大いなる災いがこの国を襲ったのである。いまだ、その大穴はこの大陸の中心に鎮座している。


 中型の穴とのことは魔に属する物が沸く可能性は十分考えられる。

老師はそういうと東の方角を眺めて物思いに耽った。


 時は一刻を争うため、過去の名を捨てたお主に頼むのは忍びないが、煉獄魔導士の力を借りられぬか。

陛下は物思いに耽っている老師に懇願した。


 過去の大災害の二の舞にならないためにも、今回ばかりは仕方ない。煉獄に魔を導く者として再び立ち上がるしかなかろう。

老師は陛下の顔を見て宣言した。


 やはりお主は変わっておらんな、いつまでも慈悲深い。

陛下は安堵の表情を浮かべた。


 老師は魔に落ちたものであっても救いの道はあるべきだという信念のもと、魔の物を慈愛を持って屠るそうだ。実際に、煉獄に導けているか定かでは無いが、誰にしも贖罪の機会は均等に与えられるものであると過去に語ったそうだ。


 友よ、穴の対応となると一人では厳しいかもしれん、弟子2人くらいを同行させたいと思うのじゃが。

陛下の顔色を伺った。


 そうだな、どれほどの事が起こるかは想定できん以上、致し方ない。

更に陛下はこう続けた。

 我が息子は…。


 わかっておるわい、相変わらずの子煩悩ぶりに呆れるわ。甘やかし過ぎじゃ、だからお主の第二皇子は…。

陛下の言葉を食うように被せてブツブツと小言をこぼした。


 父上!

 ツルギが声を上げた。


 わかってくれ、息子よ。お主は第一皇子としての責務を全うしてほしいのだ。

陛下は困った表情でツルギを嗜めた。


 ツルギよ、何も現地対応だけで、この問題は解決できんのじゃ。

老師もツルギを嗜めた。


 そうじゃのぅ、現地の内容をハカリを通して伝えるので、ここでハカリと連携して国としてどう対応するかを考えてほしい。

ツルギにそう提案し、現地にはアオとコウを連れて行くと告げた。


 承知いたしました、師よ。

渋々、ツルギは承知した。それを聞いた、陛下は少しホッとした顔をしていた。


 夏の神木の町長には話を通しておこう。まず、町長を訪ねてくれ。

陛下はそう言って、老師を送り出した。



 

 

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