第13話 戦い終わって、日が暮れて


 屋上にて。

「一体どういうこと?」

 改めて、二人に問うた。

「この影分身装置を使った」

 お藤さんは、事もなげに答えた。

 彼女の手のひらに乗っている鈍銀の球体。

 それが、どうやら影分身装置らしい。

「こいつは起動した瞬間から、本体の姿を消し、影分身を発動する。それのみならず、本体の発するバイタルサインすべてを影分身に移すことが出来る」

「だから、姿を消したまま敵に近付くことも、ワイヤーを張ることも出来たんだよ」

 お藤さんの後を引き継いで、青さんが言った。

 アタシとの思念通話が終わってすぐ、お藤さんが、この装置を使った奇襲を持ちかけて来たとのこと。

「もしやと思ったが、この世界の魔力反応も移せたようだ」

「なるほどねー……だから不意打ち作戦が上手く行ったのか」

 あの短時間に、よく思い付いたな。

「けどお藤さん、影分身装置は持ってなかったんじゃ?」

 さっきのは嘘だったのかよ~と唇を尖らした。

「……もともと、お嬢様を確実に逃がすために取っておいただけだ」

 お藤さんが言った。

「だが、目の前に自分の命を賭ける人間が居る。その状況で使わないなど、愚かにも程がある。俺は、お嬢様の執事だ。そんな失態は、赦されん」

「お藤さん……」

「そうだよ」

 ぺしっと後ろから叩く手あり。

「あでっ」

 青さんだ。

「君が自分の命をどう思おうと君の自由だけど。それを見た僕たちがどう思うかも、また自由だからね」

 はあ、と彼女はため息を吐く。

「急ごしらえとは言え、仲間は仲間。助けたいって思っちゃうものだよ」

 青さんの目の奥には、安堵と悲しみがあった。

 そうだ、アタシはこの人に辛い役目を負わせるところだったのだ。

「……ごめん。ありがと」

 アタシをはたいた手が、今度は優しくアタシの頭を撫でた。

「みんな、無事でよかった」

 青さんが、しみじみと言った。

 後ろで、お藤さんが頷くともなく目を伏せる。

「──うん」

 アタシの身体は、まだ動いている。

 アタシの意識は、まだ働いている。

「本当にそうだ」

 アタシも、しみじみと賛同した。


 ※


「本当に、ありがとうございました!」

 麦穂さんが、直角に礼をした。

 ビルの下。

 麦穂さんは無事、浅葱さんを確保して、地上に戻れたようだ。

「本当は、浅葱にも礼を言わせたいんですが……」

「いいっていいって」

 浅葱さんは、少し離れたところで寝かされていた。

 素っ裸だったので、そのへんに引っかかっていた旗の残りを掛けている。

 何か布が見付かって本当に良かった。

「浅葱さんも、仲間を喪ってしんどい時だろうから。変に混乱させちゃうのもね」

「俺たちは、元の世界にさっさと戻らねばならないからな」

 お藤さんは、本当にブレない。

 けど、あの布を見付けて来たのはお藤さんだったりする。

「どうか、お元気で」

 青さんが、労わるように言った。

「皆さんも、お元気で」

 麦穂さんが、柔らかく微笑んだ。




 *今日は同日二話公開なので、そのまま最終話も読めます↓

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