第10話 戦闘、開始!!
「浅葱!?」
アタシたちの後ろで、麦穂さんが声を上げた。
泣き声に似た、悲痛な声。
「!」
「乗っ取られたのか……!」
チッとお藤さんが舌を打つ。
『…………』
ゆら、と彼女の手が伸ばされて。
彼女の周りに、チカチカと鋭く光る球が現れた。
「危ないッ!」
麦穂さんの声と同時に、
ドドドドドドドッ
光の球がこちらへ向かって放たれた。
アタシたちは、いっせいに動き出す。
アタシは左前方へ飛び、横目で見たお藤さんは、麦穂さんを扉の中へ突き飛ばしていた。
青さんは右前方へ。
ドォンドォンドォンドォンッ
爆発音と、煙。
「皆さん……!」
その向こうから、麦穂さんの心配そうな声がした。
良かった。
やっぱりちゃんとお藤さんが助けてくれた。
しゅうぅぅううぅぅ……
もうもうと立ち込める煙の中、
「いやー、危ない危ない」
アタシは、銃を構えた。
「流石に肝が冷えたわ」
もちろん、吹き抜けに向かって。
チャキッ
ドンドンドンドンッ
煙の隙間から、奴の横っ腹を狙い撃つ。
『…………』
しかし、魔王は特に大きく動くでも無く、いつの間にか手にしていた大剣で、軽く銃弾を弾いてしまう。
「! やるねぇ」
同じ光景を見ていたのだろう。
「あれは、浅葱の剣です! すべての攻撃を防ぎます!」
麦穂さんが、先ほどの入り口の影から教えてくれた。
「勇者を乗っ取って、勇者の力も使えるようになったということか?」
「多分ね」
青さんが、小走りにスロープを反時計回りに駆けながら、
バシュンバシュンッ
クロスボウを連射する。
ガカカカカッ
それらもすべて、軽く薙いだ大剣により弾かれてしまった。
ゆら……と黒い靄が動き、また魔王の指が、青さんを指し示す。
チカチカッ
鋭く明滅する光球が生み出される。
だが魔王の後ろには、飛び上がり、刀を振り被ったお藤さんが居る。
ザシュッ
お藤さんの斬撃が、魔王を靄ごと一刀両断する。
光の球が消える。
(いったか!?)
そう思ったのも束の間。
ゆら、と黒い霧が揺れ、霧散し、また集まっていく。
先ほどから少し横にそれた位置に、魔王はまた現れた。
「チッ、フェイクか!」
重力に従い、落下を始めるお藤さんに向かって、青さんのワイヤーが射出される。
それを空中で受け止め、お藤さんは、吹き抜け側面へ着地。
その勢いのまま、側面を駆け上がっていく。
『……………』
そんなお藤さんを、新たに生み出された魔王の光球が狙う。
「させないよーっだ」
ドンドンドンッ
アタシは、それらをすべて撃ち落としていく。
ドドドドドッ
光球が爆ぜる中を、お藤さんが駆け戻って来た。
「悪い、助かった!」
「いいってことよ!」
『…………』
吹き抜けの真ん中で、魔王がこちらを窺っている。
うーん。あそこまで虚ろな眼をした自分の顔と向き合うのは、正直居心地が悪い。
別人なら良かったのに。
ザザッ
そんなことを考えていたら、インカムから青さんの声がした。
『どうする? 畳みかけるかい?』
「そうねぇ……それしかないか?」
青さんとアタシで光球を潰すついでに魔王を足止めして、そこをお藤さんに斬り伏せてもらう……というのが、一番か。
『あの!』
そこへ、麦穂さんの声が割り込んできて、アタシたちは吃驚する。
「お前!?」
『すみません、皆さんの思念通話機器に割り込んでいます』
そんなことも出来るのか。
『浅葱を、助けられませんか!?』
『はあ!? 何を言ってる! 乗っ取られてるんだぞ!』
お藤さんが、声を張り上げた。
いや、実際には声を出していない思念通話と呼ばれるものなのだけど。
『無理は承知です……! どうか、試すだけでも……!』
麦穂さんの声は、切実だった。
──わかるよ。
動いているのを見たら、そりゃ、助けたいって思っちゃうよね。
例え敵が乗っ取ったものだとしても。
『馬鹿を……、?』
アタシは、目でお藤さんを制した。
『──わかった』
「おい!」
つい、お藤さんが本当に声を出してアタシを咎める。
『試すだけ、ね?』
アタシは、敢えて
『! ありがとうございます!』
麦穂さんの声が、パッと明るくなる。
アタシは、うん、とうなずいた。
『試すのはいいけど……何か方法はあるのかい』
青さんが問う。
『無くは、無いってだけ。お願い、しばらく黙って見てて』
アタシは言った。
『……わかった』
『了解』
二人が、渋々ながら了承してくれた。
アタシは小さく笑ってから。
「ねえ、魔王さん! 取引をしない?」
吹き抜けの真ん中に浮かぶ『彼女』へ声をかけた。
『!』
虚ろな眼が、微かに見開かれる。
「アタシとその身体の持ち主は、同じ人間なの。だから」
アタシは、自分の胸あたりをトンと叩いた。
「その身体とアタシの身体、乗っ取るのを交換してくれないかな?」
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