第7話 話を聞かせてくれないか
男の人だ。
ぼさぼさの黒髪に黒目。痩せているけれど、背は高そう。
ところどころ血で黒ずんだボロボロのYシャツ。下のスラックスも破れかぶれで、覗く脚も血まみれだった。
弓道の胸当てや、武士の着けていそうな籠手や脛当てなども身に付けている。
何というか、一般人じゃない感じがひしひしとする。
や、そもそも一般人は、いきなり女子に斬りかかったりはしないか。
「何だ、お前は」
お藤さんが、鋭く目を細めて問うた。
「な……っ」
しかし、男性はその問いに答えることなく、狼狽えるように後退した。
そして目を瞠り、声を震わせて、
「どうして……浅葱が二人……いや、三人!?」
アタシたちを指差し叫んだ。
「!」
思わず、三人で顔を見合わせる。
「お前らは一体何なんだ!?」
男性の目に浮かぶのは、困惑か、怯えか。
見ていてちょっと可哀想なくらいの狼狽だ。
「それは、こっちの科白だが?」
戸惑う男性を、気だけで斬り伏せてしまいそうなお藤さん。
青さんが、彼女を「まあまあ」と宥めた。
そうだよね。
これだけ怯えてる人を、これ以上怖がらせるのはよろしくないよね。
斬りかかられて思うことじゃないのかも知れないけど。
お藤さんを宥めるのは青さんに任せて、アタシは、彼を落ち着かせてみようと声をかけた。
「ねえ! 浅葱って人とアタシたち、もしかして同じ顔してる?」
単に、言っている内容が気になったのもある。
「!」
男の人は、更に目を大きく見開いた。
ビンゴだ。
「アタシたちは、この世界に呼び出された違う世界の『同じ』人間同士なの!」
種明かしをするアタシに、
「おい」
お藤さんがタンマをかける。
「魔王を倒すために、呼び出されたんだ」
「おい!」
今度は、呼びかけだけじゃなく、腕を掴まれた。
わかってるよ。
人間に見えるけど、彼が魔王側って可能性もあるもんね。
でも、同じ顔の人間……つまり、この世界の『アタシたち』が居るかもってなったら気になってしまうから。
あと、単純に『自分』以外の人間と、ちょっと会話したかったのもある。
自分と違う顔と声が、ここまで新鮮に感じるなんて。
「! ……じゃあ、やっぱり、もう、浅葱は……」
彼は、独り言のようにそう呟き、膝をついた。
「ねえ、あなた、その『浅葱』さんの仲間なの?」
アタシの問いに、力無く彼は頷く。
「……。そうだ。浅葱は、俺の……俺たちの仲間で」
彼が、言った。
「勇者だ。魔王を倒すための」
「「「!」」」
三人とも、息を呑んだ。
勇者。
やられてしまった人。
アタシたちがここへ来ることになってしまった、ある意味で元凶。
「けど、違う世界の『浅葱』が来たと言うことは……もう、浅葱を救えないのか……」
うなだれる彼の前にしゃがんで、
「……お話、聞かせてもらってもいいかい?」
アタシはお願いした。
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