第6話 魔法が魔法らしくないこの世界で


 バリーン

 硝子を割って侵入成功。

 さっきの会議室と同じような部屋だったけど、幸い敵さんは居ない模様。

 ひとまず、安心。

「さて」

 アタシは背負っていた楽器ケースを床に下ろした。

「ちょっと装備の補充しときますか」

 楽器ケースを、景気よくパカッと開ける。

「おお~~~」

 そこには、ずらりと並ぶ手榴弾とマガジン。

 武器を運ぶのにちょうどいいというので、うちの部署では楽器ケースが重宝されていた。

 メンバーの半分が楽器ケースを持って、服装はバンドマンやクラシック音楽奏者に偽装する(もう半分は清掃員)。

「こういう自動で装備が補充されるところは、魔法って感じで便利だよね~」

「確かに、クロスボウの矢も次から次へと出て来るしね」

「刃や鞘の硬さが増しているのも助かってはいるが」

 アタシたちの楽器ケースやクロスボウ、刀の柄と鞘には、それぞれ複雑な……円や四角、謎の文字などが組み合わさっている……魔法陣が描かれていた。

 キノが付けてくれたものだ。

 三人が付けているインカムにも同じものが描かれている。

 このインカムは、キノがくれた。

 思念通話機器、と言っていた。

 アタシはマガジンをボレロに仕込みつつ、

「でもどうせなら、もっと魔法魔法したのでも良かったんだけどなー」

 やれやれと息を吐いた。

「例えば?」

「バリアーとかー? 影分身とかー」

「確かにどっちもあれば便利そうだね」

「影分身装置なら、俺の世界にもあったがな」

 お藤さんが、つまらなそうに言う。

「え、マジ!? 今持ってる!?」

「持ってたら、とっくの昔に使っている」

 それもそうだ。

「ちぇー。なーんだー」

「僕のワイヤーも、どこまでも伸びるだけじゃなくて、もっと機能があれば良かったんだけど」

 バリアーになるやら空を飛ぶやらさ。

 青さんが、自分の左腕を見ながら言った。

彼女のそこに装着されているのは、長方形の箱が付いた、銀色の手甲だ。

そこから、ワイヤーが射出される。

 こちらにも当然、魔法陣が描かれていた。

「言っても詮無いことだ。大した力が残ってないからこその、俺たち頼みだからな」

「そうだけどー。ロマンの話よ、お藤さん」

「だから非常事態にロマンなんか求めるなと言っている」

 お藤さんが、青さんの方を見た。

「……それで、青。本当にこの上で合っているんだろうな?」

「ちょっと待ってね」

 きゅる、と彼女の瞳孔が、異様に小さくなる。

 それから、そーっと注意深く、割れた窓から上の方を見上げ、様子を窺う。

「……うん。合ってる。上の方に、やたらと大きな靄が見える」

 青さんには、敵の位置がある程度『える』能力があるそうだ。

 強い敵は、黒い靄。雑魚が集まっているところは黄色い影……といった感じで。

 ただ正確な位置では無く、「だいたい、あの辺」くらいらしい。

 しかも、目を凝らさないと視えないそうなので、移動中はあまり使えないとのこと。

 だから下にいるときに、魔王の大まかな位置だけでも把握しておくため、見てもらっていた。

……まあ、だから、本当は最初からこちら側を上って来たかったのだが。

残念ながら、一階の入り口がどうやっても壊せなかった。

 パッと見はただの硝子だったくせに。

そのため、上にある連絡通路を使おうという話になり、今に至る。

「あっち側には無い。たぶんあれが魔王だと思う」

「じゃあ、サクサク上っていきますかー!」

「!」

 アタシが踏み出しかけた瞬間。

 お藤さんが、ぐいっとアタシを押しのけた。


 ガキンッ


 何すんの、と文句を言おうと振り向いて見たのは、鞘で、剣を受け止めているお藤さんの姿。

「──わお」

 剣の持ち主は魔物では無く、人間だった。

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