煌めく星が降る夜に

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煌めく星が降る夜に

 小さな島国にあるカシツネ村はいつもより賑わっていた。

 今日は年に一度『星祭り』という流星群に願いを込め、神に祈りを捧げる祭りがある日なのだ。村民たちはここ数日、祭りの準備に明け暮れていた。

「おばさん、クッキーの準備は終わったよ」

 大量の星型のクッキーが入った大皿を抱えた明るい茶色の髪と深い緑の瞳の少女、ホリー・ソルナが言う。ホリーは基本的には真面目な性格で聡明な少女だ。村民たちからはよく頼られている。

「ホリーちゃんのおかげで早く終わったわぁ。さ、この後はここでやることはないし好きにしてなさいな」

「分かりました。また夜に会いましょうね」

 そう言ってホリーはおばさんの家から出て駆け足である場所へ向かった。

「ミーナ!」

 ホリーは丘の上にいる人物に声をかけた。ミーナと呼ばれた明るい金髪に深い青の瞳の少女はホリーに気付き、ホリーに歩み寄る。

「ホリーも終わった? 私、飾りつけ大変だったよ」

「うん。お姉ちゃんに喜んでもらえるように心を込めて作ったよ!」

 ホリーは姉であるミーナに満面の笑みを向けた。ホリーのこの笑顔にはミーナに向けられた姉妹愛以外の愛情も含まれているのだが、ミーナは気付いていなかった。


 日が暮れ始めて村民たちは行事の際に着る『ウィリテ』と呼ばれる衣服に着替え広場に集まりだした。ウィリテは薄手の長袖シャツの上にジャンパースカートのようなものを着て、帯で結ぶつくりになっている。ホリーが紅色の布に青緑色の帯で、ミーナが紺色の布に黄色の帯になっていてお互い、髪を結っている。


「それでは、神に祈りを捧げ、星祭りを始めるとしましょうか」

 村長の掛け声の後に村民たちが祈りを捧げ、食事を始める。ここに並ぶのは村民たちが準備していた料理でホリーが作った星型のクッキーも並べられた。

 星祭りには無事に冬を越し、次の豊作を祈るという意味も込められているのだ。

 一部の人たちは楽器を持って演奏を始めていた。毎年複数人で音を合わせて即興で音楽にしていくのもこの祭りの楽しみになっている。


「今年もお父さんが帰って来なくて残念だよね」

「あ、うん……」

 大陸に出稼ぎに出ている父親の話が出た途端、ホリーは少し嫌そうな顔をする。

 ホリーは父親の冷たい眼がどうにも好きになれない。怖いから関わりたくないと思っていて、話もしたくないのだ。


 食事を食べ終えた後は夜中宴の繰り広げられる広場に残るか、他の場所で静かに流星群を見るかの二択に分かれる。ホリーはミーナと二人きりで見たいと思い、話しかけに行こうとする、が――

「ホリー、一緒に丘で見ようよ」

「――‼」

 先にミーナに誘われた。ホリーはとびっきりの笑顔で返事をした。

「じゃ、行こうか。暗くて危ないから」

 そう言って手が差し出される。ホリーの顔が緩んでいく。


 手を繋ぎ、歩いて丘に着いた。二人で斜面に座って流星群を待つ。

「ホリーの作ったクッキー、美味しかったよ。持ってきたから一緒に食べよ」

「うん!」

 ミーナの帯の隙間から布に包まれた星型クッキーがいくつか出てきた。それを二人で食べる。

 ホリーはミーナに食べてもらえたことを心の底から喜んだ。

「あ、暗くて分かりづらいけど、この花、綺麗だね」

 地面には星のような形をした小さな花が集まっている場所があって花束みたいになっていた。

「本当だ。せっかくだし、ホリーの髪に挿してあげるね」

 あっという間にホリーの髪は花だらけになった。

「ミーナにも挿してあげる!」

「ありがとう!」

 お互いが花まみれになった後、二人は空を見上げた。

「流星群、楽しみだねぇ。ホリーは何お願いするの?」

「えへへ~、秘密~」

「えぇ、そう言われると余計気になるよ」

 はぐらかしていると、視界の隅で空が光った。

「あ、始まった」

 あちらこちらで星が流れては消えてを繰り返していく。見入ってしまう。


「ホリー、早めにお願い事しないと忘れちゃうよ?」

「大丈夫だよ。今するから」

 ホリーは心の中で祈る。



――ずっと、ミーナと一緒に居られますように。




                                    終

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