5P 『将来なりたい職業ランキング~前編~』

 俺の名は田宮ヨシミ。 都内の学園に通う三年生だ。 そして学園の部活である雑誌部『めくりた』の部長でもある。 役割としては、まあ編集長みたいなものだな。 部員たちが作成した原稿を最後に本読みしたり、企画会議で出た記事の案を決定したり、今後のロードマップを作成して部員たちを動かしていくのが俺の仕事だ。

 さて、今日は何をする予定だったかな。 俺はメモをぺらぺらとめくる。

 お、あったった。 今日は……ちょうど取材の日だな。 内容は『将来なりたい職業ランキング』……。

 少し前に企画会議の段階で決められた特集企画だ。 今日は朝、昼、放課後の下校生徒たちにインタビューを敢行し、なりたい職業を聞いて統計を取りランキング形式の記事にするというものだ。

 今は放課後。 部室――編集室とも呼んでいる――に部員がまだ来ていないのはみんなインタビュー活動をしているのだろう。

 雑誌部は雑誌を作るのが目的の部だ。

 毎月第2木曜に刊行され、それを待ち望んでいる学園の生徒たちも多い。 雑誌のジャンルとしては特に決められたテーマはない。 学園についてのニュースや報告関係は新聞部がやるし、新聞部との差別化を図るため毎回毛色が違う記事を書くのが雑誌部の特徴だ。 テーマがない故に、毎回読者が面白いと思える記事を作成するのは骨が折れる。


「さてと」

 俺は部長の椅子に座ると、机の上に目をやる。 机の上には小物が雑多に置かれており、その中には新聞部の発行する新聞の新刊が置かれていた。

 俺は何気なく手に取って読んでみる。 ふむふむ……『チャリティの寄付金』、『学園行事』、『清掃活動、みんなの声』、『今日の俳句』……いつも見るような内容と変わらない記事が目に映る。

 新聞部は毎月二回刊行され、雑誌部よりは学園の『今』の情報が早く生徒たちの手に渡る。 その分記事内容はルーティン化されており、可もなく不可もなくといった内容だ。

しかし万が一にも記事の内容が被ってはいけない。

 特に記事内容の被りについては特別なルールは無いが性質が似ている雑誌部と新聞部の中ではそれは暗黙のルールであり、マナーだ。 だから変な話、企画会議の段階では『新聞部の記事には載らないような企画記事』がまず念頭に置かれる事となるのだ。

「おはよう部長」

 部室に新田ミナミが入ってきた。 彼女は俺と同じ三年で、雑誌部の歴も俺の次に長い。

「ああ、おはよう。 やっぱり新田が一番最初か」

「ええ、さっき様子を見てきたけど、他の子たちはまだ下校中の生徒や部活の子たちにアンケートとってるわ。 ……珍しい、部長が新聞部の新聞読んでる」

「え? いや、いつも読んでるぞ? 新田が見てないだけで」

「そうなの」

 新田は俺の横まで来ると、俺が呼んでいる新聞を見る。

「どう? 何か面白そうな記事はあった?」

「うーん、コメントは控える。 いつも通りの新聞部の記事だ」

「そう。 何か聞いた話によると、新聞部も部長が変わってから記事内容を一新するとかいう動きもあるみたいよ?」

「そうなのか?」

「マンネリ化が続いてるし、最近は新聞よりウチらの雑誌の方が人気度も売り上げも多いから、躍起になってるんでしょう」

「ああ、でもそんな事しなくても新聞部は元々この学園の伝統ある部だから、人気が無いからってそう簡単には無くなる事はないと思うんだがな」

「そうだけど、でも新聞部の部長、今回はけっこうプライドが強い奴みたいで、対抗意識バリバリに燃やしてるとか何とか」

「雑誌部に対して?」

「そう」

「ジャンルが違うんだから、自分たちのできる範囲で頑張ればいいのにな?」

「まあそうだけどね。 優劣つけなきゃ気が済まない輩はこの世界にはごまんといるから」

「ところで」

「ん?」

「部長はあるの?」

「あるのって、何がだ?」

「将来なりたい職業」

「……ああ、まあ編集関係の仕事はしたいと思ってる」

「大きな出版社に入って?」

「まあそこはまた様子を見るが、何せ書きたいものが書けるところに入りたいかな」

「そっか。 さすが、雑誌部部長の模範的回答」

「なんだそれ。 新田はどうなんだ? 何かなりたい職業はあるのか?」

「私? 私はねえ――」

「お疲れ様でーす!」

 部室に坂本ユウが入ってきた。 坂本は二年の部員だ。

「おお坂本、お疲れ」

「あ、やっぱ二人とも居た!」

 坂本は息を切らしている。 走ってきたみたいだ。 校内は走るの禁止だってことを忘れたのか? 危ないなあ。

「どうした坂本、そんな慌てて?」

「どうしたもこうしたも無いですよ! ヤバいんですって!」

「ユウちゃん? 何がヤバいの?」

「さっき下校中の生徒にアンケートとってたんですけど! その中に新聞部の奴らも同じように別の下校中の生徒へアンケートをとってたんです!」

「まあよくある光景だな」

「そうなんですけど、問題なのはその内容です!」

 内容? 嫌な予感がする。

「……どんなアンケートをとってたんだ?」


「『将来なりたい職業はなに?』です!」


 部室内がまるで雷に打たれたかのように静まり返る。

「な、なん……だと?」

「ちょっと待って! それって新聞部と記事が被ってるってこと!?」

「そういう事になります……!」

「くそ! 遂に来てしまったかこの時が……!」

 まずい。 非常にまずいぞこれは。 恐れていた事態が現実のものとなってしまった。

 あれほど注意していたのに、何でこんなことに!

「しかし、新聞部の奴ら……なんでまたそんな柄にもない企画を……」

「ほら、新聞部の新部長。 急進派って噂はどうやら本当だったみたいね」

「坂本、すぐにでも企画の変更はできるか?」

「できることはできますけど……もしかして、泣き寝入りするつもりですか!?」

「泣き寝入りって……そもそも新聞部の方が早く刊行されてしまうんだから先を越そうにもどうしようもないだろ? 締め切りだってあと三日だ。 潔く企画をゼロから作り直して――」

「だからッ! なんで私たちが身を引かなくちゃいけないんですか!?」

「は、はい?」

「良いですか!? この企画は一カ月前から話が出ていたSpecial! スペシャルな企画ですよ! タミさんが部長になってからの超大型企画のはずでした!」

「そ、そうだったか……?」

 俺は横にいる新田に耳打ちしたが、新田は小さく首を振る。

「良いですか? ここで新聞部にナメられたら前部長に顔向けできません!」

「つ、つまり?」

「徹底抗戦と行きましょう! 今から新聞部に殴り込みです! 最悪企画を故意にパクられた可能性もあります! そんなこと……お天道様が許しても、この雑誌部のタミさんは許しません! そうですよねえぇええ!?」

「あ~坂本? 一旦落ち着け? ほら、みんなにと思ってこの前行った松浦堂で有名なお茶の葉買ってきたんだ。 ちょっと淹れてくれないか? 俺も飲みたい」

「お茶なんかどうでもいいんですよぉおおッ! タミさん! 部長として、それで良いんですか!? みんなで決めた企画! 大事な部員が汗水たらして朝から晩まで聞き込みアンケート調査して、それを横取りされて努力も全部水の泡ッ! こんな悲しい事はありませんよ! 今すぐ新聞部の奴らに我々が作るはずだった企画記事のパクりの謝罪と即時取りやめをしてもらわにゃあ、この坂本ユウ……! 死んでも死に切れませんッ!」

「いや、死ぬな? まだ若いんだから」

「確かに……」

 新田がため息を吐きながら言う。

「もしこれが雑誌部から故意にパクったものだとしたら、許せないわね」

「新田!?」

「そうですよねミナさん! これは事実確認をしなくちゃ!」

「いや、そうは言うがな……新田もわかるだろ? 他の部とのもめごとはご法度だ。 そうなれば教師たちも黙ってはいないし、生徒会からも厳重注意を受けるだろう。 ただでさえ今けっこう軌道に乗ってる雑誌部なんだから、変な問題を起こしたくはないんだ」

「タミさん! そこに『めくりた』魂はあるんか!?」

「え、あ、はい?」

「前部長はもっと魂がありました! 部員の事を大一に考え、そして面白い記事を書くのに迷いは一切ありませんでした! 今のタミさんは――いいえ、部長にはそれがない!」

 あ~来ましたねこれ、はい。 前部長比較。 一番辛いやつね、はい。

「ユウちゃん、それは言いすぎだよ。 前部長には前部長の。 今の部長には今の部長の良いところが……あ、あるのよ」

 最後なんで言葉が濁るの新田!? 全然フォローになってないよ!?

「う、うむ。 ちょっと考える時間をくれないか。 ちょっとお茶でも飲んで――」

「「部長ッ!」」

 突然入り口に二人組が現れた! と思ったら雑誌部部員で一年の蓮乃レンと河野カズヤだった。

「ふ、二人ともどうした! そんなに慌てて?」

「や、ヤバいです部長!」

 河野が興奮気味にいう。 だいたい言うことは想像できてる。

「な、何がヤバいんだ?」

「し、新聞部の奴らが! 新聞部の奴らが!」

「――ああ、分かってる。 坂本から今聞いた! とりあえずみんな座れ!」

「ち、違うんですよ!」

「え?」


「お邪魔させてもらうよ!」


 二人の後ろから女の声? そして二人の間を割り込んでこの部室に入ってくる。

「あ、どちらさま?」

「新聞部の新部長、伴坂真琴(ともさか まこと)だ」

「あ~、どうぞ。 とりあえずお掛けください。 えっと坂本……とりあえずお茶、人数分淹れてくれる?」



 ……部室内は異様な緊張感に包まれていた。 俺の目の前に座る新聞部の新部長。 伴坂マコトと名乗った女生徒は、腕と足を組んで俺を笑いながら睨みつけている。「それで、今日はどのようなご用件で?」

 俺は丁重にお伺いする。

「知ってるはずだ。 そこの二人が校内で他の生徒へアンケートをとっているのを私の部の部員が見ていてなあ?」

 伴坂は蓮乃と河野をちらりと見る。

「内容を聞いてみるとそれはそれは驚いた」

「はあ」

「『将来なりたい職業はなに?』だそうだ。 これは何だ? 今回の雑誌部の企画か?」

「まあ、そうですけど」

「そうか、それが聞きたかった。 でもおかしいなあ? ちょうど私たちも全く同じ内容を記事にしようとアンケートをとっていた所だったんだ」

「そ、それはまた……どうやら内容が我々と新聞部で被ってしまったようですね」

「ほう? 被ったというか?」

「な、何が言いたいんですか!」

 たまらず坂本が声を荒げる。

「そろそろ白状しろ? 私たちの企画を、お前たちがパクったと」

「な……!」

「ふざけないで!」

 坂本は机をバンと叩く。

「パクったのはそっちでしょ!? だいたいこの企画は一カ月も前から話しが上がってた企画なの! 私たちの方が早いの!」

「伴坂さん」

 新田が冷静な口調で話し出す。

「新聞部はいつこの企画を上げたの? どちらが先に……なんて言うつもりは無いけど、企画自体は私たちが一番早く構想していたから少なくともパクリと言われるのは納得いかないわね」

「その問いは不毛だ。 証拠なんてお互いないだろ? どっちが先に考えたにせよ、私たちは昨日からアンケート調査を行っていた。 お前たちは? 今日からだろ? それが何よりの証拠。 お前たちは私たちの企画をパクった」

「それこそ不毛よ。 だって私たちはあなたたちが昨日からアンケート調査をしてたなんてついさっきまで知らなかったもの。 だから決めつけは良くないんじゃないかしら?」

「むしろ私たちは新聞部がパクったんじゃないかと思ってるんだから!」

「ほう、お互い様ということだな」

 ヤバい、ヒートアップしてる。 このままではまずい。

「あ~伴坂さん? 改めて申し上げますが、俺たちは断じて新聞部の企画をパクってなどいません。 同様に、そちらが我が雑誌部の企画をパクった等という疑念も抱いてはいないのです」

「タミさん!? 何を言って――」

「坂本少し静かに」

 俺は坂本の言葉を遮ると、改めて伴坂を見て言う。

「今回は偶然に偶然が重なり、このような事になってしまったと認識しております。 こちらとしても無用ないさかいは御免被りたい所ですので、ここは一つ、穏便に解決しませんか?」

「穏便に?」

「そうです。 どちらかが企画の取り下げを致し、どちらかがそのまま企画を進めれば問題ないかと」

「それなら解決だ。 もちろん企画の取り下げはお前たちがする事。 私たちはこのまま続行させてもらう。 あと、私の部員たちも皆血気盛んでね?」

「というと?」

「皆今回の件について非常に憤慨している。 新聞部としては今回の件で雑誌部に足並みを乱されたと認識している。 この場を丸く収めるためにも、部員全員の我が部への直接の謝罪を要求したい」

「な……!? この女言わせておけば!」

「ユウちゃん、落ち着いて。 伴坂さん、その要求は受け入れ難いですね。 私たちが何をしたのでしょう? いわれなき件で謝罪をしなければいけないというのは、到底納得のできることではありませんよ」

「よくもぬけぬけと。 お前たちは私たちの案をパクった! だから謝罪をしろと言ってるんだ!」

「伴坂さん、企画被りががあったことは素直にこの場で謝罪いたします。 ですが企画を盗んだと仰られるのであればそれは勘違いというものです。 どうか冷静になっていただけますか?」

 新田は俺にならってか非常に冷静に伴坂と対話している。 ああ、こういう時は非常に新田が頼もしい。

「冷静に? 馬鹿を言え。 新聞部と雑誌部の暗黙のルールを破ったお前たちのようなやつら相手に冷静に話をしていたら話が終わらないではないか! 雑誌部も改名したらどうだ? パクり部ってな!」

 ヤバい。 確かにこれはヤバいわ。 話が通じないぞこいつ……!

「証拠は!? 私たちがパクったっていう証拠はあるの!?」

「そんなもの無くても分かる。 私は部員一人一人の性格を把握している。 我が新聞部にパクりをするやつ等いない。 となれば消去法で、お前たちがパクったという確かな結論に達することができる」

「ぼ、暴論だそれは!」

 河野もたまらず反論する。

「じゃ、じゃあこの雑誌部の部長の田宮さんも俺たちの事を全部把握している! そうですよね!?」

「え? あ、ああもちろんだ!」

 ちょっと自信は無いけど……。

「なら俺たちだって新聞部を疑うことになるっすよね!?」

「道理ねカズちゃん。 伴坂さん、部員の子を信じたい気持ちも分かりますが、彼らも人間です。 時には過ちを犯すこともあります」

「何が言いたいんだ? 私たちがパクったとでも言いたいのか?」

「ですから、そんなことは言っていませんよ。 確かな証拠は何もないんです。 感情だけで動かないで頂きたいと言っています。 正直これは泥仕合いにほかなりません。 そんなことより、どちらが企画の取り下げを行うかを考えた方が建設的ではありませんか?」

「あくまでシラをきるつもりだな? 良いだろう。 では勝負といこうか?」

 勝負? 勝負ってなんだ?

「あ、あの……勝負とは?」

「このまま私たちとお前たちは企画を続行させる。 記事の原稿が出来上がったら、それを関係の無い第三者に見てもらうとしよう。 そこで、どっちの記事が品質共に勝っているかの勝負だ。 負けた方はその時点で企画の取り下げを行い、記事にはしないと誓ってもらう」

「冗談じゃない」

 新田がはじめて口調を荒くする。

「こっちは締め切りで追われてるわ。 そんなくだらない賭け事に時間を割く暇なんてない!」

「ほう、賭け事と言うか。 ということはお前たちは記事の良し悪しをギャンブルのように見ているというわけだな?」

「さっきから揚げ足ばっかりとってどういうつもり?」

「ふん! 私たちは違う! 我が新聞部は記事を確かな職人達が吟味し、正確に品質を重視した最高の記事をいつでも書くことができる! お前たちのようなアマチュア風情が歯迎える相手ではないのだ!」

 いや、部活である以上アマチュアだと思うけど……。

「お言葉だけど! 私たちも誠心誠意毎月の記事制作を各自の精鋭が洗練して読者に届けてるの! 優劣をつけるなど浅ましい思考よ!」

 気持ちは分かる。 でも新田、ちょっと落ち着いてくれ! 相手のペースに吞まれてるぞ!

「へえ! じゃあ自分たちはちゃんとした活動をしてると! 誰が見ても恥じぬ仕事をしてると! そう言うか!?」

「ええ! 断言できるわ!」

「パクった分際でよくそんな大層な事が言えたもんだ!」

「パクりじゃねえっていってんでしょぉおおおお!?」

「お、おいおい! 新田落ち着け! 伴坂さんも、ちょっとどうか冷静に! 俺たちは別に喧嘩したくてこんな話をしてるわけじゃないんだ」

「じゃあどういうつもりだ? パクリを見逃してくれってそういう事か? なら早く謝ってもらわないとな~あ?」

「誰が謝るかバーカ!」

「だからやめろって新田!」

 アカン、新田完全に頭に血が上ってる。

「ほらほらどうした? ん? 誰がバカだって? もう一回行ってみ? ん? ん?」

「こんの……調子に乗りやがって!」

「雑誌部の部長、お前名前はなんだったかな?」

「田宮……ヨシミだ」

「田宮! お前の部は統制が取れてないなあ! まとまりが一切ない! こんな感情的に動く部員たちを持ってさぞ哀れなことだ! 我が新聞部は全員が団結力を持っている! お前もツイてないなあ!?」

「くッ! 言わせておけば! もう我慢――」

「撤回してくれ」

「はあ?」

「俺やこの部をなんと言おうが構わない。 だが俺の大切な部員たちを貶すような発言は許容できない。 撤回しろ」

「黙れパクり部め」

「良いだろう。 お前がそんなにも優劣をつけたいならここではっきりさせておこう。 その勝負。 受けて立ってやる。 その代わり、俺たちが勝ったら今後部員の事をとやかく言うのはやめてもらいたい」

「負けたら?」

「好きなだけほざくんだな」

「ふん。 かつての雑誌部部長は素晴らしい手腕だと聞いていた。 お前がどれほどの器か、この伴坂マコトが見極めてやるとしよう」

「部長! こんな奴の言う事に付き合ってたら締め切りに間に合わないわ!」

「なら勝てば良い。 勝って今回の記事を載せれば全部解決だ」

「でも――」

「勝てるよな? 新田」

「……!」

「それにみんな、どうだ! 俺たちの力を見せつけてやろうじゃないか!」

「タミさん……!」

 みんな、反論するものはいない。

「決まりだな。 さあ新聞部部長、伴坂! 正々堂々勝負と行こうじゃないか!」

「おうおう威勢がいいではないか! そうでなくては! こっちも手加減はしないぞ」

「望むところだ」

「今一度聞く。 謝罪をすれば許してやるが、そのつもりはないんだな?」

「そのセリフ、そのまま返させてもらおう」

俺のそのひとことで部室は静寂に包まれる。

「せっかくだ。 頂いておこう」

伴坂はおもむろに目の前に置かれたお茶を啜る。

「いい茶だ。 茶だけはな!」

そう言うと伴坂は席を立って無言で部室から出ていった。

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