3P 『コスパ最強料理!』
「用意するものは、もやし、肉(ひき肉でも可)、砂糖、醤油、みりん、おろしニンニク、豆板醤、オイスターソース(無くても可)、酒(無くても可)。 最後に酢。 以上を用意したうえでさっそく作り方を解説していくわね」「豆板醤が一般家庭にあるかは微妙ですけど、無い場合は何かで代用できます?」
「うーん、中華系の何か辛い味噌的なやつならいいと思うけど、無ければピリ辛は無くなるけど普通に味噌を入れてもコクがある味わいになるかもね。 辛いのが苦手な人ならこっちの方がいいかも」
「なるなる」
ユウちゃん――坂本ユウは真剣な表情でメモにレシピを書き込んでいる。 そしてその横で材料をパシャリパシャリと撮りまくる撮影担当の蓮乃レン――レンちゃんもいる。
ちなみにここは私、新田ミナミの自宅でありキッチンだ。 今日は私が在籍する雑誌部でのグルメ企画の取材と称して、家にユウちゃんとレンちゃんを招いて料理を御馳走する手筈となっている。
ちなみに雑誌部は、私が通う都内の学園の部活倶楽部のこと。 月刊誌として、毎月第二週の木曜日に刊行され、主に購買部で販売されている雑誌だ。 雑誌名は『めくりた』。
気になる内容でついついページを『めくりたくなる』という意味が込められた名前だ。
部員数は少ないしページ数も五十ページ弱と少ないけど、部員それぞれ役割分担がされており少数精鋭でこれがなかなか読者に受ける記事を連発している。
その甲斐もあってか学園内での人気もあり、学生の作る面白い雑誌として有名ブログや地域のニュースでも取り上げられたりと、今をときめく部活として方々から注目を集めていたりもする。
今日は来月刊行予定の雑誌の企画であるグルメ特集の中の一つのコーナーとして、スパゲティミナミがおすすめするコスパ最強のオールマイティー料理という枠の取材をしているわけだ。
あ、ちなみにスパゲティミナミというのはペンネームみたいなもので、よく編集者やライター等が記事を作成する際に名乗る名前の事だ。 ライターネームとも言う。
うちの部員には河野カズヤちゃんて子がいるけど、彼もまたクルトンカズヤというペンネームを持っている。 ん? どうして食べ物なのかって?
それは前々々部長がグルメ好きだったからだ。 それはいまや習わしとなり、部員も全員食べ物+名前という組み合わせで成立している。 名づけは当人の意思で決めることはできず、代々部長が名付け親となる。 だから別に私がスパゲティが特別好きだからという理由とかではないから誤解しないでほしい。
「それじゃあさっそく作りながら説明していくけど、いいかな?」
「はい! ミナさんお願いします!」
ユウちゃんには主に記事の最終的な構成や校閲等を担当してもらっている。 対して私は文章を表現して書くのが得意だから、主な役割は記事本文の下書き。 だから活動上ユウちゃんとペアになるとその後の記事制作時にも齟齬が出る事を極力抑える事ができるから相性は良いと思ってる。
「じゃ、まずは調味料合わせから行くわね。 面倒だからいちいち計量しないけど、計量カップとか用意しとくといいかもね。 そうだなあ……醤油、みりんはざっと100ccぐらいで、酒は30ccぐらい、これは目盛り書いてないから感覚かな。 ジャー……ジャぐらいな感じで、砂糖は適当に食卓スプーンで山盛り二杯ぐらいぶち込んで――」
「ちょっと待ってください」
「なに?」
「正確に計量しないんですか?」
「そうよ? だって今回は誰でも手軽にできる絶品料理がテーマでしょ? いちいち計量なんかしてたらメンドイじゃない」
「まあそれもそうですが、でも記事にする際には分量の記載は必須ですよ?」
「なんで?」
「なんでって、あの……料理本とか読んだことあります? 載ってますよ、分量?」
「ああ、見たことあるよ。 でも今回のこれは雑誌部の企画よ? そもそも趣旨が違うじゃない。 料理本は的確に分量を記載して的確に配合すれば誰が料理してもその通りの味になるって目的があるでしょ? 対して今回の企画のテーマは、めちゃ簡単にできるがテーマ。 読者には男子も多いし、料理なんてほとんどの学生がしないと思うのよ。 そんな中で大さじ×6とかやってたら見る気も失せるってもんじゃない? だいたい大さじ×1がどのぐらいのグラムでどんなさじでやるのかとか知らない子も多いんだし」
「そうですけど、でもそれは文章で砕けた感じに書けばいいだけであって、正確な分量のレシピは別途必要だと思います」
「あのね、それ書いちゃうとそもそもの趣旨が合わないのよ。 この人ざっくり作ってる風に見えるけど、ちゃんとしたレシピが書いてあるって事はやっぱりこの通りにやらないといけないんだろうなー俺料理とか苦手だからやめとこ、はいページ速攻めくられておしまい」
「いや、それは分かりますけど、みんながみんな料理をしないわけじゃないですよ? 男子だってする子いると思いますし。 読者にはもちろん女性もいます。 普段から料理を作る子からしたら、アレ? なんでレシピ無いの? ってなりません? 逆にそれこそ正確なレシピが無いから、そんないい加減に料理なんか作りたくないってなって反感を買うかもしれませんよ?」
ピキ。
「は、反感ね……。 あのさ、ユウちゃん企画会議の時に一緒に話聞いてたよね? 猿が読んでも分かる料理の作り方がテーマだ! って、部長言ってなかったっけ?」
「言ってましたよ? でもそれでそういう記事構成はちょっと乱暴ではないですか?」
ピキピキ。
「へえ乱暴? 何が?」
「だからってレシピを書かない、なんてことはないと思います。 ちゃんとレシピの分量も書いて、でも説明文は砕けた感じにしてもらって……そしたら料理する子もしない子も両方納得できると思うんですけど、どうですか?」
「いや、だからね。 レシピを固い印象で見ちゃう子は一定数いるよ? てか大多数だと思う。 優先順位付けるなら、レシピは書かない方が良いと思うなあ」
「あ、もしかしてミナさんB型じゃないですか!?」
「そうだけど、それがなに?」
「だからそう感じるんですよ! ほら、B型の人ってその辺けっこう適当じゃないですか。 私A型なんですけどね? その辺しっかりしてくれないと何か不安になっちゃうんですよ」
ピキピキピッキーン!
さっき相性が良いと言ったわね。 あれは嘘だ。
てか予想はしてた、うん、ちょっとこうなるんじゃないかなあって予感はしてたんだ。
当たり、大当たり。
そう、私とユウちゃんね、相性けっこう悪いのよ。 特に活動内容で揉めることはけっこう今までもあった。 プライベートでは全然そうじゃないんだけど、こと雑誌部関連となるとユウちゃんと関わったらほぼ確実に衝突する。
しかも退かないし、自分の意見は押し通そうとするし……。 ただ、一番厄介なのは全く持って悪気がなくやっていることね。
B型だから適当? はっ! なにそれ凄い言われよう! ええ、ええ確かに血液型診断でB型は嫌われますよ、ええ!
まずおおざっぱ! んで自己中! 気まぐれ! A、B、O、ABの中で一番嫌われやすいのがB型! おめでとう! おめでとう一位! 優勝賞品ちょうだい!
でも残念でした! そんなB型にも他の血液型にはない大きな特徴があるわ。
まず芸術の才能がある! リーダーシップを発揮する! カリスマ性がある! 私の書く下書きあなたいつも見てるでしょ!? 面白い記事になってるわよね!? えぇ!?
同じのあんたに書ける!? その固い頭で! 否! あんたはA型! 私はB型!
私はオンリーワンの才能があるの! 良いから黙って私が記事を下書きするまで待ってなさいよぉおおお!
「あ、あの……」
隣で撮影していたレンちゃんが恐る恐る口を開く。
「とりあえず下書き書いてもらって、詳細なレシピの分量とかを書くか書かないかはその後決めたらどうでしょうか?」
レンちゃんはたどたどしい口調でそう言った。 あら、この子察知能力良いわね。
この今のピリピリムードを感じ取ってこの場を丸く収めようとしてくれてるのね。
「でもハーシー?」
ハーシーというのはユウちゃんが名付けた蓮乃レンちゃんの愛称だ。
「私が最終的に記事の構成と校閲をするから、その分量でやって正確かどうかを確かめなきゃいけないんだよ。 間違った分量は載せられないからさ」
「そ、そうですよね。 そんなんですけど……」
一気に萎縮するレンちゃん。
ちなみに学年は私が三年で、ユウちゃんが二年。 レンちゃんは一年だ。 そりゃ先輩のユウちゃんに口答えは出来ないわよね。 でもレンちゃんよく頑張った。 ここからは任せなさい。
「ユウちゃん気張りすぎ。 大丈夫よそんなに固くならなくて。 てか、そんなにレシピ載せたいなら、いっそホームページのURLでも載せてホームページ上で載せとく? 詳しい分量を知りたい方はこちらまで! みたいな」
「いや、誌面上で載せたいんです」
駄目だっつってんだろしつこいなぁあああ!?
なになになにこの子!? 私の最大限の譲歩を無下にする気!? てかお前後輩だろうが! 先輩にたてついてんじゃ――は! いけないいけない。 そういう関係私はあんまり好きじゃないんだ。 てか私にダークを引き出させないでくれるかなあ!
「私はBEST! ベストな記事を書きたいんです。 レシピのないグルメ記事なんか楽器を持ってるのにa cappella、アカペラで歌うようなものだと思うんです」
その何かよくわからない例えと不必要な横文字の発音やめてくれないぃいい!?
普通に宝の持ち腐れとか、こうもっと伝わりやすい言い方あるでしょ!? なんでこの子は人の神経を容易く逆撫でしてくるかなあ!
「はあ……わかったわ。 そこまで言うならレシピ分量は書いておくわ。 ただしコーナーの終わりのページに書くから。 しっかり確実に作りたい方はこちらのレシピを参考にしてね、みたいな」
「ああ、それ良いですね。 それなら記事の文の妨げにもならないし、料理好きな子も納得してくれそうです!」
「でしょ?」
はあ……やっと納得したかユウちゃん。 疲れた……。
「じゃあ、改めて続き、作りながら説明していくからちゃんと聞いててね」
「はい!」
「ええっと、どこまで話したっけ……そうそう、砂糖をこのぐらい用意しといて、豆板醤のチューブをこんぐらいと、オイスターソースも3~4滴混ぜて――」
「待ってください」
「ん?」
「正確な分量で作った味を確かめないといけないので、正確に量ってくれませんか?」
ブチブチブッチーン!
※
「ごちそうさまでした!」
「お、美味しかったですねユウさん」
「うん、こりゃ美味しい! こんなにお手軽レシピでこんな深い味わいができるなんて感動しちゃいました!」
「はは……ありがとう。 いつも目分量でやるんだけど、久々に正確に量ってやったわ」
「ミナさんけっこう料理するんですか?」
「ええ、うちお母さんが居ないからね。 お父さんも料理作ってくれる事もあるんだけど、仕事で忙しいからだいたい私が作るのよ」
「へえ! そうなんですね! お父さんは幸せですね。 ミナさんの手料理をいつも食べられて!」
「それぐらいやらないとね。 なんせ男手一つで育ててくれたし、数少ない親孝行だと思ってやってるよ」
「す、素敵な話……」
レンちゃんはそう言うと私の写真をパシャパシャ撮り始めた。
「やめなさいよ? しんみりしちゃうから記事にもこの話は書かないからね」
「ええ~! なんでですか! ミナさん、頑張ってるじゃないですか! その頑張り、もっと読者の人にも伝えたいです!」
「やめてやめて、私は良いからぁ」
「だーめです! だって、ミナさん彼氏居ないですよね?」
「え? ええ、まあ」
「男は心の籠った美味しい料理が食べたいんです! こんなに純情な心で作った料理を俺も食べたい~って思う子は絶対居るはずですし! そんなエピソードがあれば尚更!」
「ちょっとちょっと、誰が彼氏募集中だって? 私は別に彼氏ほしいなんて思ってないよ」
「うん、言い方を変えます! ミナさんの料理をもっと他のみんなにも食べてもらいたいんです! だから、今度は『めくりた』のメンバーみんなでミナさんの料理の食事会をしたいです! ね? ハーシーもそう思うでしょ?」
「確かに……」
「まったくそんなにおだてて……何が目的かなあ?」
「ミナさんの料理が目的でっす!」
まったくこの子は。 ほんと、プライベートになるとかわいく思えちゃうんだから。
「しょうがないなあ。 じゃあその代わり、食材費はみんなで持ち合わせね」
「いやったー!」
※
――用意するのはこれだけ!
(1~2人前) 肉! もやし! 砂糖! 醤油! 酒! みりん! 酢! おろしにんにく! 豆板醤!(辛いのが苦手なら味噌でも可!) オイスターソース!(無くても可!)
まずは醤油とみりんを各100ccぐらい入れる! あのよくある手のひらサイズの小さいグラスぐらいの量ね! 分量は目分量でオーケーだがなるべく多めかなあって感じでオーケー! そしたそこに料理酒もジョボ! ジョボ! な感じで入れる! そこに砂糖を食器用スプーンで二杯混ぜ、豆板醤を第二関節ぐらいまで入れてオイスターソースもボト! ボト! ってな感じで二滴ぐらい入れて混ぜ合わせたら、今度は熱したフライパンに油をサッと振って肉を炒めよう!
火が通ってきたら合わせた調味料をドボン!
一分ぐらい炒めておろしにんにくを入れたらとうとうもやし投入!
もやしが透き通るまで炒めて味も絡めちゃおう! んでもう良いかなって思った頃に酢をさっと回し入れてひと絡めしたらもう完成!
『ピリ辛もやし肉炒め!』 お好みでブラックペッパーもかけちゃおう!
ここまで作って気付いた方も多いと思うが、汁がけっこう多い! その汁は別で取っておいて保存しておこう!
そばやそうめんのつけ汁にも合うし、パスタなんかにも合うぞ!
又、豆乳(無ければ牛乳でも可!)をちょっと足すことでピリ辛豆乳うどんや豆乳そば、ご飯にかければ豆乳飯、豆乳ラーメンなんかも出来ちゃう! 肉のダシや豆板醤が効いているのでコクのある味わい深い逸品となること間違いなし! 一度で二度楽しめる!
是非お試しあれ!
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