⑱ 好感度は結婚への絶対条件
俺たち一行は順調に魔物を倒しながら進んでいった。だいたい一時間ほどでザンザス大森林を抜けることができた。
ただ、だいぶTPとMPを消耗してしまった。それらを回復させるアイテムは物語の序盤では手に入らないから、できるかぎり節約したつもりだったんだけどな。
でも、まだレベルの低い四人を庇いながらだと仕方ないよな。それに、おかげでみんなとは良好な信頼関係が築けたし。それでよしとしよう。
……っと、一度ステータスを確認しておくか。
※ ※ ※
エリック
クラス:村人
種 族:ヒューマン
レベル:52
H P:35/35
T P:10/30
M P: 7/27
攻撃力:45
守備力:38
魔 攻:29
魔 防:28
素早さ:42
幸 運:30
装 備:銀の槍
皮の胸当て
木綿のバンダナ
レザーブーツ
タリスマン
シルフの指輪
技 :『刺突』(消費TP:0)
→敵単体に攻撃力✕1.0の物理ダメージ
『横薙ぎ』(消費TP:3)
→射程範囲内の敵全体に攻撃力✕1.0の
物理ダメージ
『兜砕き』(消費TP:5)
→敵単体に攻撃力✕1.5の物理ダメージ
『二連突き』(消費TP:5)
→敵単体に二回、攻撃力✕1.2の物理
ダメージ
『足払い』(消費TP:5)
→敵単体に攻撃力✕1.2の物理ダメージ
→低確率でスタン
『石突き打ち』(消費TP:5)
→敵単体に攻撃力✕1.2の物理ダメージ
→敵のHPを必ず1だけ残す
『捻転穿』(消費TP:8)
→敵単体に攻撃力✕1.8の物理ダメージ
『急所突き』(消費TP:8)
→敵単体に攻撃力✕1.5の物理ダメージ
→低確率で即死
『乱れ独楽』(消費TP:8)
→射程範囲内の敵全体に攻撃力✕1.5の
物理ダメージ
『三連突き』(消費TP:10)
→敵単体に三回、攻撃力✕1.8の物理
ダメージ
『飛燕一貫』(消費TP:10)
→敵単体に攻撃力✕1.8の物理ダメージ
→必中
『心眼』(消費TP:10)
→回避率+50%
→命中率+50%
→効果時間:60秒
魔 法:『ファイア』(消費MP:3)
→敵単体に魔攻✕1.2の火属性ダメージ
『エルファイア』(消費MP:5)
→敵単体に魔攻✕1.5の火属性ダメージ
『ウィンド』(消費MP:3)
→敵単体に魔攻✕1.2の風属性ダメージ
『エルウィンド』(消費MP:5)
→敵単体に魔攻✕1.5の風属性ダメージ
『フロスト』(消費MP:3)
→敵単体に魔攻✕1.2の氷属性ダメージ
『エルフロスト』(消費MP:5)
→敵単体に魔攻✕1.5の氷属性ダメージ
『サンダー』(消費MP:3)
→敵単体に魔攻✕1.2の雷属性ダメージ
『エルサンダー』(消費MP:5)
→敵単体に魔攻✕1.5の雷属性ダメージ
※ ※ ※
そうだ。レベルが52になって、新たに【心眼】という技を覚えられたんだった。これを使うと回避率と命中率が上昇するんだよな。能力値全般がノーブルヴァンパイアに比べて
効果時間が60秒と短いし、残りTPが10しかないから一度しか使えないけど、それで十分。あとは俺の知識と経験があればステータスの差もカバーできるはずだ。うん。
イベントボスとの戦いに明るい見通しがたったところで、俺は原作知識を思い出しながら西へ進む。やがて、目的地である廃鉱山の入り口を発見することができた。
俺は早速、持参した
「暗いから足下に注意しろよ」
鉱物を運び出すための道は
……お? そういえば、リンを仲間にしていると、ここで重要なイベントが発生するんじゃ―――
「ひゃっ!?」
なんて考えていた矢先、背後から短い悲鳴が届いてきた。
首を巡らせてみると、リンが地面に尻もちをついている。
原作と同じように、滑って転倒したらしい。
ゲームなら、ここで選択肢が出てくるところだな。≪リンを助け起こす≫か≪そのままジッと眺める≫っていう。
その選択によって好感度が上がったり下がったりするんだ。
なぜならリンは今、膝丈の袴がずり上がって太ももの大部分が露わになってしまっている状態だ。
彼女が着用しているのは馬乗り袴ではなく
で、当然だが、ここでスケベ心を優先すると好感度が下がる。
ヒロインたちの好感度ってのはゲームではとても重要な要素で、様々なイベントを発生させる条件になっている。とくに、好感度をMAXまで高めることが、そのヒロインと結婚するための絶対条件だった。
……って、おい。そんな重要なイベントを俺が発生させちゃったってのは問題じゃね? 本来なら、主人公であるマルスのために用意されていたものだし。
……でも、そうはいっても避けられなかったか。不可抗力だよな、これは。なんせ、その主人公を助けるために来てるんだもん。
それに、よくよく考えてみたら気にすることじゃないよな。好感度って、こういうイベントに関係なく上下するみたいだし。マルスがヒロインたちに嫌われてるのがいい証拠だ。
うん、なんの問題もないじゃないか。
一人で納得すると、俺は思考に没頭していた意識を現実に戻した。
そして俺は、リンを助け起こすことにした。
そりゃそうだろ。好感度が下がる選択肢なんて選べないって。大好きなヒロインに嫌われたくないっての。
なので俺は、そちらに吸い寄せられそうになる視線を必死にそらした。そりゃあもう、見たいという強い欲求に全力で抗ったさ。
「大丈夫か?」
で、俺は視線を下げないように意識しながら、リンのそばへ駆けていって手を差し伸べた。
「……かたじけない」
無愛想な口調で礼を述べると、リンは俺の手をとった。女性には似つかわしくない無骨な感触が伝わってくる。それだけ真摯に剣と向き合っている証拠だろう。
彼女は立ち上がると、パンパンとお尻の土埃を払った。
「足首を捻ったりしてないか?」
「(フルフル)」
リンが首を横に振る。
「そっか。気をつけろよ」
「(コクリ)」
うんうん。最初のころのリンはこんな感じだよな。必要以上に他人と会話をしようとしないんだ。
本当の彼女は人一倍よく喋るんだけれどな。
それなのになぜ寡黙を装っているのかっていうと、喋り方がおかしいってバカにされ、イジメられた過去があるからだ。
東方の武士みたいな言葉づかいはこっちの人たちにはなじみが薄くて奇異に感じられるらしい。
それで彼女はショックを受けて心を閉ざし、あまり口を開かなくなっちゃったってわけだ。
このバックグラウンドを知っていると、主人公に少しずつ心を開いて打ち解けていくにつれてリンの口数が増えていく過程が最高にエモいんだよなぁ。すげぇホッコリする。
……まあ、俺は途中でパーティを脱退するし、その感動を体験できるほど仲良くなることはできないんだけどな。
◆ ◇ ◆
奥へ進んで行くと、にわかにヴァイオリンの音色が聞こえてきた。坑道の壁にはメロディがよく響く。寂れた廃鉱山には場違いな美しい旋律がなんとも不気味だった。
アメリアがポツリとつぶやく。
「これ、ヴァンパイアが弾いてるの?」
「そうだろうな」
ノーブルヴァンパイアは食事の前に必ずヴァイオリンを奏でるんだ。それがヤツのルーティーン。俺たちが「いただきます」って言うようなものだな。
これを聞いた女性たちはいっせいに震え上がるだろう。この音が止んだとき、誰かが血を吸われるんだもの。
ヤツは、女性の恐怖に引きつった顔をできるだけ長く眺めるのが趣味だから一度に血を吸いつくすことはないが、それでも死なない保証はない。彼女たちが実感する恐怖は死刑台に上らされるのに等しいだろう。
その心情を推し量ると、いたたまれなくなった。自然と歩調が速くなる。網の目のように入り組んだ道をずんずん進んで行く。
やがて、俺たちは開かれた場所へ出た。ヴァイオリンの音が鳴り止む。
「……ほう、千客万来だな」
低く威厳のある声が坑道内に響き、ノーブルヴァンパイアがこちらに気づいて振り返る。その顔が、やにわに笑顔へ変わった。口内の鋭いキバがむき出しになる。
「これはこれは! 見目麗しい女性ばかりではないか!」
ヴァイオリンを放り投げ、大げさに腕を広げる。どうやら歓迎されているようだな。俺以外は。
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