⑯ いざ、マルス救出へ
ヴァンパイアを倒した後、俺はタルに入れられていた街の人たちを助け出した。みんな気を失っていただけで大きなケガはしていなかった。
俺は、オルレイン子爵が意識を取り戻してから、ここで起きたことを説明した。
そしたらゲームと同じように、『君は、私や領民たちの命の恩人だ!』って泣きながら感謝されたわ。そんなにたいしたことしてないから喜び半分、戸惑い半分だったが。
んで、これまたゲーム通りに褒美をもらえたわ。それがこれ。
【タリスマン】
・天使の涙が凝固して出来たと言い伝えられている御守り。毒・麻痺・幻覚・沈黙・石化を防ぐ。
5つの状態異常を防いでくれるアクセサリーだ。序盤で手に入るものの中でダントツに優秀な効果をしている。サブクエストをクリアすることで獲得できる報酬は高性能なものばかりだけど、とくにこいつは終盤まで使える。
でも、主人公を差し置いて俺がもらっちゃってよかったのか? ……いや、あいつならこの先もっといいものをいくらでも手に入れられるだろうからかまわないだろう。俺はそれにヒモを通し、ペンダントにして首から下げた。
ちなみに次の日、エルキナの領主様からはこれをもらった。
【シルフの指輪】
・風の精霊の加護を得られる指輪。素早さ+5。
これはうれしい。素早さが上がるアイテムは非常に重要だからな。こっちの動きが遅いと敵に攻撃を当てられないし、敵の攻撃を避けることもままならないもの。
この世界だと、素早さの能力値が20も離れるとカメとウサギくらいの差がつくんだ。だから、5上がるだけでも相当なアドバンテージを得られる。
こういう能力アップ系のアイテムはマジでありがたい。
◆ ◇ ◆
翌日―――
「え? 旅に出る?」
「うん」
俺は、魔王討伐を目的としたパーティに加わることをアメリアに打ち明けた。
「どうしてもって頼まれて断れなくてさ。それにこれ以上、魔王軍の侵攻を許すわけにはいかないしさ。ははっ」
と、口から出まかせを並べ立てた。おっぱいに負けて参加することになったっていう情けない理由は口が裂けても言えないもんな。この秘密は墓場まで持って行かないと。
「そっか。魔王退治に……」
俺が苦笑していると、アメリアが戸惑った様子でうつむいた。
そのまましばらく
それから、ふいに顔を上げたかと思うと、決然と宣言した。
「じゃあ、私もついて行くわ!」
「え?」
「私、ずっと悩んでたの。あんな危険な魔王軍を放っといていいのかって。どんどん被害が増えていくのを黙って指を咥えて見ているだけでいいのかって。でも、やっぱりちょっと怖いから戦う決心がつかなかったの。けれど……あなたと一緒なら、怖くても頑張れるから!」
アメリアが胸の前でギュッと拳を握りしめた。
お、おう。背中にゴゴゴッて擬音が見えるわ。すっごいやる気に満ちあふれてるじゃないの。俺なんて、どのタイミングでパーティを抜けようかってことばかり考えてるってのに。
「エリック! 力を合わせて、絶対に魔王を倒しましょうね!」
「!?」
彼女とのテンションの高低差が激しすぎて耳がキーンとなっていると、鼻息を荒くしながらアメリアが俺の腕に抱きついた。上目づかいに見つめてくる。
ほどよい弾力の豊球が俺の腕を両サイドから圧迫する。服越しに伝わってくる体温と心地よさが俺の脈拍を早める。
「う、あ、は、はい」
おかげで、俺はしどろもどろになってしまった。
うぅ、俺ってやつは、とことんおっぱいに弱んだなぁ。
◆ ◇ ◆
その後、俺はアメリアを他の三人に紹介した。アメリアは彼女たちとすぐに打ち解けたようだった。コミュ力が天元突破してるよなぁ。友達のいない陰キャボッチの俺とは大違いだ。
と、うらやましがる一幕もありつつ、俺はエルキナの領主様から報酬をもらった後、ヴァンパイアに特攻のある銀の槍を買って装備した。鋼の槍に比べて攻撃力は劣るけど、吸血鬼系の魔物への与ダメージが1.5倍になるからな。
現在のステータスはこんな感じだ。
※ ※ ※
エリック
クラス:村人
種 族:ヒューマン
レベル:50
H P:34/34
T P:30/30
M P:26/26
攻撃力:43 ←【DOWN】
守備力:37
魔 攻:28
魔 防:28
素早さ:40 ←【UP】
幸 運:29
装 備:銀の槍 ←【NEW】
皮の胸当て
木綿のバンダナ
レザーブーツ
タリスマン ←【NEW】
シルフの指輪 ←【NEW】
技 :『刺突』(消費TP:0)
→敵単体に攻撃力✕1.0の物理ダメージ
『横薙ぎ』(消費TP:3)
→射程範囲内の敵全体に攻撃力✕1.0の
物理ダメージ
『兜砕き』(消費TP:5)
→敵単体に攻撃力✕1.5の物理ダメージ
『二連突き』(消費TP:5)
→敵単体に二回、攻撃力✕1.2の物理
ダメージ
『足払い』(消費TP:5)
→敵単体に攻撃力✕1.2の物理ダメージ
→低確率でスタン
『石突き打ち』(消費TP:5)
→敵単体に攻撃力✕1.2の物理ダメージ
→敵のHPを必ず1だけ残す
『捻転穿』(消費TP:8)
→敵単体に攻撃力✕1.8の物理ダメージ
『急所突き』(消費TP:8)
→敵単体に攻撃力✕1.5の物理ダメージ
→クリティカル発生率+30%
『乱れ独楽』(消費TP:8)
→射程範囲内の敵全体に攻撃力✕1.5の
物理ダメージ
『三連突き』(消費TP:10)
→敵単体に三回、攻撃力✕1.8の物理
ダメージ
『飛燕一貫』(消費TP:10)
→敵単体に攻撃力✕1.8の物理ダメージ
→必中
魔 法:『ファイア』(消費MP:3)
→敵単体に魔攻✕1.2の火属性ダメージ
『エルファイア』(消費MP:5)
→敵単体に魔攻✕1.5の火属性ダメージ
『ウィンド』(消費MP:3)
→敵単体に魔攻✕1.2の風属性ダメージ
『エルウィンド』(消費MP:5)
→敵単体に魔攻✕1.5の風属性ダメージ
『フロスト』(消費MP:3)
→敵単体に魔攻✕1.2の氷属性ダメージ
『エルフロスト』(消費MP:5)
→敵単体に魔攻✕1.5の氷属性ダメージ
『サンダー』(消費MP:3)
→敵単体に魔攻✕1.2の雷属性ダメージ
『エルサンダー』(消費MP:5)
→敵単体に魔攻✕1.5の雷属性ダメージ
※ ※ ※
こうして、装備を整えた俺はアメリア・シエラ・オフィーリア・リンの4人とともにザンザス大森林へと赴いた。目的はイベントボスであるノーブルヴァンパイアを倒してマルスを救出することだ。
なぜマルスの救出が目的に含まれているのかというと、昨夜ある可能性に気づいたからだ。ひょっとするとマルスは、敵が変化していることを知らずに廃鉱山へ向かったのかもしれないって。
そう考えて、俺はマルスの動向を調べた。
昨日の昼間に道具屋でヴァンパイアに有効なアイテムを買って出かけたあと、それっきりエルキナには戻ってきていないらしい。門番の兵士に話を聞いたのでたしかだろう。
ノーブルヴァンパイアを倒したのなら、拐われた人々を連れて戻ってくるはずだから、まだ討伐できていないと分かる。
このことから、マルスはノーブルヴァンパイアに戦いを挑んで負けたと考えるのが妥当だろう。
急いで助け出さないとマズい。
ゲーム本編ではノーブルヴァンパイアに負けると、ヤツらの主であるセレナーデがやってきて引き取っていくムービーが流れるんだ。だからきっと、マルスも連れていかれてしまう。そうなったら俺にはどうしようもできないから、その前に救出しないと。
マルスは絶対に死なせられないぞ。
ゲームなら、主人公が死ねばそこで終了だ。世界が魔王軍に支配されるバッドエンドを迎える。きっと、現実化したこの世界も同じ運命を辿ることになるだろう。
しかも、ゲームと違ってセーブもロードもできないんだ。やり直しがきかない。だから、マルスにはなんとしても魔王を倒してもらわないと。
この世界のため、ひいては俺の平穏なセカンドライフのために!
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