⑮ 対決! ヴァンパイア
「オルレイン様が……二人?」
混乱しながら交互に見比べてみる。二人は全く同じ顔、全く同じ背格好だった。見分けがつかない。
けれど、状況から判断するに、縛られている方が本物だろう。
「お前、オルレイン様じゃないな? 何者だ?」
俺は眼前の男を警戒しながら
「ふっ、もう隠す必要もないか。お察しの通り、オレは領主じゃない。今から真の姿を見せてやるよ」
そう告げたのを皮切りに、彼の肉体は形を変えていった。体毛が急激に伸び縮みし、皮膚が奇妙に
俺が顔をしかめ、胃の内容物が逆流しそうになるのをこらえていると、変化は間もなく収束した。
「ふははは、見ろ! これがオレの真の姿だ!」
そこには、青白い肌に真紅の瞳の青年が現れた。
「なっ!? ヴァンパイア!?」
「くくくっ、いかにも!」
「どうしてこんなところに……」
「人間を集めるのに都合がいいからだ。このオルレインというヤツになりかわって、こいつの地位を利用すれば簡単に食料を呼べるんでな」
違う。俺が疑問に思ったのはそこじゃない。
どうしてヴァンパイアが人の屋敷にいるのかってことだ。街には出現しないはずなのに……。
いや、ちょっとまて。このシチュエーション、どこかで………………………はっ!
記憶の引き出しを片っ端から開けていった結果、俺はついに思い出した。あるサブクエストの存在を。
たしか、このサブクエストは領主に化けたヴァンパイアを退治するって内容だった。そういえば、領主の名前はオルレインだったっけ。俺も一度しかやったことがないからすっかり忘れてた。
でも、このサブクエストってゲームの隠し要素で、ある条件を2つ満たさないと発生しないんだよな。
【主人公がシエラ・オフィーリア・リンを仲間にしていない状態でレベル20に到達すること】と【一定数のジャイアントバットを倒すこと】だ。
ふむ……。おそらく、マルスがこの条件をクリアしたんだろう。
「マジかよ」
あいつ、なに考えてるんだ? あの条件を満たすと、ゲーム本編にも変化が起きるんだぞ。
ザンザス大森林に出現する魔物やイベントボスが強くなるんだ。
どうしてわざわざハードモードにしたんだ? イベントボスのノーブルヴァンパイアを倒したときに入手できるレア素材が欲しかったのか?
あれはイベントボスとして登場する個体からしかドロップしない素材で、それから作れる武器は終盤まで使える高性能なものだが。
……それとも、たまたま知らずに条件を満たしちゃったか?
「う〜ん……。ゲームを1回や2回クリアした程度じゃ分からないことが多いし、そっちの可能性も十分にありうるな」
だとしたら気の毒だ。わけも分からないまま強い魔物たちと戦う
などと推測していると、ヴァンパイアが高笑いした。
「ぎゃはははははは! 喜べ人間! お前はこれから、我が主様へ献上されるんだ! 偉大なるヴァンパイアの頂点にして魔王軍幹部が
ああ、そうだったな。こいつの目的は若い人間の男を捕まえて、
俺の脳裏に、彼女の記憶が蘇ってくる。
外見は、オフィーリアに勝るとも劣らないダイナマイトボディの妖艶な女性だが、性格は残忍で狡猾。それでいて強さは幹部の中で一番だ。変則的な攻撃を仕掛けてくるから魔王より苦戦した覚えがある。
何回も殺されたなぁ。はぁ、イヤな思い出だ。軽くトラウマになってるし。
……って、おい! 俺、あいつのエサにされそうになってるのか!? うげぇ、冗談じゃないって! もしそうなったら、ひどい拷問をされながら干からびるまで血を吸われて死ぬぞ! うぅ、ブルブルッ!
辿ることになるかもしれない最悪の未来を想像して身震いしていると、ヴァンパイアが
「くははは! セレナーデ様の名を聞いた途端、震えだしやがった! いいぞ、もっと恐怖しろ! セレナーデ様が言うには、人間の血は負の感情が大きいほど美味くなるらしいからよぉ!」
言い終えると、そいつは臨戦態勢をとった。
「さてさてさぁて、下ごしらえもバッチリなことだし、そろそろタルに詰めておかねぇとな! おい、お前! セレナーデ様に引き取られたあとは、しっかりと仕事をしろよ! セレナーデ様に血を吸われるだけの簡単なお仕事をよぉ! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
ひとしきり笑うと、ヴァンパイアが再び殴りかかってきた。俺はバックステップでそれを
「うおおおおおおっ! 生贄になんてされてたまるかっ!」
「だりゃあ!」
「おっと!」
そいつがさらに拳を繰り出してくる。俺は右に左に体をスライドさせながら、すべての攻撃を
「ていっ!」
「むっ!」
そこから俺も負けじと反撃する。人が入れられているであろうタルに当てないように注意しながら槍で突きまくる。が、当たらない。インパクトの瞬間、霧になることで攻撃を無効化してくる。
そういえば、サブクエストのヴァンパイアは通常より回避率が高く設定されているんだったわ。だから、なかなか捉えられない。
しばらく、お互いに決定打がないまま時が流れた。
「ええい、ちょこまかと逃げやがって!」
「そりゃあ、こっちのセリフだっての!」
うぐぐ、このままじゃ
俺は後頭部をポリポリ
……おっ、そうだ。最近、習得したばかりのあの技を使おう。
そう決意し、俺は槍を構えた。
そして一呼吸したのち、心の中で覚えたばかりの技の名称を唱えた。
すると、俺の身体は静止状態から急激に加速した。刹那の速度で相手に肉薄する。かと思えば、またたく間にヴァンパイアの
「ぐがっ!?」
ヴァンパイアが両目を大きく開く。信じられないといった表情だ。
「ば、ばかな……なんだその速さは……? オレでも……ヴァンパイアであるオレの目でも……捉えらんねぇだなんて……」
ほう、やっぱりそうなのか。
俺が使ったのは【
この効果のある技は敵に必ず当たる。それは敵に目視されないほどの速さで攻撃するからだ―――っていう設定だったが、こいつの感想を聞いたかぎりだと間違いないようだな。自分じゃ、どのくらいの速度なのかイマイチ判然としなかったが、効果に偽りないことが分かってよかったよ。
「お前……いったい……何者なんだ……?」
ヴァンパイアが息も絶え絶えに尋ねてくる。それに対し、俺は涼しい顔で告げた。
「別に、たいした者じゃない。ただの村人だよ」
俺は槍を引き抜く。
ほどなくして、ヴァンパイアは光の粒子を周囲にまき散らしながら消えていった。
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