⑬ おっぱいには勝てなかったよ
俺が……ヒロインたちのパーティに? なぜ? どうして? Why?
寝耳に水の提案にフリーズしていると、オフィーリアが言葉を継いだ。
「エリックさんもご存知の通り、私たちは魔王軍を打倒しようと立ち上がった同志たちです。魔物に支配されようとしている世を
「えっと……俺、ただの村人だぜ? もっと相応しい人物がいるんじゃないか?」
「いいえ、エリックさんほどの御方はおりません。あなたは高い戦闘能力に幅広い知識、困っている者に手を差し伸べられる慈悲深さまで兼ね備えた素晴らしい人物なのですから」
そこで言葉を切ると、オフィーリアが真剣な表情で俺と視線を合わせてきた。
「是非とも我々の同志になってください。ともに世界を平和へと導きましょう」
「そ、そんなこと急に言われても……」
魔王軍と戦うなんて無理だよ。無理無理無理。
だって俺、クソ雑魚モブ野郎だぜ? メチャクチャ弱いからな?
今は俺の方がずっとレベルが上だろうから強いって感じてると思うけど、すげぇ低スペックなんだよ。みんなと違ってさ。
おそらく、レベルをMAXの100にしたところでBランクの魔物とどっこいどっこいのステータスにしかならないだろう。
この世界に存在する最強の隠し武具をいくつか装備できれば話は変わってくるけど、どれもこれも入手するのが困難だしなぁ。
特定のヒロインが仲間になっていないと獲得できなかったり、敵国の王様が所持していたり、大昔に海の底へと沈んだ海賊船の船内にあったり、カジノで大量のコインと引き換えにもらえる景品だったり、足を踏み入れたら二度と出てこられないと言われている古代遺跡の最奥部にあったり、王国中の猛者たちが参加する武術大会の優勝賞品だったり、出現率が極低の魔物からドロップする素材がないと作れなかったりしてさ。
入手するのが不可能ってほどじゃないけど、かなり厳しい。つまり、俺はSランクの魔王どころかAランクの魔物である魔王軍の幹部たちにさえ太刀打ちできないってことだ。
彼女たちと一緒に旅をして回って魔王軍を撃破していけば、いずれそいつらに目をつけられてしまう。ヤツらに襲われたら俺なんて、あっという間に殺されてしまうだろうさ。
そんなの嫌だよ。
俺には夢があるんだ。このゲーム世界で金を貯めて、家を買って、結婚するっていう夢が。
元の世界で叶うことのなかった夢を、手にすることのできなかった幸せを、ここで
だから絶対に死ぬわけにはいかないんだよ。
パーティに誘ってもらえたのは正直うれしかったけど、俺はみんなと一緒には行けない。
断ろう。
そう決意し、辞退させてもらうと切り出そうとした。
……しかし、その矢先。
「お願いします、エリックさん」
なかなか首を縦に振らない俺に、しびれを切らしたのだろう。オフィーリアが俺の左手を両手で包むように握ってきた。俺の手をグイッと自身の胸元へ引き込む。
モニュンッ―――
「!?」
ふいに左腕に柔らかい感触を覚えた。そちらが気になって目を向ける。
見ると、俺の左腕がオフィーリアの胸の谷間に埋まっていた。
「なっ、なななっ!?」
うおおおおおお、挟まってる! 二匹のスライムにサンドイッチされちゃってるぅ!
温かい水風船みたいな弾力と張りがある流動体に、左手首から肘までをすっぽり包み込まれていた。ものすごく心地いい。
うっ、ヤバい。本人は無自覚でやってるんだろうが、やられてるこっちはたまらんですよ。
オフィーリアって、こういう天然の男たらしムーブをするキャラなんだよな。自然と男を翻弄してくる。その姿はまるで色欲の悪魔だ。神官なのに。
……とか考えてる間に、おっぱいのパワーでのぼせてきた。
ク、クラクラする。
「私たちとともに来てください。ぜひとも、エリックさんの
甘くてセクシーなソプラノの声で懇願される。
左腕に特大のバストから受ける極上の感触との相乗効果で脳が震える。
熱に浮かされた頭に、オフィーリアの声がすり込まれるように浸透していく。
なんだかOKしてもいいような……むしろOKしなければいけないような気になってきて………はっ!
いかんいかん! おっぱいの心地よさで判断力が鈍ってたわ!
これはあれだ、警察が容疑者に自白させるための手法に似てる!
あぶねぇ!
このままだと、うっかり仲間になるって言ってしまう!
気をしっかりもたないと!
「どうか、
耐えろ!
屈するな!
おっぱいなんかに負けちゃダメだ!
負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ!
ムニムニッ―――
ぐうぅ、ま、負けない!
たとえどんな快感に襲われようと、俺は決して己の意思を曲げたりなんかしない!
一度こうすると決めたなら最後まで貫き通す!
それが真の男ってもんじゃろがいっ!
フヨンフヨン―――
真の男である俺は、絶対に意志を曲げたりなんかせんのだ!
曲げたりなんか……
ギュムギュム―――
曲げ……
グニグニ―――
……
プルルンプルルン―――
………………んぎもぢいいい!
「エリックさん、何度も言って恐縮ですが、仲間になっていただけませんか?」
「……な、なりますぅ」
俺……俺……おっぱいには勝てなかったよ。
◆ ◇ ◆
「ふふんっ、よかったわねエリック。これで、あたしみたいな可愛い女の子と一緒に旅ができるのよ。泣いて喜びなさい」
シエラが控え目な胸を堂々と張って得意げな顔をする。
自分で自分のことを可愛いって言っちゃうか。ナルシストさんめ。まあ、事実だけども。
「では、今日はもう遅いですし、我々はお
オフィーリアが腰を上げると、他の二人も席を立った。
「それでは、明日からよろしくお願いいたします」
「じゃ~ね~」
「失礼した」
「あ、ああ。それじゃあ、また明日」
三人が宿屋のある方へ歩いていくのを見送ってから、俺はそっとドアを閉める。
その瞬間、どっと疲れがきて、バタンとベッドに倒れるように体を沈めた。
「………………やっちまった」
胸に激しい後悔の波が押し寄せてきて、俺は深くため息をついた。
「自分の落ち度とはいえ、面倒なことになったなぁ。どうにか断れないか? ……でも、一度OKしてしまったものをすぐに断るわけにもいかないしなぁ。はぁ~、どうしよう?」
ベッドの上を右に左にゴロゴロ転がりながら考える。
う~ん……………………。
やっぱり、しばらくは一緒に行動するしかないか。それで、頃合いを見計らって脱退させてもらおう。
いずれ、俺の実力不足が目立ってくるだろうし、パーティを抜ける理由としてはそれで申し分ないだろうからな。よし、そういう流れでいこう。
トントントン―――
お? 今度こそ迎えが来たのかな?
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